アニメーションは世界を救う? 海外から見る日本の文化
変わる「異端者」との距離感

  • 2020/2/1

カンボジアで出会った「ミサエ」と「シンチャン

 2001年9月、砂けむりが吹き上がる発展途上国のイメージ通りのプノンペンの街に降り立った。その当時のカンボジアは、かつてポル・ポト政権下で刑務所として使われ、拷問や虐殺が行われていたトゥールスレイン強制収容所やキリングフィールドの生々しさが、内戦の爪痕を強く感じさせたのを覚えている。

プノンペンの街角では小さな屋台をよく見かける (c) Taylor Simpson / Unsplash

 そんな旅の最中のある夜、ふらふらとローカル屋台に立ち寄った。指差し注文をして、座席に着く。すると屋台のカンボジア人のおばちゃんが 、「What your name??」とカタコトの英語で聞いてきた。だから、私からも同じように彼女の名前を聞き返すと、おばちゃんは笑いながら、 「ミサエ、ミサエ」 と答えた。

 訳が分からなかった私は、見るからに不思議そうな顔をしていたのだろう。おばちゃんは続けて辺りを走り回っている自分の息子を指差し、「シンチャン、シンチャン」 と言った。

カンボジアの孤児院に描かれた「クレヨンしんちゃん」の落書き(筆者撮影)

 それを聞いて、はっとした。おばちゃんが言っていたのは、日本のテレビアニメ「クレヨンしんちゃん」に登場する「みさえ」と「しんちゃん」のことだったのだ。自分の息子は「野原しんのすけ」のようにいたずらっ子で、おばちゃん自身は、しんのすけの母「みさえ」のようにいつもガミガミ怒っている、と言いたかったということが分かった瞬間、私は、日本のアニメーションのおかげで自分と彼女が言葉の壁を越えてコミュニケーションを取れたという事実に、心の底から感動が沸き起こったのを覚えている。

アニメの普及度に見るお国柄の違い

 その後も、アジアの国々からヨーロッパまで旅を続けながら、それぞれの国で子どもたちがどんなアニメに興味を持っており、スーパーやおもちゃ屋にはどんなキャラクターが売られているのか、見て回った。

アフリカ・ルワンダでもおもちゃ屋を訪ねた(筆者撮影)

 例えば、人形劇やパペットアニメーションで有名なチェコ。シュヴァンクマイエルやイジー・トルンカなど世界的に有名なパペットアニメーションの作家も輩出しているこの国では、当時、世界中で流行っていたピカチュウをはじめ、日本のアニメキャラクターの人形やおもちゃは、ほとんど目にしなかった。 対照的に、国境を超えたお隣ポーランドでは、ピカチュウを真似たおもちゃがいたるところに氾濫していた。

ミャンマーでは、「ナルト」のキャラクターが壁に描かれているのを見かけた(筆者撮影)

 1990年代後半には、日本のアニメーションが「ジャパニメーション」と呼ばれ、世界で人気を博すようになる。

 当時、私は英国に滞在しており、日本のアニメブームの到来がフランスやイタリアに比べて3年ほど遅かったことに興味を持った。英国には、「不思議の国のアリス」や「ピーターラビット」といった伝統的な作品から、近年の「ハリーポッター」まで、多くの子ども向け文学がある。思うに、イギリスやチェコのように、自国の子ども向け文化に自信がある国ほど、海外の子ども向けコンテンツの受け入れには消極的なのではないだろうか。

どこの国のトイショップをのぞいても、日本のキャラクターがところ狭しと並んでいることが多い(筆者撮影)

 国境を超えるだけで日本のアニメの普及度が全く違う上、国や地域によって受けるアニメのジャンルもまったく違う。ドラゴンボールのような格闘ものは、特に北米で人気が高く、ドラえもんやクレヨンしんちゃんのような、日常の延長にあるストーリーは、タイやカンボジアなどのアジア圏で浸透している。

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