ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全権を掌握した」と宣言してから3年以上が経過しました。この間、クーデターの動きを予測できなかった反省から、30年にわたり撮りためてきた約17万枚の写真と向き合い、「見えていなかったもの」や外国人取材者としての役割を自問し続けたフォトジャーナリストの宇田有三さんが、記録された人々の営みや街の姿からミャンマーの社会を思考する新たな挑戦を始めました。時空間を超えて歴史をひも解く連載の第24話です。
㉔<秤(はかり)>
軍事政権下のビルマ(ミャンマー)で取材する中で、人々の生活に直結する市場を訪れて写真撮影するのは楽しかった。店頭には新鮮な食材があふれ、店主たちが買い物客にかける声も実に明るかった。時には、見たことのない食材や果物を見ながら、売り場のおじさんやおばさんに笑顔で「これ何?」と気軽に声をかけることもあった。政治的な緊張がふっと和らぐ日常生活の一場面で、カメラを鞄から出して堂々と写真を撮っていても、それほど怪しまれることはなかった。
そんな風に各地の市場を歩き回る中で、違和感を覚えることがあった。市場では、重り(分銅)に乾電池を使っている天びん秤をはじめ、いろいろな種類の秤が使われていることに気づいたのだ。また、ここでもアラビア数字とビルマ数字が混在しており、質量の単位も、キログラムをはじめ、ポンドやビス(ビルマの質量単位)が入り乱れていた。この状況を前に、何をどう理解したらいいのか、これだけ統一されていないのは政治的な理由からなのか、あるいは英国による植民地支配の残滓なのかと混乱し始めたが、解釈はさておき、とりあえずは、今、目の前にある現実を記録しておこうとシャッターを切り続けた。
今回は、ビルマ(ミャンマー)各地で使われている秤(はかり)を取りあげた(1993年~2024年にわたり撮影)。では、日本やアジア諸国では今、どのような形の秤が使われているのだろうか。参考まで北海道・東京・大阪・神戸・タイ・台湾の市場で撮影した秤を紹介したい(撮影年は全て2023年~2024年)。
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過去31年間で訪れた場所 / Google Mapより筆者作成
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時にはバイクにまたがり各地を走り回った(c) 筆者提供