スリランカでコロナ禍の学校再開をめぐり議論
不都合のしわ寄せは誰に?地元紙が問い掛ける教育の最優先課題 

  • 2020/12/15

新型コロナウイルスがもたらした変化の中で、最も大きなものの一つは「オンライン授業」だろう。「教室に来てはならない」状況下で実施されたオンライン授業。しかし、そこには通信インフラや端末の有無など、さまざまな「格差」が潜んでいることも浮き彫りになった。11月30日付のスリランカの英字紙デイリー・ニューズでは、社説でこの問題をとりあげた。

Julia M Cameron / Pexels

対面授業の再開に反対する人たち

 コロナ禍は社会にさまざまな影響を与えたが、その中でも最も混乱が大きかった分野として、社説は教育を挙げる。

 「米国のような大国であれ、私たちのような新興国であれ、コロナ禍は同じような難問――すなわち、学校で対面授業を再開すべきか、オンライン授業を今後も長きにわたって継続すべきかという問い――を、すべての人間に公平に突き付けた」

 さらに社説は、大国と新興国の共通点をもう一つ指摘する。

 「米国でもスリランカでも、通常の対面授業の再開に教員組合が反対し、知識層や市民社会から激しい非難を受けるという構造が共通していた。その原因として、子どもたちは新型コロナに感染したり重症化したりするリスクが低いと考えられていることが挙げられる」

 この社説は、オンライン授業への賛否を明らかにはしていない。しかし、「オンライン授業は決してすべての問題を解決する万能薬ではない」と指摘し、一枚の写真を例に挙げる。それは、地方の子どもたちが身を寄せ合い、小さな携帯電話の画面を見ながら授業を受けている写真で、インターネット上で出回り話題を呼んだものだという。

 社説は、「各家庭にはインターネットがない地方部では、子どもたちはこういう不自由な思いをしながら授業を受けている。誰がどこでこの写真を撮影したかは不明だが、スリランカの地方はいまだオンライン授業ができるほどインターネットが整備されていないのは明らかだ」と指摘した上で、「オンライン授業は便利だとよく言われるが、必ずしもすべての人にとってそうとは限らない。豊かな国では電波の不具合に悩むことはあまりないかもしれないが、それでもすべての子どもたちが良好な通信環境に恵まれ、良い端末を手にできるわけではないはずだ」と言う。

 さらに、学校の再開に踏み切った政府の方針について「正しい判断だ」と評価し、今後、コロナ禍が長く続いたとしても、教員組合は学校がスムーズに機能するように協力して組むべきだと指摘する。

 「多少のブランクがあっても、若者たちはすぐに取り返せるだろう。あまり心配しすぎる必要はない。しかし、学校の閉鎖が長く続けば、社会全体に悪い影響が及ぶだろう。豊かな国であっても、貧しい国であっても、それは同じだ」

保護者の精神状態にも影響

 さらに社説は、学校の閉鎖は、子どもたちだけでなく保護者の精神状態にも良くないと指摘し、次のように述べる。

 「米国であれ、別の国であれ、経済状態が厳しい家庭の保護者たちの多くは、子どもたちの栄養源を学校給食に依存している。さらに、働きに出なければならない保護者たちにとって、学校は子どもたちの面倒を見てくれる場所でもある」

 コロナ禍で学校を再開するにあたってはさまざまな課題があるとしながらも、社説は政府に非協力的な野党を強く批判する。これは、11月27日の国会において、野党が「東部バティカロア州にあるバティカロア・キャンパス大学がイスラム過激派の思想教育に利用されている」と述べ、認可を与えた教育省を糾弾したことを受けたものだ。野党は、同国で昨年4月、バティカロアや最大都市コロンボなど6カ所で同時テロが発生し、258人が死亡し、500名以上が負傷した事件とこの大学が関連しているのではないかと批判しているが、社説は野党の主張を「根拠に欠ける」と一蹴している。

 コロナ禍が長期化すればするほど、私たちは生き抜くためにこの状況に嫌が応でも「慣れ」て来て、多少の不便や多少の不都合は我慢しなければならない、と思い始める。しかし、コロナウイルスが消えてなくなるものではないとするなら、こうした不都合を、誰に、どこまで背負わせるのか、私たちは一つひとつの事象にもっと丁寧に向き合わなければならないのではないか。オンライン授業の在り方を問うスリランカ紙の社説は、そのことを考えさせる。

(原文: http://www.dailynews.lk/2020/11/30/editorial/234756/learning-through-covid)

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