「閉塞した現状に灯る光」

  • 2021/10/21

【編集部注:】

ミャンマーでクーデターを起こした軍に対し、市民の圧倒的な支持を得る国家統一政府(NUG)が「自衛のための戦争」を宣言して蜂起を求めてから1カ月。地方では闘いが続く一方、最大都市ヤンゴンでは、一見すると1月までの姿が戻りつつあり、事態打開の兆しが見えないことに閉塞感を募らせていた筆者が、現地の友人との会話を通じて彼らが決して諦めていないことに気付いた様子を綴ったFacebook投稿を紹介します。

こちらは今も裏通りに残っている。   We want Democracy. シンプルで力強い願い。(筆者撮影)

~ 以下、Facebook投稿より ~

D-day(戦闘開始)の宣言から1カ月以上が経った。
ヤンゴンでの生活に、変わったところはない。
いや、むしろ町には以前よりも活気が戻っている。
急激なインフレでも、ショッピングモールは人で溢れているし、渋滞も増えた。
インヤー湖畔には、犬を散歩させる家族づれや、いちゃつくカップルの姿。
町のいくつかのポイントには、相変わらず軍がバリケードを張り、傍には兵士が立っている。
不意に通り過ぎる軍のトラックからは、通行人に向けて銃口が突き出ている。
うわ、軍だ、と一瞬だけ緊張する、その瞬間も日常生活の一部になった。
明日から始まるダディンジュ(雨季明けの満月)の連休、
ビーチに向かう飛行機や観光地のホテルは、すでに予約でいっぱいだと聞く。
それでいい、と頭ではわかっている。
経済を回さなくてはならない。この日常を生きていかねばならない。
それでも、もうひとつの現実、、、
つまり、地方では軍の兵士やPDFが殺し合っていることを思うと
気楽にヤンゴン生活を送ることに、罪悪感を抱いてしまう。
だから、あまり深く考えないようにする。
そして、負傷したPDFへの医療支援にいくばくか寄付をして、お茶を濁す。
レストランでおいしい料理をお腹いっぱい食べたあとに
「やれる支援はやっている」と、こっそり自分を正当化していることに、
自分だけは気がついている。
(PDF=民主派の戦闘グループ。民主派政府NUG公認の人民軍。)
===
閉塞感でどうしようもない時、私はミャンマー人たちと話す。
「D-dayまで宣言したのに、ヤンゴンにいると何も状況が変わらないみたい。
 それどころか、クーデター前の状況に戻っていくみたいで、なんか複雑」
そんな風に嘆くと、友人たちはこんな風に教えてくれる。
「ヤンゴンにいると、見えないよね。
 でも、地方ではPDFが本当にがんばっているんだよ」
「PDFは十分な装備も給与もないけど、信念がある。
 何より軍に捕まったら殺されるから、命がけで戦う。だから強いよ。
 警察と軍には、PDFほどの士気はない。正義がないからね。
 奴らはもう、戦うのが嫌になってきている。
 地方では、PDFと戦わずに民主側に寝返る兵士も多いんだって」
別の友人が、「ヤンゴンでも、毎日いろんなことが起きているよ」と口を挟む。
確かに、どこかで爆発が起きたとか、ダラン(軍の密通者)が殺されたという話はしばしば耳にする。
でもそんな情報も、ひっきりなしにあるわけではない。
「みんなFacebookに情報を上げなくなったからね。
 以前は、誰かがすぐに“○時○分に○○通りで爆発!”とか情報を流してたけど
 今はどこで何が起きたか、あまりみんな投稿しないようになったの。
 PDFを守るためだよ。
 彼らに逃げる時間を与えるためには、情報は遅い方がいいの」
リーダー不在のミャンマーで、こんな風に人々の間で合意がなされ
ゆるやかに団結してひとつの方向に向かっていくのは、
とてもミャンマー市民っぽい感じがする。
ヤンゴン郊外で暮らす友人は、
そういえばね、とイタズラっぽい表情で付け足す。
「私の町では、警察の中に民主派がかなり混じってるんだよ。
 彼らは警察官として働きながら、内部情報を市民にリークするの。
  “いま兵士たちがどの道を通ってどこに向かったぞー” とかね」
えー、それってバレたらやばいやつだよね? 
「もちろんよ!でも、これはどこも同じなの。
 たとえば軍政府から各省庁への情報も、軍は絶対に秘密にできない。
 CDMをやめて職場に戻った公務員たちが、流出させるから。
 部外秘!と書かれた文書が、その日のうちにFacebookに載るんだから、笑えるよね」
ひとしきり、スカッとするような話を終えると、
ひとりが少し曇った表情をして、困ったように笑った。
「毎日いいことも悪いことも、色々あるよね」
「どこかの町でPDFが勝ったと聞いて、喜んで友達に電話すると
 その友達はそのとき、故郷の村で知り合いが拘束されて悲しんでいたりする。
 毎日、毎時間、嬉しかったり悲しかったりしてるよ」
===
一見変わらない日々の水面下で、反軍政を貫き、闘う人々。
ただ、その闘いが、果たして軍を追い詰めているのか、と考えると
何となく、また閉塞感が戻ってきてしまう。
たとえばD-dayの直後から、勢いを増した地方のPDFたちが
軍系の通信社Mytel(マイテル)の電波塔を次々と爆破した。 
D-dayから数日後に「もう100基近く倒したんだよ」と聞いて、すごい!!と高揚したのだけれど、
冷静に考えれば、いくら電波塔を倒したところで軍政は倒れない。
ネピトー(首都)の軍政府が息絶えなければ、この軍政は終わらないのだ。
そこに近づいているのかどうかが、私には見えない。
あるビルマ族の知人は、はっきりとこう言った。
「PDFがどんなに命がけで闘って、兵士を何百人殺しても、
 ネピトーには何の影響もない。痛くもかゆくもないだろう。
 ミンアウンフラインは、PDFの命も兵士の命も、何とも思ってないよ」
でもね、と彼は続ける。
「それでもPDFが闘い続けなければ、軍政に立ち向かう人がいなくなる。
 ミャンマー中の人々の「軍を倒すぞ」という希望がなくなる。
 希望がある限り、人々は反軍政の気持ちを絶対に忘れない。
 PDFだけでは、勝てないかもしれないけれど
 それでもやっぱり彼らは、希望なんだ。
 僕たちは必ず勝つよ。時間はかかるかもしれないけど、必ず。
 だからそれまで僕は、PDFの支援をやめない」
===
別の友達は、笑いながらこう言った。
「私、PDFが武器を買うためにたくさん寄付したから、
 今まで善行で積んだ功徳がパーだわ。ははは」
やくざな仏教徒の物言いに、思わず吹き出す。
彼女はクーデターの前から、貧困者の食糧支援などを続けている。
誰か困っている人がいると見るや、すぐに手を差し伸べる。
同じ寄付でも、やっぱり武器だと功徳にはならないかね、なんて笑っていると
彼女は、ふと落ち着いた声に戻ってこう言った。
「民主化したらさ、いつか寄付なんていらなくなるよね。
 寄付の文化なんてなくなるくらい、みんなで豊かになれたらいいよね」
===
民主主義がなくなった国で、戦いが続く国で、思い描く未来。
一人ひとりの小さな希望や、PDFに懸ける願いが、
閉塞した現状の中でも、心に光を灯してくれる。
必ず軍は崩れる。必ず自由が戻る。
誰かと話をするたび、どちらからともなく合言葉のように、そんな言葉を交わす。
人々が希望を捨てない限り、必ずまた強い風が吹く。
がんばれ、ミャンマー。
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、前を向く。

スーチーさんの自宅前。 24時間体制で(たぶん)、兵士が見張っている。   土嚢を積まれたボックスの中からは(写真では見えないが)銃口がこちらに向けられてセットされている(筆者撮影)

こちらもザガイン、モンユワ地区。   抑圧された社会の中でも、諦めずに行動し続ける人々が、反軍政運動のエンジンを回し続ける (c) Myanmar Now/Facebook

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