「ヨウンマテッネ ヨウントゥエッ」
2022年ノーベル平和賞にノミネートされたCDMのスローガンに思うこと

  • 2021/3/30

【編集部注:】

ミャンマーの市民的不服従運動(CDM)が2022年ノーベル平和賞にノミネートされました。ここでは、このCDMのスローガンになっている「ヨウンマテッネ ヨウントゥエッ」というかけ声にこめられたメッセージや思いについて解説するFacebook投稿をご紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

CDMのスローガンが2022年のノーベル平和賞にノミネートされた (c) Frontier Myanmar

 昨日、CDM(市民的不服従運動) が2022年ノーベル平和賞にノミネートされたというニュースが飛び込んで来た。私の故郷(と敢えて呼ばせてもらう)がここまで徹底的に破壊され、人々の命と尊厳が踏みにじられて行くあまりに辛いニュースにばかり接しているせいで、この明るいニュースをフェイクなのではないかと思わず疑ってしまったほどだ。
 結局、このニュースは本当だった。ノーベル平和賞の今年のノミネートは今年1月末に締め切られたばかりで、クーデターが起こったのはその直後。この早いタイミングでの来年へのCDMノミネートが、ミャンマー市民を勇気付ける効果を狙ったものだとしたら、それは大成功だった。このニュースは、ミャンマーの人たちの間で、Dr.Sasaのコメントと共に嬉しいニュースとしてSNS上で広く拡散された。ちなみに今年もアメリカのBLM運動をはじめ複数の「運動」がノミネートされている。
 この2021 Spring Revolutionと命名された60日間に渡る運動の中で、新しいデモのスローガンがいくつか生まれている。その中でひときわ光を放っているのがCDMのスローガン「ヨウンマテッネ ヨウントゥエッ」というものだ。「CDM」という概念の導入とほぼ同時にクリエイトされたこのスローガンは、従来のクラシックなスローガンと比べてポップでリズム感が良く、CDM参加者以外の人たちからもシュプレヒコールとして好んで使用されて来た。直訳すると「勤務に出るな 身をよじって抜け出せ」と言ったところか。この2つの「ヨウン」は発音は同じだが綴りが異なる。前者は、事務所や職場を意味し、後者は、身をよじるとかもがくといったような意味合いだ。ミャンマーの人たちのこういう語呂合わせのセンスは抜群なのだ。
 では、何から身をよじって抜け出そうと言っているのか。
 最初の段階ではまだ「(軍から譲歩を引き出して)軍の統制下から抜け出そう」という限定的な意味合いにとどまっていたように思える。その頃とは様相がすっかり変わってしまった今、ゲリラ的に行われる決死のデモの中でこの文言が叫ばれる時、その意図するところはだいぶ変わって来た。今、自分たちが身をよじって抜け出そうとしているのは、独立以降、「民政移管」されたといわれる時期を含めて国全体を覆って来た鬱々とした空気、抑圧(ミャンマー語では、チュンガンバワ(奴隷の身分=抑圧的支配)などと表現)と言ったもっと根本的なものからなのだと彼らは言う。
 組織同士の対立でも、概念同士の対立でもない。これまで目を瞑って感じないふりをしてやり過ごして来た「正義」の要求を顕にし、ミャンマーというバウンダリーで括られる領域内でたまたま一緒に暮らすことになった民族同士が連帯し、新しい国へと生まれ変わるための闘争に突入したことが徐々にくっきりして来た。一昨日、大ファンの作家の高野さんが、ご自身の高野秀行辺境チャンネルで「本当の独立闘争」と明快に一言で表現されていた。ちなみに「独立」はミャンマー語でルッラッイェー(自由になること、解放)。解放と同義であることを考えると、彼ら自身ももしかしたら無意識にイギリス植民地支配からの独立運動と連続性のあるものとして今の運動を捉えているのかもしれない。
 それにしても生まれ変わるということは、こうも大きな痛みと苦しみを伴うものなのか。いや、これはどう考えても経験する必要のない理不尽な痛みだ。何ができるか、歯を食いしばって日々考えている。

 

写真:https://www.frontiermyanmar.net/en/striking-government-workers-say-they-are-ready-to-face-the-worst/

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