JR東日本がアジアの鉄道人財の育成を開始
ミャンマー国鉄の駅員が上野駅にやって来た

  • 2020/2/5

シャンパンゴールドのおもてなし

 秋が深まった11月の東京、上野駅。中央改札口の前、グランドコンコースに立つ翼の像の辺りは、大きな荷物を背負った旅行客や、コートを羽織ってマフラーを巻いた人々が足早に行き交い、活気と喧騒に溢れていた。新幹線をはじめ、在来線各種や地下鉄など多くの路線が乗り入れ、日本各地とつながる日本の玄関口であると同時に、歴史や文化が現代と出会う上野駅の、まさに「表の顔」だ。

行き交う利用者に目を配りながら、東尾さん(右端)が手短かに指示を出す(筆者撮影)

 しかし、そんな賑わいとは対照的に、改札を入った13番線の付近は、森閑として静謐な空気に満ちていた。他のホームから少し離れたところにあるこのホームは、かつて夜行寝台列車の荷物輸送に使われていた。現在は、2017年5月に運行を開始した豪華クルーズトレイン「TRAIN SUITE四季島」が隣の「13.5番ホーム」から発着するのを出迎えたり見送ったりする「おもてなし」のために使われている。知る人ぞ知る、上野駅のもう一つの顔だ。

13番線ホームで一列に並び、四季島の発車に合わせてハンドベルを鳴らす駅スタッフ(筆者撮影)

 この日も、11時20分に発車する四季島を見送るために、駅員や車掌、車両整備士など、それぞれの制服に身を包んだスタッフが11時過ぎから続々と集まってきた。3種類のハンドベルの音色が奏でる美しい和音といい、定刻に短く響く重低音の汽笛といい、シャンパンゴールドに輝く車両がゆっくりとホームを離れる様といい、まるでおとぎの国に迷い込んだかのようにすべてが優美で、厳かですらある。

駅員、車掌、車両整備士らがホームに並び、シャンパンゴールドの車体に向かって一斉に小旗を振り始めた(筆者撮影)

 にこやかに小旗を振り、丁重に頭を下げる列の中に、2人のミャンマー人男性がいた。チョーさんと、モォンさん。東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)が昨秋、研修員として3カ月にわたり受け入れたミャンマー国鉄の職員だ。

見送りの列に並び、小旗を振りながらにこやかに四季島を見送るモォンさん(手前)と、チョーさん(左から3人目)

 普段はミャンマーで駅員業務にあたっているが、より良い駅サービスの在り方を学びたいと9月に来日。上野駅の概要について説明を受けた後、出札や改札、利用者の案内、内勤といった一連の駅業務をオン・ザ・ジョブトレーニング(OJT)で学んだり、サービス改善に向けて有志が組織する委員会の活動にも顔を出したりと、上野駅の職員らに交じって、日々、精力的に励んだ。この日は、日本の「おもてなしの心」を学ぶため、四季島のクルーズが出発するタイミングをとらえ、他スタッフと一緒にホームに出て、見送りに参加していたのだった。

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