「ミャンマーの大学再開と教育現場のCDM」
教員の大量解雇に交錯する決意と迷い
- 2021/5/9
【編集部注:】
5月5日から大学の再開が宣言されたミャンマー。しかし、ほとんどの教職員と学生がキャンパスには戻らず、軍は従わなかった教職員を大量解雇し、指名手配しています。国の未来の礎となるべき教育現場が大きく変わろうとしている様子を伝えるFacebook投稿をご紹介します。
~ 以下、Facebook投稿より ~

軍の教育を受けた子が、ほかの子どもたちの思考や夢を銃で撃つよう指導を受けている図。今回の抗議活動では、こうしたアートやイラストが目を引く。(c) The Irrawaddy Burmese edition /Facebook
5月5日から大学を再開する、と宣言していた国軍。
さて、その思惑やいかに。
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結論からいうと、再開は失敗した。
生徒も先生も、ほとんど戻ってこなかったのだ。
「軍政下の教育は受けない」という、ミャンマー人たちの確固たる意思表示。
この決意の代償は、出勤しなかった教職員の大量解雇、だった。
ヤンゴン大学とマンダレー大学という、トップ1、2の大学では
教授から助手にいたるまで、実に731人が解雇された。
宿舎からも3日以内に立ち退かねばならないという。
ヤンゴン郊外出身の友人は、こう嘆いた。
「この2つの大学は、ミャンマー人みんなの憧れの、特別な大学なの。
ヤンゴンで生まれ育った子は、誰もが一度は
『大きくなったらヤンゴン大学に』と夢見て育つんだよ。
そこの先生をクビにするなんて・・・
みんなの夢や憧れの気持ちも傷つけられたみたい」
先生がいなくなった大学。
もし仮に生徒が大学に戻ってきたところで、いったい誰が教えるというのだろう。
(まさか軍人じゃないだろうな)
それに、大学の先生は研究者でもある。
さまざまな学問分野で研究成果を出して、国の方向性の土台をつくる人たちだ。
軍は、代わりのいない人材を切り捨てた。
ミャンマーの未来が死んでいく。
軍事クーデターによってこの国が失うものは、計り知れないと、改めて思う。
(ちなみにミャンマーの大学はすべて公立なので、
ミャンマーにいる限り、国立大がダメなら私立大へ、という選択肢はない)
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教育制度も大きく変えられようとしている。
これがまた、まったく意味不明な改正だ。
ミャンマーの学校は、11年制。
一応、小学校(5年)、中学校(4年)、高校(2年)に分かれているが
日本のように「中学1年」「高校1年」などとは呼ばず、
「グレード1」から始まり「グレード10」まで
1年=1グレードで、着々と進級していく。
軍はこれを「1年=2グレード」にする、というのだ。
つまり、進級のスピードを、これまでの2倍にするということ。
え?・・・待って。何のために?
思わず、ミャンマー人の同僚を質問攻めにする。
みんな5年そこらで、アイウエオから高校卒業までの内容を終えるってこと?
それとも、グレードを増やすの?今度は全部で何年?
彼は、困惑顔でこう答えた。
「そういう細かいことは何も説明されてないんだ。
目的もよくわからない。
ただ、MRTV(軍営TV局)で『1年=2グレードにする』って放送されただけ」。
決まったことを一方的に伝えて、説明も質疑応答もない。
これぞ、まさに軍政時代の教育そのものではないか。
そして、そんな理解不能な状況の中、
軍は、6月1日に小中高の基礎教育も再開すると宣言している。
軍営新聞に載っていた教育省のミーティングの記事は、
全生徒にノート12冊と鉛筆4本を支給し、中高生にはさらにペンも2本つけます、
という超どうでもいい内容で、思わずため息が出る。
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先生たちの訴追は、今日も続いている。
新聞には、医師と先生の指名手配リストが、毎日律儀に10人ずつアップデートされている。
罪状は、刑法505(a)。
クーデター後に軍が改訂した条文で、これによりCDMへの参加が犯罪とされた。
CDMを熱心にサポートする知人は、こう話した。
「医師や教師は、この国で本当に尊敬されてきた職業なの。
それが今や『犯罪者』で、逃亡生活をしてる。胸が痛い」。
また彼女は、CDMへの決意と迷いについても語ってくれた。
「みんな、絶対に軍政に抵抗すべきと信じてる。
非暴力で戦うには、もうCDMしかないのもわかってる。
でも、いつも自分の胸に問うているの。
クビになって、家や収入を失ってもいいのか?
患者や生徒を見捨てることにならないか?
本当にこれは正しいことなのか?って」
決意と迷いが、交錯する。
苦悩しながら、それでも前に進む。
熱のこもった闘いが続いている。