「迫るD-day」
人権を取り戻し、新しい国をつくるために

  • 2021/9/3

【編集部注:】

クーデターから7カ月が経過したミャンマーで、いよいよ戦闘が始まるという噂がささやかれています。非暴力を貫いてきた市民らが戦うしかないと決意し、D-day(作戦開始日)に期待を寄せている様子を生々しく伝えるFacebook投稿を紹介します。

月曜の早朝、ヤンゴンとマンダレーで同時多発的に大きな爆発が起きた。けが人はいない。誰がやったのかもわからない。ミャンマー人の友達によれば、PDFは自分たちがやったことについては、Facebookなどで自分たちがやったと声明を出すそうだ。そんな事情があるからか、「軍の自作自演でしょ」と鼻で笑う人もいる。 (c) Myanmar Now / website

~ 以下、Facebook投稿より ~

コロナが落ち着いたミャンマーに、火薬の匂いが漂っている。
「もうすぐ、戦いが始まるよ」
地方に住む友人からそんな電話がきたのは、8月20日頃だった。
「その情報、どのくらい信憑性があるの?」と聞くと、
彼は「本当だよ、僕たちはやるって信じてる」と明るい声で答えた。
いつかじゃない、近い将来。それも、かなり近い将来だと思う。
彼は力強く、そう繰り返した。
===
戦闘が始まる。D-day(作戦開始日)が迫っている。
確かに数日前から、そんなウワサを耳にしていた。
NUG(民主派政府)の、国民を守るために戦う、という公言を
「宣戦布告」と物々しく報じたメディアもあった。
ただ正直なところ、そういう話はこれまでにも何回かあったので、半信半疑だった。
そこで別の友人にも尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「5ミリオンチャレンジって聞いたことある?
 今、Facebookで、NUGの防衛省がお金を集めているんだ。
 武器を買うお金だよ」
あぁ、見たことある。あれ武器のためのお金だったの?
でも武器ってどこで買うの?外国?どうやって運び込むの?
立て続けに聞くと、彼はアハハと笑った。
「僕は一般人だから、詳しいことはわからないよ。
 でも、その道に通じている人たちがいるんだ。
 ミャンマーで武器を手に入れるのは、そんなに難しいことじゃない」
確かに、そうかもしれない。
少数民族の武装勢力たちは、非合法なルートで多くの武器を手に入れてきた。
そして、それらの組織の多くは今、NUGと連帯している。
国軍を解体し、民主国家のもとで連邦軍をつくるためだ。
「5ミリオンチャレンジは、抽選で景品がもらえるんだ。
 チケットは1枚1万チャット(約700円)、僕も10枚買った」 
えっ、この間、給料の支払いが止まって困ってるって言ってなかった?
「僕は借金してでもチケットを買うんだ。
 この革命は、本当に大切なことだから」
そうか、そうなんだね、と答えて、しばらく黙り込む。
内戦ではなく「革命」と、彼は言った。
===
8月下旬にコロナ感染が落ち着きはじめるのと前後して
ミャンマーでは再び、きな臭い事件が増えた。
つまり、どこかで爆発が起きたり、誰かが殺されたりしている。
国軍、またはピューソーティと呼ばれる軍の手下たちが動いているケースもあれば
民主派のPDF(市民防衛隊)が動いているケースもあるという。
ピューソーティというのは、軍が組織した民兵で、
普通の服を着て、普通の市民のような顔をしている。
そして軍の命令に従って、民主派の市民を逮捕したり、殺したりする。
驚いたことには、ときに軍側の人間を殺したり、公共施設を爆破したりもするらしい。
は?なんで?と、頭の上にハテナマークを浮かべる私に、友人たちが説明してくれたことには
「市民に濡れ衣を着せて、攻撃する口実をつくるんだよ」ということらしい。
日本人の私には想像もつかない話だが、
ミャンマー国軍のこうした前科は、枚挙にいとまがないという。
「軍のやり方はもう古い。奴らの手の内は、もうすべてわかってる」と友人は嘲笑する。
===
逆に、若者たちが中心になって組織するPDF(市民防衛隊)は、
そうした危険分子を排除すべく、攻撃をしかける。
つい先日も、ヤンゴンの住宅街に住む知人からこんな話をきいた。
「数日前に、うちの近くでダラン(軍のスパイとして働く住民)が殺されたの。
 PDFがやったみたい」
えっ!あなたは大丈夫?と心配する私に、彼女はこう答えた。
「うん、私は大丈夫。
 近所でだれかが殺されるなんて、落ち着かないけどね。
 でもそのダランのせいで、罪のない人がたくさん捕まって、拷問されているの。
 だから、うーん、なんて言えばいいかなぁ…」
そう言って彼女は困ったように笑い、
平和な国からやってきた外国人を傷つけないよう、言葉を濁した。
うん、うん、と頷く。
彼女の言いたいことは、言葉にしなくても伝わった。
===
人々が反撃を決意するまでに、どれだけの人が殺されたのだろう。
青空の下で自由を叫び、歌をうたう丸腰の市民に、
軍は銃弾やロケット砲を撃ち込んだ。
それでもデモ隊は「暴力でやり返しちゃダメだ」と諌め合っていた。
実弾で頭部を狙ってくる“治安部隊”に、打ち上げ花火で対抗していた若者たち。
犠牲者はデモ隊だけではなかった。
人の命を救おうとした医療者。自由を綴った詩人。
イデオロギーなどわからない小さな子どもまでもが、標的にされた。
鍋を叩いたご近所さんは、暗闇の中、護送車に乗せられて行った。
人々は国中で「R2P」のプラカードを掲げ、国際社会に助けを求めた。
でも、誰も助けに来てはくれなかった。
市民は、喜んで武器を手に取ったのではない。  
ただ、非暴力が、あまりに無力だったのだ。
傷痍軍人の祖父をもつ私は、
戦争はどんなことがあっても絶対にダメだと信じ、疑わなかった。
でも、ここにきて気がついた。
それは確固たる信念ではなく、ただの思考停止だった。
戦争は絶対にダメだから、それについては考える必要もない、と。
そして今は、戸惑いながらも、思う。
正しい戦争は、あるのかもしれない。
===
そんなことを書いていたら
冒頭の友人から、再び電話がかかってきた。
「昨日、軍に踏み込まれたよ。夜中2時頃だ。 
 標的は僕じゃない。同じアパートのリス族の住民を探していた。
 ダランが密告したんだろう。逃げられないように夜中にきたんだ。
 僕の部屋にも兵士が入ってきたけど、僕は武器も持っていないし、
 スマホのチェックも、昔使っていた古いスマホを見せて乗り切った。
 軍がアパートから引き上げたのは、朝4時頃だった」
疲れた声で、彼はこう言った。
「ねぇ、わかるだろう?
 軍が支配するこの国に、僕らの人権はないんだよ。
 僕らは戦いたいんじゃない。
 人権を取り戻して、新しい国をつくりたいんだ」

ちなみにこちらが、5ミリオンチャレンジのオンラインポスター。最終日の8月末の数日前に、目標金額500万ドルを達成したそうだ。 抽選で当たるの商品の中には、8888民主化運動の学生リーダーだったミンコーナインの絵などもある (c) 5million challenge

3月から4月にかけて、軍の武力行使を目の当たりにした市民たちは「R2P」のプラカードを掲げた。 R2Pは、Responsible to Protectの略。 国の政府に国民を守る意思がない場合、国際社会がその政府にかわって人々を守る責任を負う、という考え方だ。 国際社会はこの責任を果たせなかった。 (c) Save Myanmar / Twitter

路地に入ると、革命の熾火がいたるところに残されている。今月は、スーチーさんの裁判も予定されている。懲役が何十年になろうと、人々は興味を示さないだろう。どうせすべては濡れ衣なのだから(筆者撮影)

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