「コロナ、コロナ、コロナ」
助け合えないことが、一番つらい

  • 2021/7/20

【編集部注:】

ミャンマーにおけるコロナ禍の状況が、一層、深刻さを増しています。公式に発表されているよりはるかに多くの陽性者や死者が出ているのは明らかで、これまで医療従事者を拘束したり殺害したりしてきた軍が、今になって医療者を募集しているものの、市民の反応は冷ややかで、多くが自宅療養を選ぶため、感染は拡大する一方です。クーデターを起こした軍の圧政とコロナ禍によって、かつてない規模の災害に直面しています現地の様子を伝えるFacebook投稿を紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

軍がミャンマーを殺す (c) Myanmar Harp Media /Facebook

コロナ、コロナ、コロナ。
薬局には早朝から人々が列をなし、窓の外からは救急車のサイレンが聞こえる。
職場では、朝のオンラインミーティングの参加者が少しずつ減っていく。
今日はあの人が熱を出した。
今日はあの人のお父さんが亡くなった。
そんな感じで、一週間が終わるころには、参加者はいつもの半分になっていた。
軍政府の発表によると、1日の感染者は5000人。
・・・5000人?まさか。
残念だが、そんなに少ないはずはない。
と、ここまで書いた今、遠くで銃声が2発聞こえた。
あぁ、と頭をかかえる。いったいどうなってしまうんだろう。
===
軍政府の保健スポーツ省は、毎日20時にコロナの新規陽性者数を発表する。
検査数がだいたい1万5000人で、うち、陽性者が5000人。
つまり、陽性率は30%を優に超える。昨日は、39%に達した。
(参考までに、東京のここ1週間の平均は8%)
だが、5000人なんてものではない、ということに誰もが気付いている。
火葬場のご遺体の数がそれを物語る。
例えば1日に数十人が亡くなった、と発表された日の火葬場には
それをはるかに上回る数百体のご遺体が届いているのだという。
事実、保健省が把握している感染者や死者の数は、
病院などの施設で診断や治療を受けた、ごく一部の患者だけだ。
今や、病院も隔離施設もパンパンに満床で、患者を受け入れていない。
呼吸器症状や発熱があって病院にかかったところで、検査や診断は受けられない。
(見栄っ張りの軍政府でさえ、病院に新規患者を受け入れる余裕はない、と発表している)
だから人々は、薬局で検査キットを買い、酸素飽和度を測るモニターを買い
酸素ボンベや薬を買って、自力でコロナの感染や重症化に備える。
医療者でもない人たちが、見よう見まねで検査や治療をするのだから
ちゃんとした検体がとれるか、適切に酸素投与できるか、など
甚だ怪しいのだけれど、他に方法がないのだから仕方ない。
私の友人も、自宅で鼻腔にスワブを突っ込んだという。
「うまくできなくて、血が出ちゃった」と笑う。
ちなみに、彼の場合、家族3人がみんな陽性だった。
雨季のミャンマーでは、インフルエンザやデング熱などの疾患も多い。
だからもう、どれがコロナかはわからない。
それでも、これだけ周囲で発熱している患者がいるのは異常だと思う。
===
「助け合えないことが、一番つらい」
ヤンゴン在住の友人はこんな風に漏らした。
「今、私の同僚が熱を出して寝込んでいるの。
 一人暮らしだから心配で、毎日電話するけど、声がすごく弱々しくて。
 本当は入院できれば安心なんだけど、今はどの病院でも入院ベッドがないし…。
 私が看病に行きたいけど、正直言って、私も感染するのが怖い。
 彼女にも ” コロナかもしれないから来ないで “ って言われてる。
 私たちは田舎から出てきて、困った時は助け合って暮らしてきたのに」
酸素が足りないことより、薬が手に入らないことより、助け合えないことがつらい。
そう嘆いた彼女も、その翌日は体調不良で欠勤した。
=== 
人々は、このクーデター後のコロナ禍を生き延びようと必死だ。
連日、身近な人が陽性になった、亡くなった、というニュースが届く。
すると、誰しもがこう思う。
「いつ自分もそうなるかわからない」
「うちの両親も高齢だから、感染したら重症化するに違いない」
「重症化したら、治療ができない、死ぬしかない」
そうして、解熱剤や抗生物質を手に入れるため、何時間も薬局に並ぶ。
卵や生姜が身体に良いと聞けば、藁にもすがる思いで買いに走る。
重症化した患者がいる家族は、酸素ボンベを抱えて町中を走り回る。
集団ヒステリーのような状態だが、もう歯止めがかからない。
こうしたパニックが起こる条件が揃ってしまっているのだから。
ちなみに、パニックになるまい、と思っている私も、
念のため迅速テストキットを1つ購入した。
たとえ陽性の診断が出たところで、大して打つ手もないので
あまり意味はないのだが、何となくお守りのような感覚で買っておいた。
お値段は約2万チャット(1400円)。
少し前まで1万2000チャット(850円)だったことを考えれば、驚くほどの値上がりだ。
===
軍は、医療者やボランティアを募集しはじめる。
人々は、それを鼻で笑う。
「何を今さら、虫のいいことを」と。
私もそう思う。 
国連発表によると、この5ヶ月間で、軍は医療者と医療施設に対して、少なくとも240回もの攻撃をした。
そして、少なくとも17人の医療者が殺されている。
CDM(不服従運動)のために指名手配を受けた医師は約400人、看護師は約200人。
見せしめのように、軍営の新聞やテレビで、顔写真と名前が垂れ流されてきた人たちだ。
軍は彼らを「冷酷だ」「ジェノサイドだ」と批判し続けてきた。
(どの口がそんなことを言うのだ)
CDMに参加した医療者が民間の病院で医療を提供し始めると、
軍は、その民間病院ですら攻撃の対象にした。
銃弾を撃ち込まれた病院もあれば、営業許可を取り消された病院もある。
一方、公立病院は2月からずっと、軍によって占領されている。
以前、反軍政デモで怪我をした患者が入院したときには、
軍は彼らを患者ではなく犯罪者として、ベッドに鎖でつないだ。
だからデモに参加する人々は、たとえ攻撃されて負傷しても
公立病院には連れていかれるまいと、
怪我した体を引きずって逃げ、身を隠していたのだ。
国の医療体制を壊してきたのは、軍政府にほかならない。
今さら医療者を募集したところで、誰が手を挙げるだろう。
医療者不足で困っているなら、まず逮捕した医療者を解放したらいかがですか、
と冷ややかに思うのは、私だけではないはずだ。
===
それでも、医者に病院に戻ってほしい、と思う市民はいないのだろうか?
何人かのミャンマー人に訪ねてみたが、答えは同じだった。
「戻ってほしいとは思わない」
ある友人は私の質問を、こう言って笑い飛ばした。
「戻るはずないじゃない!逮捕されるもの。
 僕たちは分かっているよ。同じことが1988年に起きたんだから。
 僕の叔父さんは、公務員だったんだけど
 1988年の民主化運動のときは、仕事をボイコットしてデモに参加していたんだ。
 だけど結局民衆は負けちゃったから、
 叔父さんもストライキをやめて職場に復帰した。
 その数カ月後だよ、突然逮捕されたのは。
 1~2年は服役していたと思う。そういう人は他にもいっぱいいたんだ。
 今、CDMやっている人は、きっと同じ目に遭う。
 国のために戦っている彼らに、誰も病院に戻ってほしいなんて思わないよ」
そうした医療者たちの中には、地下に潜って診療を続けている医療者もいるが、
今回は長くなるので(もう長いけど)割愛する。
===
ミャンマーの受難は続く。
国連は、WHOは、ASEANは…
だれか、だれか助けてくれる人はいないのだろうか。
ミャンマーの医療団体Myanmar Doctors for Human Rights Networkは、こう言って人々の連帯を呼びかける。
「ミャンマーは今、軍の支配とコロナで、かつてない規模の災害に直面しています。
 人々が、路上で窒息し、無力に死んでいるのです。
 この悪夢のようなクーデターとコロナで苦しむミャンマーの人々のために、どうか声をあげてください」

空になった酸素ボンベの充填を待つ人々。軍はヤンゴン市内の酸素プラントで列を作る人たちに向かって、発砲した(可燃性の高い酸素に発砲するなど狂気の沙汰。爆発しなかったのがせめてもの救いだ)(c) The Irrawaddy /website

酸素を手に入れ、家路を急ぐ。この人たちはラッキーだった、と言うべきだろう。なぜなら軍は、市民たちが列をつくっていた酸素プラントをいくつか強制的に閉鎖し、公立病院に独占的に酸素供給するようにしたからだ(c) The Irrawaddy / website

僧侶たちも、もちろん諦めていない。
ミャンマーではかねてより、僧侶が民主化運動を引っ張ってきた(c) Khit Thit Media / twitter

それでも、デモは続いている。
人々はマスクの下で、民主化を叫ぶ。集団で集まることはますます難しくなっているけれど、反軍政の思いは強くなる一方だろう (c) Khit Thit Media / twitter

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