「今朝撃たれた仲間の遺体を返せ」
「ミャンマーは世界最悪の国になった」

  • 2021/3/28

【編集部注】

クーデターに抗議するミャンマー市民が繰り広げる不服従運動(CDM)がノーベル平和賞にノミネートされたという明るいニュースが飛び込んだ翌日の国軍記念日は、またもおびただしい人々が銃口に倒れ、凄惨な1日となりました。ここでは、当日の残虐非道な暴力の様子と人々の悲痛な嘆きを生々しく伝えるFacebook投稿をご紹介します。

~ 以下、facebook投稿より ~

26日の国営テレビで流れた銃殺宣言。 「国家を破壊する者は、後頭部や背中を撃たれる危険があるということを、これまでの無惨な死から学習せよ。親は、子を無駄死にさせないように」 (c) Matthew Tostevin / Twitter

3月27日、国軍記念日。
年に1度、軍の華々しい威光を世に知らしめる日だそうだ。
国の威信をかけた大事な日に、軍の名誉に傷がついてはいけない。
そう考える国軍は、今日に向けて弾圧を強めるだろうと、みんな警戒していた。
実際、昨日の国営テレビでは、
「国家を破壊する者は、後頭部や背中を撃たれる危険がある」という、耳を疑う通告が放送された。
(国を破壊しているのが誰か、本当にわかってないんだろうか)
先週、ヤンゴンから離れることを決意した友人はこう話した。
「うちの夫は公務員(CDM参加中)なの。
今まで息を潜めてきたけど、いよいよ何が起こるかわからない。安全な場所はどこにもないけど、田舎ならヤンゴンよりも生き延びられる可能性が高いから」
ミャンマー市民が、ミャンマーの警察と軍から、命を守るために逃げているのだ。
この異常さがわかるだろうか。
_____
それでも、実は私は「27日は大丈夫なんじゃないか」と楽観視していた。
市民たちが、以前よりずっとおとなしくなっていたからだ。 
2月にヤンゴンの大地を揺るがした大群衆のデモは、
あまりに凄惨な弾圧をうけ、小規模で散発的になっていたし
軍への憎悪をあおるようなポスターも、町ではほとんど見かけなくなった。
バリケードをみつけたら所構わず銃撃するぞ、という狂った通告の翌日には
自宅横の路地では地域住民たちが土囊袋を片付けていた。
(もちろん「自主的に」とは言えないが、兵士や警察が監視している様子もなかった)
毎日、どこかで誰かが襲撃され、殴打され、殺されて
あろうことか、父親に抱かれた7歳の少女まで銃殺(!)されて・・・
それでもヤンゴンの人々が、怒り狂って暴力的に立ち向かう、なんてことにはならなかった。
あからさまに軍に逆らえば、犠牲が増える。
これ以上、命を失うわけにはいかないのだ。
最近、ミャンマー国外にいる日本人たちから
「ミャンマー人たちが、抗議による死を賛美している」とか
「自殺行為のようなデモをしている」という解釈を聞いたのだけれど、
私が見ている景色は、全く違う。
ミャンマー人たちは概して、命を大切にしている。
プライドは脇に置いて、軍に従うふりをして。
_____ 
そんなわけで私は「このまま何事もなく過ぎますように」と
希望的観測を胸に、祈っていたのだった。
しかし現実は、まったくそうはならなかった。
朝起きると友人から「めちゃくちゃ銃声が聞こえる」とメッセージ。
死傷者の数は積み上がり続け、21時半までに114人が殺されたと報道された。
友人は早朝、デモの準備中に突然襲撃され、仲間をひとり失った。
「僕らは集まっていただけだったんだ!まだ一言も抗議してなかったのに!」と繰り返す。
そうなんだ、ひどい、信じられない、と相槌を打つことしかできない。無力。
モバイルインターネットが遮断される中、
市民が命がけで撮影した映像や画像がSNSに届く。
銃声とともに、動きが止まりパタッと倒れる少年。
助けに行こうとする仲間たちは、鳴り止まない銃声の中、地団駄を踏み、絶叫する。
すぐそこに倒れているのに、今なら助かるかもしれないのに、近づけない。
銃声。流血。叫び声。頭部を吹き飛ばされた、むごい写真。
これが全部、今ミャンマーで起きているなんて。
心が苦しくて吐きそうになる。
弾圧が本格化してから1カ月。
私たちは毎日、どれほど凄惨な光景を目にしてきただろう。
虐殺している軍には一分の正当性もなく、虐殺される市民には一分の罪もない。
どうしてこんな狂ったことが、誰にも止められないんだろう。
ミャンマー北部の町では、夕方1000人を超える人々が軍病院に集結した。
要求は「今朝撃たれた仲間の遺体を返せ」。
もはや、民主主義のためでも自由のためでもない。
_____
夜、ミャンマー人の友人と電話で話をした。
何人死んだらしい、ミャンマーは世界最悪の国になった、という
何の希望もない会話をしたあと、何か明るい話はないものかと思い
「そういえば、CDMがノーベル賞にノミネートされたね」と言うと、彼女はこう言った。
「あれはいいニュースだったね。
でも・・・何百人もの命と引き換えだと思うと、ぜんぜん釣り合わないよ」

駅のホームで遊んでいた1歳児は、ゴム弾で片目を撃たれた。ゴム弾とはいえ、大人の皮膚を貫通する威力だ。おそらく失明するだろう。 撃たれた人は、たとえ命が助かっても、後遺症を負うのだ。治療にはお金も時間もかかる。バリアフリーのかけらもない途上国で、身障者が生きるのがどんなに大変か。 死者数はとても重い数字だけど、それだけじゃない。 軍はこの国の未来を、人々の尊厳を、着々と奪っているのだ。 (c) Myanmar Now / Twitter

市民の惨殺を命じたMALは、国軍記念日のパーティを楽しんでいる。怒りを通り越して、唖然とする。 明日の国営紙の一面には、いったい何が載るんだろうか。 (c) Yamin / Twitter

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