ハマスの襲撃を生き延びたイスラエル人女性の言葉に世界が共感
「恐怖心ではなく愛に基づき選択し、行動すれば世界は変わる」
- 2024/1/18
イスラム組織ハマスがイスラエル側に越境攻撃を仕掛け、イスラエル側が報復に出た2023年10月7日以来、ガザ地区で激しい戦闘が続いています。映画を通じて世界と日本をつなぐ活動を続け、ガザの人々を描いた映画の配給も手掛けるユナイテッドピープルの関根健次さんが、あるイスラエル人女性との出会いについて綴りました。
大きな反響を呼んだSNS投稿
ガザ地区を拠点とする武装勢力ハマスが2023年10月7日にイスラエルとの境界に設置されていた金網のフェンスを越えて侵入し、スーパーノヴァ音楽フェスティバルに参加していた260人以上を殺戮し、居合わせた240人以上を拉致した大惨事は、世界に衝撃を与えた。
すぐさま反撃に出たイスラエルは、当初、ハマスのせん滅と人質全員の救出を掲げたが、実際の軍事作戦は異なる結果をもたらしている。多くの民間人が犠牲になり、民家、学校、企業、教会、裁判所などの建物や、水道などの衛生施設や電力網などの基幹インフラも破壊された。ガザに閉じ込められ、食糧や医薬品、燃料など、生存に不可欠な物資を制限された人々は今、飢餓の瀬戸際にいる。
ハマスの襲撃から間もない2023年10月16日にあるイスラエル人女性が投稿したSNSが、注目を集めている。彼女、マヤ・アルパーさんは、あの音楽フェスティバルにスタッフとして参加していた時にハマスの襲撃に遭遇し、6時間にわたり茂みに隠れて生き延びた。惨殺される人々を目の当たりにしながらも冷静さを保ち、感謝と愛の感情を持ち続けたアルパーさんは、生還からわずか9日後に「私たちが闘っているのは、イスラム教徒でもアラブ人でもなく、ハマスなのです」と発信した。その後の戦闘の長期化と甚大な犠牲、そして分断を予見していたかのようなこのメッセージは世界の共感を集め、約9000もの「いいね!」がつき、3700回にわたってシェアされている。本人の許可を得てメッセージを紹介する。
(マヤ・アルパーさんの2023年10月16日付 Facebook投稿 原文は英語)
私は普段、ソーシャルメディアで発信してきませんでした。しかし今回、命懸けで銃撃から逃れ、茂みに隠れながら気付いたことはぜひ皆さんにご紹介したいと思い、投稿します。それは、天国と地獄、どちらを選ぶかは私たち自身にかかっていて、心の在り方次第で選択できるということです。
私は戦闘の最中、6時間にわたり茂みに隠れていました。周囲からは何千発もの銃声が聞こえ、テロリストが罪のない子どもたちを含め、手あたり次第に人々を殺していることが分かりました。一緒に逃げていた人も撃たれました。少女に向かい発砲し、息絶えていく様子を見ながら微笑みを浮かべるテロリストも見ました。
しかし私は、助けてくれた兵士たちの優しさと強さも目の当たりにしました。彼らは自らの命を犠牲にしてでも人々を救い出そうとする使命感に溢れていました。私たちを助けるために犠牲となった彼らの勇敢な魂に、永遠に感謝します。
無数の死と憎悪に満ちた生き地獄から身を隠しながら、私は微笑み、呼吸を整え、自分のため、平和のため、愛のために祈り続けました。爆弾がさく裂し、銃声が鳴り、人々が叫ぶ中でも、鳥たちはさえずり、煙の向こう側には青い空が広がっていました。強いストレスや恐怖、怒り、復讐心が頭に浮かぶたびに、落ち着いて深呼吸を繰り返し、「茂みよ、私を守ってくれてありがとう」「鳥よ、私のために歌ってくれてありがとう」「過酷な状況でも何とか持ちこたえている私自身よ、ありがとう」という3つの感謝に集中しようと意識していました。
私は今、無事に家に帰り、家族と共に安全な場所にいますが、ガザに誘拐された人々や、勇敢な兵士たち——その中には私の兄弟もいます——が今なお味わっている恐怖は、想像を絶します。どうすれば世界の平和を実現できるのか、分かりません。しかし私は、生き地獄の中でも平和と天国を見出すことができました。私たちは、生きている限り、勝利しているのです。
多くの友人が、私をできる限り支援したいと申し出てくれます。私が彼らに伝えたいのは、「ニュースを見過ぎず、家族や愛する人と一緒にいてください」ということです。
人が存在することを「プレゼント」(present)と言います。そこに存在するだけで、人は贈り物なのです。気の利いたことを言えないのなら、SNSに何も書き込まないでください。言葉には大きな力があります。恐怖や怒り、復讐心を感じている時は、特に賢明に言葉を選んでください。いったん立ち止まり、呼吸とともに負の感情を吐き出し、3つの感謝の念に置き換えるのです。今の状況に感謝したいことがない場合は、過去の出来事や、未来の想像に対してでも構いません。恐怖心ではなく、愛に基づいて選択し、行動し続けること。これこそが、天国で生きるのか、地獄で生きるのかの分かれ目です。私たちは、生きている限り、勝利しているのです。あのイベント会場で起きたことを国やコミュニティーの単位で受け止めることも大切ですが、それよりも、どうすれば団結できるのか考えましょう。イスラエルの人々は今、助けが必要な人に手を差し伸べ、役立とうと努力しています。そうした行動を止めることはできませんが、団結意識こそ世界で最も強力な武器です。その力を良いことに役立てましょう。
最後に言います。私を救出してくれたのは、アラブ系のイスラエル人でした。彼らが私を茂みの中から父親の待つ安全な場所へ連れ出してくれたのです。この戦争は、ユダヤ人とイスラム教徒との闘いでも、ユダヤ人とアラブ人との闘いでもありません。彼らは私たちの友人です。私たちが闘っている相手は、ハマスなのです。
メディアがどれだけ現実をねじ曲げ、恐怖を掻き立てようとしても、私たちは真実を知っています。私は、自分が正しくて、誰かが間違っていると言いたいわけではありません。私自身に効果的だった経験を共有しているだけです。愛する人を亡くした家族に、愛と励ましを贈ります。誘拐された人々、勇敢な兵士たち、そして地球上のすべての生き物に祈りを捧げます。どうか、虐殺現場で生き残った人々をはじめ、ストレスを抱えているすべての人々に愛を選んでください。
茂みに隠れている間、そして生還してからも、高ぶった神経を落ち着かせるために私がよく行っている呼吸法を紹介します(子どもにはお勧めしません)。
①8つ数えながら鼻から息を吸う。
②4つ数えながら息を止める。
③8つ数えながら鼻から息を吐き出す。
④じっとしたまま4つ数える。
8つ、4つ、8つ、そして4つ――。繰り返せば繰り返すほど、リラクゼーション効果が高まります。 21分間続ければ、癒されるでしょう。
先週、もう一つ試してみました。負の感情とトラウマをいったん腰に貯め、腰を揺らしてトゥワークダンスを踊りながらブーツを鳴らし、身体から放出するのです。
写真は、茂みの中で微笑む私です。救出される1時間前にビデオを撮りました。「ロカ・サマスタ・スキノ・バヴァントゥ」。 すべての生きとし生けるものが幸せでありますように。すべての生きとし生けるものが自由でありますように。そして、世界中の生きとし生けるものの幸せと自由が永遠に続きますように。
極限下で貫かれた冷静さと感謝の念
筆者はこのアルパーさんの投稿を、食い入るように読んだ。戦闘の開始から間もない時期、しかも、自身が死と隣り合わせの極限状態にあった直後に、これほど冷静に愛と感謝を語り、すべての生きとし生けるものの幸せを願っていることに深い感動を覚えた。特に、自分を救い出したのがアラブ系イスラエル人だったと明かし、「闘う相手はハマスであり、アラブ人でもパレスチナ人でもない」と訴えていることが印象に残った。
その後も、現在まで戦闘が続いていることを考えれば、彼女の予感が的中していたことは明らかだ。ガザでは、そこに生きるすべての人が攻撃の対象になっている。「やられたからやり返す」という、憎しみが増幅を続ける負のサイクルを断ち切るためには、アルパーさんが言う通り、「恐怖心でなく愛に基づいて選択し、行動し続けること」が必要だと感じる。アルパーさんに直接話を聞こうとインタビューを申し込むと、快諾してもらえた。その様子をぜひご覧いただきたい(通訳協力は、キニマンス塚本ニキさん)。
報道に対するアルパーさんの発言に、特に注目したい。彼女は、「テレビを見ることで、必ずしも真実ではないことも信じてしまいがちです」と指摘したうえで、「見聞きしたことをそのまま鵜のみにせず、疑問を持つことが大切です。報道されたすべての情報を問い直すのです」と強調し、こう問いかける。「あの日、あんなことが起こるなんて、誰も予期していませんでした。私たちは他にどんな幻想の中にいるのでしょうか?もしかすると、私たちの心は世界の出来事に支配され、戦争を起こすように仕向けられているのかもしれません」
そしてアルパーさんは、「憎しみを忘れ、平和のために行動しましょう。平和のために共に祈り、歌いましょう。争いは終わりにしましょう」と呼び掛ける。そのためには、「恐れではなく愛から行動すること、憎しみや復讐のために行動するのではなく、心が正しいと感じることを実行すること」が必要なのだと彼女は言う。「これは、イスラエルとパレスチナの問題にとどまりません。見聞きすることを信じる代わりに、心で感じるのです。わずかな時間でも、報道から意識的に遠ざかってください。私たちの心は報道によってプログラム(洗脳)されるからです。心は目で見たことと、実際に起きていることの区別がつきません。正解はありませんが、誰かの発言を信じる代わりに、自分の心や直感を信じてください」