アジアの「人口ボーナス」を支える若者 就職難で苦悩
正規雇用の激減や海外留学による人材流出 新興国が直面する現実とは

  • 2024/7/18

 日本を含む多くの先進国では、15歳から64歳の生産年齢人口の減少に伴い、労働力や経済成長が低下する少子高齢化が大きな社会課題になっている一方、新興国と呼ばれる国々は、いまだ生産年齢人口が非生産年齢人口を上回る「人口ボーナス」の恩恵を享受しています。しかし、国家にとって「恩恵」であるはずの若者たちを取り巻く状況は厳しい。悩みが尽きない若者たちの姿を伝えるインドネシアとネパールの社説を紹介しました。

(c) Inzmam Khan / Pexels

インドネシアのZ世代 失業者1000万人に
 インドネシアの英字紙、ジャカルタポストは6月5日付で「就職難に直面するZ世代と、人口の災難」という社説を掲載した。
 社説によると、インドネシアでは、Z世代と呼ばれる15歳から24歳の約1000万人が失業していることが明らかになった。衝撃的な事実に対し、社説は「この驚くべき数字を見ると、教育制度と労働市場の何が問題なのかと考えてしまう。仕事が少なすぎるのか、または若者たちが仕事に就く力がないのか。もしそうならば、高い教育費を払うことに何の意味があるのだろうか」と、自問する。
 インドネシアの15歳から29歳までの失業率は、過去5年間、高い水準にある。なかでも15歳から19歳の失業率は2022年に約29%に達しており、コロナ禍以前よりも高くなっている。原因の一つとして、正規雇用が減っていることが挙げられる。社説によれば、2019年から2024年までの5年間に正規雇用されたのは200万人にとどまるが、それ以前の5年間は850万人、さらにそれ以前の5年間は1560万人だったことを考えると、激減している。
 社説は、「高校を卒業した程度では、正規雇用されることは難しい」と指摘する。しかし、インドネシアでは国公立大学の授業料が毎年約1.3%ずつ値上がりしており、経済的に逼迫する若者たちは、学ぶことも働くこともできない状態だ。
 「人口が増え続ける中で、若い世代に十分な雇用を創出することは、政府の重大な課題の一つだ。この問題を改善できなければ、失業者が急増し、経済は衰退するだろう。政府は、大型インフラ事業に資金を出すよりも、若年層の教育やスキル向上のための事業に投資し、若者の成長と自立を助ける政策を実行せねばならない」

海外留学の増加で空洞化するネパール
 ネパールでは、留学により若者が国外へ流出している。ネパールの英字紙カトマンズポストは、6月13日付の社説でこの問題をとりあげた。
 ネパールからは、毎年、十万人単位の若者が高等教育を求めて海外へと渡っている。社説によると、昨年度までは2年連続で11万人ずつが海外留学していたが、今年は8月までに9万人以上の学生が留学の許可証を得ており、「過去10年間で3倍」に増えているという。
 社説はまず、「こうして海外に出て行く留学生らが、数年後に海外で働き始め、ネパールに送金するようになるという流れがあることは、見逃せない前向きな事実である。実際、ネパールへの海外送金額は、毎年、増加している」と、海外留学を前向きにとらえる。そのうえで、「しかし、それと引き換えにネパールは人的資本を失っている。若者の輸出国になっているのだ」と、懸念を隠さない。
 また、ネパールの若者たちが「安価な労働力」として、日本やアメリカ、カナダなどの高齢化した先進国を支えている、とも指摘する。
 「高齢化、あるいは老齢化した先進国の国々は、ハードな労働をいとわない移民の若者を常に求めている。さらに、アジアやアフリカの貧しい国々からの移民は、先進国の経済を支えているだけでなく、その国で子どもを生むことで、当該国の人口動態を健全に保っているのだ」
 自身が空洞化しながら、先進国の人口動態を支えている新興諸国。先進国と新興国の間では、「人材搾取」とも言えるような事態が起きているのかもしれない。

(原文)
インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/06/05/jobless-gen-z-and-demographic-disaster.html

ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2024/06/13/exodus-of-human-capital

 

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