「遠い国の紛争」がなぜ私たちにとって重要なのか
イスラエルで自国民を殺されたアジア諸国の声
- 2023/11/22
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの間で10月7日以降、大規模な武力衝突が続いている。10月末までに、イスラエル側で1400人以上、ガザ地区では子ども3000人以上を含む8000人余りが命を落としたと伝えられている。
イスラエル軍に包囲されたガザ地区では、電気や通信が遮断され、食料などが不足。ようやく支援物資が届けられたものの、その量は全く足りておらず、人道危機は深刻化の一途をたどっている。中でもハマスが拠点とするガザ地区北部への攻撃は激化し、多くの住民が避難する病院付近でも空爆が続いているという。こうした状況に対し、国連総会は10月27日、イスラエルとハマスの衝突をめぐる特別会合を開き、「人道的休戦」を求める決議案を採択。121カ国が賛成した。米国、イスラエルは反対し、日本など44カ国が棄権した。
ハマスの攻撃に巻き込まれたタイ人
タイの英字紙バンコク・ポストは10月14日付の紙面で「平和をわれらに」と題した社説を掲載した。今回の武力衝突による犠牲者には、イスラエルとパレスチナの住民だけでなく、多くの外国人も含まれている。「少なくとも1300人のイスラエル人が、この憎むべき攻撃によって殺害された。女性や赤ちゃんや老人を含む、無抵抗の市民たちだ。人質となった人々の中には、16人のタイ人も含まれている。さらに、現地ではすでに21人のタイ人が、残酷にも殺害されている」
社説は、ハマスによる攻撃をこう非難する一方で、「ネタニヤフ政権の姿勢にも問題がある」として、次のように指摘する。「この紛争において、すべてのイスラエル人が、ネタニヤフ氏の戦略に賛同しているわけではない。同氏の右派的な姿勢は、問題を深刻化させこそすれ、決して解決にはならない、と考える人たちもいる」。
そのうえで社説は、「ガザ地区の人道危機をすぐに停止する必要がある」と訴え、「今回の紛争によって世界の政治的な分断が深まり、中東以外にも脅威が広がる恐れがある」という懸念を示している。
ネパールも自国民が犠牲になりハマスを批判
ネパールの英字紙カトマンドゥポストも10月9日付の社説で、今回の紛争に自国民が巻き込まれたことを伝えた。
「私たちはイスラエルのニュースによって、遠く離れた場所での紛争がなぜ重要なのか、ということを思い知らされる。ハマスによる残忍な大規模攻撃によって、イスラエル南部に住んでいた、少なくとも10人のネパール人学生が死亡し、1人が行方不明になっているうえ、4人が負傷した」。社説は、イスラエルに4500人のネパール人介護士と265人の学生がいたと伝える。
さらに社説は、イスラエルとパレスチナの歴史にも触れ、「歴史上、多くの過ちが繰り返されてきた」と述べる一方、「ハマスのような過激派組織は、イスラエルとの政治的闘争に臨むにあたり、パレスチナ人の怒りを利用した」と、断じた。
そして、ネパールを含む諸外国の役割として、「和解を推し進めるということ以外に選択肢はない」と、主張。「世界の超大国、特に欧米諸国が和解に向けて果たすべき役割と責任は大きい」と、強調した。
オイルショックの再来か? 紛争による経済への影響
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは10月27日付の社説で、この紛争が経済に与える影響について論じている。
「ハマスやヒズボラを支援しているイランは、これまでのところこの紛争に直接的には関与していない。しかし、今後、ハマスに支援していることを理由に、アメリカがイランの原油輸出に対して制裁を強化する可能性がある。冬が来れば、ロシアも原油供給を抑制する可能性が高い。そうなれば、原油価格が世界的に一層、高騰するリスクが高まる。オイルショックに備えるべきだと警告する声もある」
社説は、「現時点では金融市場は紛争に大きな反応は示していない」との見方を示したうえで、「金やビットコインの価格はすでに急騰しており、代替資産への逃避がみられる」と指摘する。「この紛争によって、金融市場が国際的に安定にする可能性が高い。また、アラブ諸国とイスラエルとの関係正常化が進まないという地政学的リスクは、この地域の金融市場と経済にとって大きな脅威となっている」
(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2663874/give-peace-a-chance
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2023/10/09/old-wound
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/geopolitics-heightens-market-risks