ラテンアメリカの「今」を届ける 第4回
自立する障害者が、新しい世界へ扉を開く

  • 2020/12/4

 どんな障害があっても、自分で決めた人生を送る権利は誰にでもある。その思いに国境はない。

 介助者のサポートを受けることで、障害者が自立した生活を送る「自立生活」を推進するための国際セミナーが、2020年11月11日、オンラインで開催された。セミナーはラテンアメリカ7カ国の障害当事者による「ラテンアメリカ自立生活ネットワーク」(RELAVIN:Red Latinoamericana de Vida Independiente )が主催し、各国の障害者を中心に、各国政府の障害分野担当者や域内外の支援組織などから、500人以上が参加した。

コスタリカで自立生活を送る人たち(筆者撮影)

皆が自由に生きられる社会を実現するために

 「オーラ!ブエナス ノーチェス!!(こんばんは!)」

 オンラインセミナーの冒頭、兵庫県にあるNPO法人「メインストリーム協会」の事務所から地球の反対にある世界へ、車椅子に乗る人々が笑顔で呼びかける。その中には、呼吸器をつけている人も複数いる。日本ではすでに午前1時をまわっている。

 「私たちはこんな夜中に、自由に出歩くことができる。みなさん、これが自立生活なんじゃないでしょうか?」

 同協会の代表・廉田俊二さんはそう話すと、重度障害のある協会メンバーを、ユーモアを交えながら紹介していく。筋ジストロフィーを患いながら活動のため海外を飛び回る人、メンバー同士で結婚した人、他の障害者の相談や生活をサポートする人。その生き生きとした姿が印象的だ。そして、廉田さんがこう続ける。

 「皆、こんなに自由な生活をしているのです。みなさんの国も、こんな社会にしたいと思いませんか?そのキーパーソンは、今日、ここに参加しているみなさん自身です」

セミナー冒頭で挨拶をする廉田さん(右)と、メインストリーム協会のメンバー(筆者撮影)

 「どんな障害があっても、自分が決めることで、自分の人生を歩むことができる」という自立生活の第一歩となるのが、車椅子のメンバーの後ろに立つ、障害者をサポートする介助者の存在だ。日本の介助派遣制度は、2004年に法制化され、現在は公費でまかなわれている。世界的にも、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」で定められた障害者の権利の一つである。

 この介助派遣制度の法律制定に向けた動きが、ラテンアメリカで活発化しているのだ。11月に開催されたセミナーの目的は、2016年にラテンアメリカで初めて公的介助制度が法制化されたコスタリカの経験を共有し、法律の必要性を広く訴えることだった。

セミナーで司会を務めるバルバラさん(筆者撮影)

 このイベントに企画から関わり、当日の司会進行を務めたペルーのバルバラさんは、生まれつき関節が拘縮する「先天性多発性関節拘縮症」による障害がある。今はペルーの自宅でボランティア介助者のサポート受け自立生活を営んでいる。政府や地方自治体とのプロジェクト立案・実行を担う障害者運動のリーダー的存在だ。バルバラさんが今回のセミナー開催を振り返る。

 「セミナーは、私たち障害者にとって重要な機会でした。ペルーでも多くの人が新型コロナウィルスに感染し、亡くなっています。移動制限のある中でしたが、セミナーを通じて地域を超えた仲間同士の結びつきが強くなり、活動を活発化させることができました。このつながりは、障害者だけでなく、専門家や政府関係者をまきこみ、<介助派遣法を成立させる>という同じ目的に向かって一つにまとまるきっかけになったのです。また、オンラインで開催したことで、私たちの理念を世界中の人と共有できることもわかりました」

 技術が移動できない人々を結びつける

兵庫県西宮市のNPO法人メインストリーム協会(筆者撮影)

 ラテンアメリカの自立生活運動を支えるのが、兵庫県で障害者の自立生活を支援するメインストリーム協会だ。2008年から国際協力機構(JICA)が中南米の障害者に対して行っている「障害者自立生活研修」に協力し、彼らが本国に戻ってからも活動をサポートし続けている。前述のバルバラさんは2013年に訪日し、メインストリーム協会で40日間の研修を積んだ。 

 今回のセミナーは、コロナ禍の中で準備が進められた。移動が制限されても活発化した活動の背景には、コロナ禍で浸透した通信技術がある。それがweb会議サービスの「Zoom」の普及だった。発端は今年6月、ラテンアメリカ各国の障害当事者リーダーが始めたオンライン会議だった。セミナー開催のきっかけについて、自身もコスタリカで活動してきた協会職員の井上武史さんがこう話す

 「今年は全ての活動が止まると思っていたんです。自立生活研修もできないし、家でじっとしているしかないかなと。しかし、SNSを通じて各国の人たちと文字のやり取りは続けており、6月に、一度、顔見て話そうということになりました。Zoomを使い、久しぶりにお互いの顔を見て話したら実に盛り上がったし、Zoomの使い勝手も良かったので、“これは使える”と思いました」

 ラテンアメリカ諸国では、これまでも自立生活研修や国際会議の場などを機に、国をまたいだ障害者同士のネットワークが築かれてきた。他のオンライン映像通信ソフトを使ったこともあったが、ネット環境が不安定な地域も多く、回線が安定せず途中で切れてしまうことが多かった。それが技術的に大きく改善されたのだ。

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