「人災との闘い」
命綱の酸素をコントロールし、市民に服従を強いる軍
- 2021/7/17
【編集部注:】
ミャンマーで新型コロナの感染拡大が深刻です。クーデターによって社会が機能しなくなっていたところに感染者が急増し、適切な処置を受けられないまま「人災」によって亡くなる方々が相次いでいます。現地の様子を伝えるFacebook投稿を紹介します。
~ 以下、Facebook投稿より ~
数カ月前のミャンマー・ヤンゴンは、「ほとんどの人は、家族や知り合いの誰かが拘束されているか、拘束を恐れて逃げている」という状態だった。その状態は今も続いているが、また新しく困難が加わった。「ほとんどの人は、家族や知り合いの誰かが新型コロナウイルスに感染して助けを求めているか、すでに亡くなっている」ということだ。実際に私のヤンゴンの知人も、コロナの症状を呈して寝込んでいる人がいる。昨日は、ヤンゴンで大変お世話になった人の家族が全員コロナとみられる症状を呈し、高齢の両親が帰らぬ人となったとの連絡があった。私のSNSのタイムラインは、酸素ボンベを求める人の悲鳴で埋め尽くされている。
7月14日には、検査で判明しているだけでもミャンマー全国の一日当たりの感染者数が7000人を超えた。しかし、検査数に占める感染者数の割合は3割に達しており、表に出ている感染者は氷山の一角だろう。
これは明らかに人災である。2月のクーデターを機に、医療従事者がゼネストに突入したほか、大病院の敷地が軍に占拠され駐屯地として使われるなどして、医療体制が事実上崩壊した。需要が急増した医療用の酸素は、軍が業者に対して軍系や公立の病院などに供給を限るように指示しているという。このため、病床にある家族らを救うため酸素を求める市民らは、非公式に販売してくれる業者に殺到、長蛇の列を作っている。軍の支持者は「軍を支持すれば酸素がもらえる」と呼びかけており、市民側は「命綱である酸素をコントロールし、市民に服従を強いている」と猛反発している。
私が収監されていたインセイン刑務所でも、多数のコロナ患者が出ているとされ、現地の関係者によると、先週から封鎖が始まり裁判がストップしたほか、差し入れも困難だという。収監中の米国人ジャーナリスト、ダニー・フェンスター氏らが症状を呈しているとされ、家族が適切な治療を求めている。
国軍側は17日から一週間を休日として厳しいロックダウン体制を敷いた。しかし、ある知人の市民活動家は、「こんな状況になっても、市民はクーデター体制を正当な政府とは認めていない」と話す。それは、今の状況がクーデターとその後の混乱によってもたらされたものだと市民は実感しているからだ。
昨年、国の実質的トップであったアウンサンスーチー国家顧問は厳格な自宅待機や夜間外出禁止など国民に忍耐を強いていたが、自ら手縫いで布マスクを作り国民にマスク着用を呼びかけた。多くの人がその呼びかけに勇気づけられ、手作りマスクをつけた写真をSNSに投稿した。企業の経営者はコロナ対策に私財を投じ、多くのボランティアが隔離施設に食事を持って駆けつけた。
そうした政府と国民の信頼関係は、今はない。国民はクーデター体制を打倒しようとストライキを続けている。公的な施設はボランティアに敬遠され、寄附をすることもはばかられる雰囲気だ。患者を支援する動きは、政府と関係していない地元グループなどが行っている。学生らは寄附を募って酸素の供給ステーションをつくようとしているし、どこで酸素が補給できるかわかるアプリを開発した人もいた。そうした人たちが、最後の砦となってこの病魔と闘っている。
(写真は、フェイスブック上で流布しているもので、銀行てお金をおろすにも医療用酸素にも、そして埋葬するにも長蛇の列ができていると訴えている)