パエリア炎上事件に見るスペイン人の誇りと熱意
他文化の料理、一方で置き去り...?

  • 2021/8/17

 外国人が一番イメージしやすい代表的なスペイン料理といえば、パエリアだろう。スペイン語の正書法を定めたスペイン王立アカデミーの辞書の定義によると、パエリアとは「スペインのバレンシア地方特有の、肉、魚、魚介類、豆類などを用いた汁無し米料理」とされている。15世紀から16世紀にかけて、バレンシアの農村部で生まれ、18世紀ごろスペイン中に広まった、としばしば紹介される。

バレンシアのレストランで出てきたパエリア(2019年10月、筆者撮影)

 しかし、単なる具入り炊き込みご飯と思ってはいけない。ソーシャルメディアでは、正統派と見なされないパエリアについての投稿は“炎上”することもあり、その様子は冗談まじりではあるものの地元メディアで幾度となく報じられている。

 こうしたスペインメディアの報道からは、地元の人々の食文化に関する強いこだわりが透けて見える。残念なことに、そのこだわりはパエリア限定なのかもしれないが——。

語り継がれるチョリソ事件

 パエリアに関する最も有名な炎上事件は、イギリスの有名シェフのジェイミー・オリバーの「チョリソ(香辛料を使ったソーセージ)入りパエリア」だ。2016年にツイッターにこのレシピが投稿された際にはチョリソは正当な材料ではない、などの批判が殺到。複数のスペインメディアがこの様子を報じた後、このニュースはシェフの本拠地イギリスにも届き、英紙「ガーディアン」は、チョリソ入りのパエリアという共通の敵を見つけ、当時の総選挙直後で修復不可能なほどに分裂していたスペイン人は団結した、などと記している。

 

チョリソ入りパエリアと、修復を失敗した絵画を対比させたジェイミー・オリバーへの返信のツイート

 この「チョリソ入りパエリア」、強烈な印象を残したようで、今もパエリアに関する“炎上”事件が報じられる際には、必ずといっていいほど各種メディアで言及される。

話題を呼んだ「マドリード風パエリア」の投稿

 炎上の対象は、スペイン国外ばかりではない。マドリードにある3つ星レストランのシェフが「マドリード風パエリア」と題し、蒸したヒメジにキャビア、シェリー酒とユズの皮などが入ったパエリアを投稿したところ、やはり「それはパエリアではない」などの反応が相次いだ、と2021年1月に「ラ・バングアルディア」紙は伝えている。

何が正統なのか?

 それではどんなパエリアなら受けれてもらえるのだろうか? 

 「ラ・バングアルディア」紙は「パエリア:バレンシア人を激怒させる7つの間違い」と題した記事で、外食時や調理時に失敗しないための要点をおさらいしている。

 例えば、一般的に「公式」とみなされている具材の例としては、サフラン、米、鶏肉、水、塩、エクストラ・バージン・オリーブオイル、ウサギ、パプリカ、ローズマリー、食用カタツムリ、ニンニク、鴨肉、アーティチョーク、豚バラ肉、ミートボール、緑色のインゲンや白インゲン豆の一種を挙げている。さらに「玉ねぎやチョリソなど、なんでもかんでも入れること」は間違いと見なされるという。

 他にも、パエリアに適した種類の米ではなくバスマティ米など長粒米を使うこと、水ではなくスープストックで米を煮ること、など間違いリストは続く。

 “正統派”の枠にはまらないパエリアをハッシュタグ「#paellafails(失敗パエリア)」をつけてソーシャルメディアに投稿する動きもあり、「パエリアに対する10の犯罪」と題した記事で「エル・パイス」紙のグルメコーナーは“失敗”として、卵などの変わり種の具材を入れたものや、調理過程で米をかき混ぜたもの、寿司とのフュージョンパエリアなどを挙げている。

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