タイ洞窟救出から1年、無国籍問題はいま
「存在しない」人々を生み出す新たな構造

  • 2019/7/14

関心を呼んだ救出劇から1年
 世界中から大きな注目を集めたタイ北部チェンライの洞窟からの少年ら13人の救出劇から、7月10日で1年になる。増水で2週間以上、洞窟内に閉じ込められた後に全員が生還したことが話題を呼んだのはもちろん、その中の4人が国籍を持っていなかったことから、タイ内外で無国籍問題に対する関心が急速に高まることになった。この4人は翌月、タイ政府によって国籍を与えられたが、タイ内務省は依然として約50万人の無国籍者がいるとみている。その半数は、子どもだ。

救出劇の舞台となった「タールアン洞窟」の入口。今は立ち入りが禁止されている(筆者撮影)

 

苦悩する国境の街

 今年6月22日、タイ北西部のターク県ターソンヤン郡を訪れた。郡を流れるムーイ川の向こう側には隣国ミャンマーのカレン州が広がり、急峻な山中のメラキャンプには、カレン族をはじめ、ミャンマーからの避難民が5月末の時点で3万5,348人(UNHCR調べ)暮らしている国境の街だ。

 タイ歴で新年度を迎えたばかりのこの日、「メースウィタヤー中学・高校」では、私たちシャンティ国際ボランティア会の現地法人である「シーカー・アジア財団」による奨学金の授与式が開かれ、近郊の8つの学校から中学生や高校生、大学生ら175人が集まった。大半はカレン族で、31人が無国籍の子だ。

ターソンヤン郡での奨学金授与式の無国籍の奨学金生どもたち31人(筆者撮影)

 あいさつに立ったプラティ―プ・ポーティアム郡長は、「ターソンヤン郡には9万人が住んでいるが、うち2万人が国籍を持っていない上、全体の8割はカレン族が占めており、さまざまな問題を抱えている」と語った。その言葉には、この地を率いる難しさと苦悩があふれていた。

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