「セーフティネットと火葬場」
政府に助けてもらえない国民たちの相互扶助ネットワーク

  • 2021/8/4

【編集部注:】

クーデターから半年が経過したミャンマーでは、軍による医療従事者や市民の弾圧と、それに抵抗する不服従運動(CDM)によって医療体制がまひしているところに新型コロナウイルスの感染が急拡大し、市民生活は危機に瀕しています。苦しい中でも相互扶助による懸命の助け合いが続く人々の姿と、相反するようにせっせと火葬場を増設する軍の様子を伝えるFacebook投稿を紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

医薬品を求める、黄色い旗。 がんばれ、がんばれ。 (c) Myanmar Now (https://www.myanmar-now.org/en/news/yangon-residents-fly-yellow-flags-in-a-call-for-help-as-covid-19-infections-surge)

「COVIDセンター(隔離施設)には入っちゃダメだ。
 食べ物も、設備も、医療者も、治療も、何もない」
電話をかけてきたのは、地方に住む友人。
お父さんが検査で陽性になり、昨日COVIDセンターに入所した。
その町では、病院はもう満床なのだけれど
COVIDセンターにはまだ空きベッドがあるらしく
検査で陽性が出たら、自動的にセンターで隔離されるそうだ。
しかしそこには、ただベッドが並んでいるだけで、あとは何もない。
丸一日たっても、医療者らしき人の姿はまったく見えないという。
軍はこの施設を「COVID treatment center」と呼んでいるが
実際はただ「隔離」の機能しかないのだろう。
友人は憤っていた。
「食べ物は、家族が毎回届けなきゃいけないんだ。
 僕は、ご飯とおかずだけじゃなくて、ビタミンもとれるように果物を持っていった。
 そしたら、バナナとマンゴーはダメだと返されたんだ。下痢になるってさ」
はぁ?誰がそんなこといったの?
「施設の管理人だよ。軍側のやつだ。
 栄養のことなんて、きっと何も分からないんだよ」
実は、彼のお母さんも、コロナの症状が続いている。
本当は今日、お母さんもコロナの検査を受けにいく予定だった。
だけど、受けないことにしたという。
もし陽性だったら、同じCOVIDセンターに収容されてしまうからだ。
たとえ悪化しても何の治療も受けられず、好きなものも食べられず
万が一急変したら、そのまま家族には会えなくなってしまう。
自宅の方がどれほどマシだろう。
ちなみにこの状況は、彼の住む町だけではない。
聞くところによると、首都ネピドーの公務員用のCOVIDセンターですら
ベッドだけしか提供されていないという。
(↓6月末にTwitterで出回っていた隔離施設の映像はこちら。
  SNSでは ” COVID Spreading Center ” と揶揄されていた)

さらに驚いたことには、ヤンゴン総合病院ですら
提供されるのは酸素のみで、まともに治療してもらえないのだという。
===
こうして、自宅でコロナと闘う人々は増えていく。
在宅医療を提供する医療者の訪問チームもあるが、
こちらは軍の目を盗んで少数で動いているので
とても対応しきれるものではない。
私も、訪問チームに薬剤や防護具などを送ろうと思い
何が必要かと尋ねると、すぐにこんな返事が返ってきた。
「とにかく医療者の人数が足りない」
以前はチャリティで医療を提供していたチームも、
その多くがオンラインでのコンサルテーションに切り替わっている。
動き回れば軍の標的になるし、自分たちが感染して倒れるわけにもいかないからだ。
だから結局、家族が必死で看病している。
そしてその家族もコロナに感染し、疲弊していく。
ではもし、家族全員が感染してしまったらどうするのだろう?
友達の話によると、看病してくれる人を雇うことができるらしい。
しかしその値段が、驚くほど高騰している。
以前は、だいたい1日2000円くらいが相場だったはずなのだが
今は、無資格の人でも1日5600円、看護師だと1日1万円も払わねばならないのだという。
平均月収が4万円弱のミャンマーで、こんな大金を払える人がどれくらいいるだろう。
そこで、もう一つのセーフティネットの出番だ。
家族全員が感染し、誰も外に出られなくなったら、家の前に旗を立てるのだ。
食べ物が必要なときは、白い旗を。医薬品が必要なときは、黄色い旗を。
それを見つけたご近所さんが、必要なものを届けに行くこともできるし、
新しく立ち上がった 「旗対応ボランティアチーム」 に連絡すると
若者たちが必要なものを届けにきてくれるという。
さすがミャンマー。
政府に助けてもらえない国民たちの相互扶助ネットワークは、本当に目を見張るものがある。
===
さて、一方の政府は最近どんなコロナ対策に力を入れているのかというと、
なんと、火葬場を増設している。
1日3000人を火葬できるようにするのだという。
完全に斜め上の解決策で、驚いた。
確かに、火葬が追いつかない現実はある。
一般のゴミ焼却施設に、遺体が運び込まれている様子もSNSで出回っていた。
それはそれで、何とかしなければならないだろう。
しかし、必要な治療をせず、医療者たちを逮捕しておきながら
火葬場を増やす、というのは凄まじい違和感だ。
国民がどんなに死んでも大丈夫、と言われている気分になる。
(↓信じられない!とボヤく私に、友達がシェアしてくれた映像。
  国軍メディアMRTVによる、火葬場建設の様子)

===
お父さんがCOVIDセンターに隔離されてしまった友人は、
自嘲するようにこう言った。
「ねぇ、覚えてる?
 国軍は去年、第1波・第2波のとき、NLD政権のコロナ対策を批判してたんだ。
 うまくコントロールできてない、とか言ってさ。
 それが、見てよ今の状況。笑っちゃうよ」
そして、ハハッ、と乾いた笑い声をあげた

洪水のカレン州にて。 一人の命を守るのは、こんなに大変なのだ。それでも何とか生き抜かなければならない。 カレンに住む友人は「2年前の洪水のときは政府から食べ物の配給があって助かったけど、今年は期待できないな」とぼやいた。 (c) Delta News Agency

 

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