南シナ海問題で揺れる東南アジア 問われるASEANの存在感
日米比首脳会議で対立が一層深刻化 仲介役を担うのは誰か

  • 2024/5/24

 南シナ海の領有権をめぐり、中国とフィリピンの対立が深まっている。フィリピンは米国や日本との関係を強化することで中国に対峙しようとしているが、中国はその動きを真っ向から非難しており、両国間の緊張は高まる一方だ。また、地域の安定を目指す東南アジア諸国連合(ASEAN)を巡っては、実質的な存在感が疑問視される事態になっている。

アメリカ合衆国のワシントンDCで開催された日米比首脳会談にて、左から、フェルディナンド・マルコス比大統領、ジョセフ・バイデン米大統領、岸田総理(2024年4月11日撮影)(c)内閣官房内閣広報室 / Wikimedia Commons

「ASEANは社交クラブに過ぎない」
 フィリピンの英字紙、フィリピン・デイリー・インクワイアラーは4月18日付の社説で、ASEANは「社交クラブに過ぎない」と、手厳しく断じた。
 社説は冒頭で、フィリピンと米国、日本の姿勢について論じた。4月11日、アメリカのバイデン大統領、フィリピンのマルコス大統領、岸田首相は、アメリカ・ホワイトハウスで初の3カ国首脳会談を開いた。この場でバイデン大統領は、フィリピンに対する支援を「鉄壁」だと表現し、南シナ海でのいかなる攻撃からもフィリピンを守る、と述べた。
 社説はこの会談について、「フィリピン、米国、日本の3カ国による協力協定の締結が中国を見据えたものであることに疑いの余地はない。この首脳会談の主な目的は、中国の攻撃的な行動にどう対処するか、ということだ」と、指摘する。一方、この動きに対して中国は、在マニラ大使館を通じて「落胆」を表明。フィリピンに対し、「非地域勢力と結託すれば、中国に対するコマとして利用された挙句、捨てられるだけだ」と警告した。社説は中国のこの牽制を「いつものように威勢よく呼び掛けた」と、嫌味たっぷりに紹介している。
 一方、ASEANについては、「支持や支援を期待することは無駄だ」と言い切り、次のように指摘する。
 「ASEANの大半の国は中国との貿易に依存しており、南シナ海問題についてフィリピンを支持する態度は見せないだろう。とはいえ、中国に従順でいることによって各国が利益を受けている限り、その従順さを非難することはできない。事実、ASEAN加盟国はこれまで、みな自国の利益を優先させてきた。つまり、この組織は、メンバー間の団結をアピールするために華やかな会合を定期的に開く社交クラブに過ぎないのだ」

米中対立から一線引くインドネシアへの期待
 一方、ASEANの域内大国であるインドネシアの英字紙ジャカルタポストは、4月15日付で、南シナ海問題におけるインドネシアの役割を論じた。
 社説は、「急速に変わりつつある南シナ海の地政学的状況に関し、ASEANはその存在感を著しく欠いている」と指摘。その例として、加盟国同士のフィリピンと中国の対立が深刻化しても、ASEAN諸国はほとんど沈黙を守っていることを例に挙げた。また社説は、ASEANがミャンマーの問題を解決できていないことにも言及し、「ASEANは安全保障と政治的な課題においても失敗している」と、批判した。
 一方、ASEANに対する期待値はインドネシアの社説も非常に低い。特に、中国に対する足並みすらそろえられずにいるASEANが、今年の議長国であるラオスの下で紛争海域の和平に向けてイニシアチブをとることは、「ほぼ絶望的だ」との見方を示す。その一方で、「インドネシアが何らかの役割を担うことを世界は期待している」と自負心をのぞかせる。
 社説は、「インドネシアは東南アジア最大の国であるばかりでなく、世界第4位の人口を擁し、世界で3番目に大きな民主主義国であり、世界経済の重要な担い手でもある。何より、米中対立の中で、中立を保つことができている数少ないASEAN諸国の一つであり、仲介役を担うには十分な資質がある」と指摘。「インドネシアが何もしないという選択肢はない」と述べ、南シナ海において紛争の調停役となる必然性を力説した。

(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/04/15/whither-asean-in-the-south-china-sea.html

フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/173033/trilateral-pushback-against-china

 

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