ロシアの弱体化できな臭さを増す中国の覇権構想
中ロ関係の変化を受けて進む極東協力と西向戦略の狙いとは

  • 2023/5/30

 ウクライナに軍事侵攻したロシアの弱体化によって、中ロの力関係が劇的に変わりつつある。これを受けて、二つの大きな戦略が進んでいる。一つが中ロ極東協力。もう一つが、中国の西向戦略だ。ロシアの不凍港を手に入れ、中央アジアを押さえて中東の石油やロシア、EUからの輸送ルートを確保するという一連の動きには、単に経済的な側面にとどまらない意味がある。世界秩序を再編し、その頂点に中国が君臨するという野望の実現に向けて、一段ときな臭さを増してきた中国の狙いと動向を読み解く。

中国・西安で開かれた中央アジアサミットでスピーチする習近平国家主席(2023年5月19日撮影)(c) 新華社/アフロ

ウラジオストク港を中国に開放

 中ロ関係の変化を受けて進んでいる第一の動きが、中ロ極東協力だ。その象徴的な動きとして、6月1日から中国吉林省がウラジオストク港を国内貿易中継ぎ港として利用できるようになったことが挙げられる。

 中国海関総署(税関総署)は5月4日、ロシア・ウラジオストク港が正式に中国に開放され、今後、中ロ間の貿易・物流協力の重要なハブになるという公告を出した。これにより、吉林省と黒龍江省という、ロシアに隣接しており、ウラジオストクにも近い二つの省が、今後、国内貿易の中継ぎ港としてウラジオストク港を利用できることになる。海への出口がない吉林省と黒竜江省は、貨物を直接、港から輸出することができず、これまで吉林省の貨物はほとんどが遼寧省の大連港にいったん運ばれてから海上輸出されていたため、ウラジオストク港が吉林省の貨物輸送の中継ぎ港として利用できるようなった意味は大きい。今回のニュースは、中国の愛国的ネットユーザーたちの間でも、「163年ぶりに海参崴(ウラジオストクが中国領だった清朝時代の呼び名)が戻ってきた」と、話題になっている。

 ロシア極東地域の最大都市であると同時に最大港湾都市でもあるウラジオストクは、東部地域におけるコンテナ集積港であり、目下70以上のコンテナ船専用の埠頭を有する。また同港は、ロシアにとってアジア太平洋戦略の拠点としての意味をもつ軍港でもある。歴史的に見ると、清朝から元、そして明朝の時代は中国の支配下に置かれ、海参崴と呼ばれていたが、英仏と清の間で行われていたアロー戦争が1860年に終結した際、ロシア帝国がその仲介をした報酬として、海参崴を含むウスリー江以東を割譲するよう清朝に求めたのだ(中ロ北京条約)。こうしてロシア帝国は、この地に「東方の征服地」という意味を込めてウラジオストク港を建設し、冬でも凍ることのないこの港を利用して日本海へと進出するようになったのだ。

 それだけ地理的に要衝の地であると同時に、歴史的にも因縁のある港をロシアが中国に事実上、開放したということは、中国愛国ネットユーザーが喜んでいる通り、中ロの関係が根本的に変わる兆しなのかもしれない。

不凍港をめぐる資源戦略

 実は、ロシアが中国にウラジオストク港を中継ぎ港として利用することを認めたのは、これが初めてではない。黒竜江省は2007年、ウラジオストクなどロシアの3つの港湾を国内向けに貨物を輸送する際の中継ぎ港として試験的に利用していた。だが、これはあくまで「テストケース」であり、非常に制限が多かった。一方、吉林省は2010年に北朝鮮の羅津港を試験的に利用していた。羅津は、国境の街、琿春から48キロと、ウラジオストクよりだいぶ距離的には近かったが、その後、吉林省は2018年にロシア国内のザルビノ港、2020年にはスラビャンカ港の試験な利用を開始し、北朝鮮からロシアへと軸足を移した。そして今回、ついにウラジオストク港を中継ぎ港として正式に利用することになったのだ。

要衝の地にあるウラジオストク港© Dr.Leonid Kozlov /wikimediacommons

 今回の決定は、ロシアと中国、双方にとってメリットがある。まず、ロシアにとっては、国外の港を中継ぎ港として使用を認める場合、国内貿易扱いとなるために関税収入は期待できないものの、物流コストや施設利用費は発生するうえ、港湾整備にも中国側の資金が投じられるため、ロシアの地方政府にとっても財政収入が大きく増加する。さらに、西側陣営の対ロシア経済制裁が厳しい中、地方政府同士の関係が緊密化すれば、国際社会の目をくらましながら、軍事や民事の物資輸送にとっても利する可能性もある。

一方、中国にとっても、東北地方から華南地方に輸送するコストと時間が大幅に削減される。中国国内の報道によれば、吉林省や黒龍江省と遼寧省の大連港の間は1000キロ以上あるが、吉林省の琿春や黒竜江省の綏芬河からロシアのウラジオストク港までは、わずか200キロであり、陸路輸送コストがコンテナ1つあたり約2000元(約4万円)安くなるうえ、所用時間も2日から4日、短縮されるという。ウラジオストク港で扱うコンテナ量が急増し、キャパシティーを超えるのではないかという懸念もなくはないが、この点についても、貨物量の急増に対応するために中国が本格的にウラジオストク開発に参画し、極東最大の貿易港(にして軍事港)へと発展させていくシナリオが見えつつある。

ロシア極東のウラジオストクにある石油備蓄基地 (2022年6月11日撮影)(c)ロイター/アフロ

 この動きには、単なる経済的な意味以上に、政治学的、そして資源戦略的に大きな意義がある。ロシアの国土の4割の面積を占める極東地域は、居住人口はわずか5%だが、ロシアの鉱物原材料需要の3割、漁獲需要の7割を産出し、天然資源の備蓄量も中国全土の保有総量に匹敵する。また、ウラジオストク港は、北極航路において最も重要な不凍港の一つでもあり、将来的に地球温暖化の影響で北極航路が国際貿易上の重要な幹線航路となった場合は、その戦略的な地位がさらに上昇することは間違いない。その地を中国資本で開発しようという動きは、「中国が新たな世界のリーダーとして君臨する」という習近平国家主席のシナリオを補強する重要な布石だと言える。

 准軍事同盟化した中ロ関係

 このような中ロ極東協力の動きは、この一年のうちに加速している。ロシアメディアの報道によれば、2023年の春以降、中ロの国境貿易が急速に伸びており、ロシア側のザバイカルスクと中国側の満州里をつなぐ国際道路の税関は、連日、700台前後のトラックが通関待ちの行列を作るほど混雑しているという。この問題を解決するために、プーチンは5月中旬、ザバイカルスクの通関システムの電子化を急ぐように命じたとも言われている。このルートがこれほど混雑しているのは、習近平が3月にロシアを訪問した際、両国の間で食糧貿易に関する政府間協議が進んだためだ。増加する中国向け食糧輸出に応えるため、ロシアは極東地域に中ロ新食糧陸路回廊を建設しようとしている。

 黒竜江省社会科学院の東北アジア研究所長を務める笪志剛氏の分析によれば、極東協力がこれほど加速している背景には、ロシア・ウクライナ戦争の影響があるという。中ロ間の貿易額は、2023年1~4月期に730億ドル(約10.2兆円)を超え、前年同期比の41%増を記録した。内訳を見ると、中国はロシアに電子製品や設備、家電、自動車などの消費財を輸出し、ロシアは中国に石油や天然ガス、石炭、食糧、金属、木材、化学工業製品などを輸出している。ロシアが西側諸国からの経済制裁を受けて買い手がなくなり、割安になった資源を中国が全面的に引き受ける形になった。

  6000キロにわたり国境を接する中国とロシアの二つの大国は、歴史的を振り返れば、実は互いに潜在的に脅威を抱く関係であった。特に、中国に対するロシアの警戒心は根強く、ウラジオストク港の開発についても、ロシアは長きにわたり、中国ではなく日本や韓国から投資を呼び込む努力をしてきた。しかし、その努力は結果に結び付かなかった。

 プーチン大統領がウラジオストク港を中国に開放することを本格的に検討し始めたのは2015年ごろだと言われている。当時、極東開発責任者を務めていたユーリ・トルトネフ副首相は、中国から通行料・利用料を徴収すれば、モスクワも利益が得られると考えたと言われている。しかし、ウラジオストク港はロシアにとって商業貿易港であるだけでなく、重要な軍事活動拠点でもあることから、中国に開放することは、かなりセンシティブな意味合いを伴い、ロシア側にも躊躇があったと見られる。

 こう考えると、今回のウラジオストク港の対中開放は、ロシアが中国との関係を准軍事同盟化にレベルアップする決心を固めたことを意味するのではないか、という推測が成り立つ。

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