「習近平独裁新時代」を前に世界が覚悟すべき二つのリスク
台湾有事と中国支配のグローバル・ルールを読み解く

  • 2022/10/31

 第20回党大会が10月22日に閉幕し、習近平の三期目総書記続投が決定した。そのこと自体は多くが予想した通りだったが、党の集団指導体制を事実上、機能不全に陥らせるほど徹底して異論者や共青団(共産主義)派を排除する人事に踏み切ることまでは、ほとんどのメディアや専門家の想定を超えていた。この結果、第20期の政治局は、全員が習近平の子飼いの部下のイエスマンとなり、誰も彼の意見に疑問をさしはさめなくなった。第20回党大会を機に、中国は集団指導体制とも、従来の鄧小平路線とも決別し、これまでとは明らかに異なる習近平独裁新時代が幕を開けると考えた方がいいだろう。

人民大会堂で開かれた中国共産党第20回全国代表大会(党大会)で3期目の総書記続投が決定した習近平国家主席(中央) (2022年10月23日、北京で撮影)(c) ロイター/ アフロ

予想される党内粛清の嵐

 習近平独裁新時代における中国は、これまで以上に国際社会の脅威となることは間違いない。なぜなら、集団指導体制であれば、誤った判断に誰かブレーキをかけられる存在がいる可能性もゼロではないが、習近平個人の独裁下で誤った判断が下されても、誰も止めることはできないからだ。しかも、習金平が気分を害するような情報を誰も伝える勇気はないため、本人が判断を誤る可能性はますます高くなる。

 また、習近平は堂々と経済を軽んじているため、人民から支持されていない。党大会の直前に「独裁者で売国奴の習近平を罷免せよ」という横断幕を掲げた北京市民がいたほどだ。さらに、習近平は長老のことも堂々と軽んじるため、長幼の序を重んじる伝統的共産党人も不安を感じている。党の団結をアピールする党大会の閉幕式で、習近平が共青団長老の胡錦涛・前総書記を衆人環視の中で強制退席させた時には、ひな壇に座っていた指導部たちが、胡錦涛に声をかけることもできないまま、恐怖と緊張で表情をこわばらせていた。

 党大会後の10月27日、習近平は新政治局メンバー(子分)を引き連れ、革命聖地である延安に行って、大粛清「延安整風」を発動した毛沢東の延安精神をたたえた。そうした言動からも、「第20期の今後5年間は、これまでの10年間に続いて党内粛清の嵐が吹き荒れることになるだろう」と、中国人の多くが感じ取っている。

 そうなった時、中国は国際社会にどのような影響を与えるだろうか。ここで、第20回党大会で採択された習近平の政治活動報告や人事と改正党規約の内容を参考に、国際社会が覚悟しておかなければならない二つのチャイナ・リスクについて、注意を喚起しておきたい。

祖国統一の悲願と台湾有事

 一つ目のリスクは、言うまでもなく台湾有事である。

 今回改正された新党規約の全文は、党大会が閉幕して3日経ってからようやく全文が公表された。その3日の間に、規約の中身が若干変わった可能性もある。

 というのも、公表された全文には、当初予想されていた「二つの確立」という言葉がなかったためだ。二つの確立とは、①習近平を党中央部の中核に据え、党全体の中核としての地位を確立することと、②習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の党の指導者としての地位を確立することを指す、習近平個人としての独裁の確立を意味するフレーズにほかならない。党大会の閉幕式の宣誓の際、「党として二つの確立を深く体得するよう要求する」という表現があったため、誰もが党規約にも「二つの確立」という言葉が明記されるものだと思ったにも関わらず、採択三日後に公表された党規約には盛り込まれていなかったのだ。「二つの確立」が明記されないことはいつ決まったのかは不明だが、習近平が「二つの確立」を盛り込もうとしたにも関わらず、党内の強い抵抗にあってかなわなかったということは、間違いない。党規約には、党員が特定の個人を崇拝することを禁止する条項がある。「二つの確立」は、この条項に矛盾する可能性があったため、党に忠実な党員ほど容認できなかったのではないかと思われる。

台湾のランドマーク的な存在である「台北101」(筆者撮影)

 その結果、習近平は妥協せざるをえなかった。つまり、習近平独裁はまだ盤石ではなく、「習近平イコール党」というレベルまではいっていない。だから、これから盤石にしていかなければならない、ということなのだ。
 政治局の常務委員人事は、習近平独裁を盤石にするための布陣だが、それだけではなく、9600万人の党員と14億人の人民を納得させなくてはならない。そのために掲げているのが、民族の悲願である「祖国完全統一」ということになる。
 新党規約では「台湾独立派(台独)に断固反対、抑制する」ことが掲げられ、「台独」という言葉が初めて書き加えられた。また政治活動報告では、「台湾は中国人自身の問題であり、中国人自身で決めるべきことだ。…(中略)…決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置を取るという選択肢を残す。その対象は、外部勢力からの干渉と、ごく少数の台湾独立派分裂勢力、およびその分裂活動であり、決して広範な台湾同胞に向けたものではない。…(中略)…祖国統一は必ず実現せねばならないものであり、必ず実現できるのである」と、述べた。
 この「台湾独立派」とは、おそらく台湾民進党政権を指す。そして、台湾に干渉する外部勢力とは、米国のことだ。台湾民進党政権と米国という明確な敵を設定し、しかも党規約にまで盛り込むことによって、党内や国内の習近平に対する不信や不満の矛先を外に向けさせることが狙いだと言えよう。

台湾民進党の本部(筆者撮影)

 台湾有事の緊張のピークは、おそらく党規約で敵認定された民進党の蔡英文政権が二期の任期を終了する2024年の台湾総統選前後に迎えることになる。

安全保障とチャイナルール

 もう一つのチャイナ・リスクは、「人類運命共同体の構築」だ。党規約では、「国際事務において、平和、発展、公平、正義、民主、自由の全人類の共同価値を発揚し、正確に正義と利益の観点を堅持し、わが国の独立と主権を擁護し、覇権主義強権政治に反対し、世界平和を擁護し、人類進歩を促進し、人類運命共同体を構築し、持久的平和、普遍的安全、共同繁栄、開放包容、クリーンで美しい世界の建設を推進する」としたうえで、その手段として一帯一路の推進が挙げられている。

 ここで言う「平和、発展、正義、民主、自由の共同の価値観」とは、米国ら西側諸国が掲げる民主主義の普遍的価値観ではなく、中国共産党が指導し、定義する平和、発展、正義、民主、自由だ。

台湾の街中に並ぶシェアサイクル(筆者撮影)

 政治活動報告では、「中国はグローバルガバナンス体系の改革と構築に積極的に参与し…(中略)…中国はあくまでもグローバルな安全保障のルール作りに積極的に参加し、地域の安全を守るために建設的な役割を果たしていく」という表現で言及されている。中国は、米国やその同盟国と異なる価値観のグローバルガバナンス体系、国際社会枠組みを構築し、グローバルな安全保障枠組みも中国式ルールで支配しようと考えている。政治活動報告では、その手段として、一帯一路だけでなく、国連、世界貿易機関(WTO)、アジア太平洋経済協力(APEC)、BRICs、上海協力機構(SCO)などの後押しを検討していることにも触れられている。

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