「世界ひと模様 ドットワールド動画コンテストVol.2」グランプリ 受賞コメント

「Bodies for Change」に込めた思い

ルワンダで「アート×国際貢献」に開眼

 私は、学生時代にルワンダの国連開発計画(UNDP)で広報官として働いたのを機に、「アート×国際貢献」を人生の軸にしたいと思うようになりました。特に、デザインや写真、映像が社会にもたらすインパクトの大きさに魅了され、以来、学問的にもアクティビズムにおける映像の効果や広報戦略などについて研究してきました。

 ドキュメンタリー映像制作に本格的に携わるようになったのは、イギリスの大学院に留学していた時です。国際開発の理論を学びながら、ホームレスやLGBTQ、新型コロナウイルスといった視点から環境破壊の問題を考え、映像を通じて発信しました。現在は、「最先端技術×アート×国際貢献」をビジネスの軸としたIT企業に所属し、映像クリエイターとして会社のビジョンムービーやインハウスサービスの広告動画などの制作に携わっています。

根深い社会課題と「個の平和」

 本作「Bodies for Change」は、日本人の私と、アルゼンチン人、そしてスペイン人の共同監督作品です。日本語のタイトルをつけるとすれば、「身体的社会正義」といったところでしょうか。私たちは3人ともグローバルな経歴を持ち、世界中でさまざまな社会問題を間近に経験してきました。 そんな私たちが共通して抱いていた懸念が、「地球規模の課題の根深さに押しつぶされ、時に地球の未来に絶望しそうになること、その中で個人としての心と身体の平安を保つこと」でした。”外国人”としてイギリスで生活する中で3人が日々感じていた人種差別や性差別、あるいは地球温暖化や政治腐敗をはじめとした社会問題を常に意識し、アクティビストとして発信し続けてきた中で、「個の平和」は、喫緊の課題でした。Black Lives Matterや新型コロナウイルスの大流行など、世界的規模の社会問題に人類が翻弄されている2020年にこの世界共通の課題を発信しなければと、本作の制作に取りかかりました。

 この映画の主人公は、ノンバイナリーのダンサー、カミーユ・バートンです。カミーユは、ライブアートを通じて、社会問題に起因するストレスやトラウマの克服を試みています。社会情勢に対する精神的な不安や、その結果として現れる身体的な症状をどうすれば乗り越えることができるのか。世界の分断が進む今、長期的な社会変革への第一歩として、個人個人が心身の平和を実現する重要性を訴えかけまいた。  

 不安で押しつぶされそうな時に、無理をし続ける代わりに、まず、自分の身体の中に溜まったストレスとしっかり向き合い、解放されること、そして誰もがありのままの自分でいることに自信を持つこと-―。そんなメッセージが、視聴してくださったみなさんの心に響くことを願っています。 なお、制作秘話としては、映像の中に出てくる、顔が映らない「身体」が、実は、私たち監督3人自身であることを明かしたいと思います。「Bodies for Change」は、ユニバーサルなテーマを扱いながらも、私たち自身の問題でもあったため、監督自身を映像の中に含めるという選択肢を取りました。その上で、顔は写さず、世界中の言語を含め、チベットのボウルや枝など自然の材料を使用して抽象的表現をすることによって、誰もが自己内省できるような内容にしたのです。

クリエイティブのスキルで世界に貢献

 本当の国際貢献とは何か。そして、それをどのようにして持続可能なサイクルで実現していくのか。これは、私がこれまで常に考え続けてきた問題です。 国際協力に携わる方法として、NGOや国際機関に身を置くのではなく、あえてIT企業を選んだ理由は、現状として存在する資本主義という社会システムと共存・共栄しながら、ブロックチェーンやAIなどの最先端技術を使って社会構造を根本的に再構築していくことができると感じたからです。いま所属しているのは、透明性を確保したクラウドファンディングや、「善き行い」を普及するメディア、エシカルオンラインマーケットプレイスなど、さまざまなプラットフォームを通じて持続可能な国際貢献を行なっている組織です。 最新のクリエイティブのスキルを活かして、世界に真の平和と幸福を普及していきたいと思っています。

<監督プロフィール>
後 智子(うしろ ともこ) 1994年東京生まれ。 国際教養大学卒、英国サセックス大学『開発と社会変革のためのメディア実践(ドキュメンタリー映画専攻)』修士課程卒。 ルワンダの国連機関やウガンダの難民居住地での活動経歴もあり、パーマカルチャーとミニマリズムを学ぶため、ヒッピーとしてヨーロッパ各地の森で生活をしていたこともあった。 大学院在学中から、環境問題など地球規模課題を取り上げたドキュメンタリー映像を複数制作。大学院卒業後もフリーランスの映像作家として活動し、共同監督作品Bodies for Change(2020)にて、国際平和映像祭2020「グランプリ」、第2回石垣島・湘南国際ドキュメンタリー映画祭「国際コンペ部門賞」受賞。準監督作品LUONTO(2020)にて、London Arthouse Film Festival等、多数入選。 現在はFreewill, Inc.というIT企業のアート・ディレクションチームにて、映像クリエイターとして事業推進の一端を担っている。今後の抱負は、3D・VRアートや映像を通して、ポスト資本主義と持続可能なエコ社会の構築に携わること。

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