都市化が進むケニアで消えゆく奇習
悪戯か、呪術的行為か、血の定めかーー謎多き「ナイトランナー」たち

  • 2020/12/11

 ケニアの農村部には、古くから伝えられる言い伝えや風習が数多く残っている。「ナイトランナー」もその一つだ。呪術の使い手と呼ぶ者から、夜の守護者と呼ぶ者まで、見方はさまざまだが、昔から彼らは夜中に村を練り歩き、戸口を叩き回って屋根に様々なものを投げるという行為を繰り返しては人々に眠れぬ夜を過ごさせる存在で、ルオ語ではJajuok、ルイヤ語ではmroji、スワヒリ語ではmrogiと呼ばれ、恐れられてきた。

深夜の奇妙な来訪者

 ナイトランナーたちは、なぜ夜中に出歩き、自分たちのコミュニティーの人々を怖がらせたり、迷惑な行為を続けたりするのだろうか。それを理解するためには、まず彼らが生きている環境を理解しなければならない。ケニア西部のムビタ村に住むジョージ・オンデテは、ナイトランナーについてこう話す。

 「何年か前の9月頃だったかな、孫と一緒に近くの村の葬式に行った時、夜通し奇妙なことが続いたんだ。トタン屋根の上から冷たい水をかけ続け、それが止んだかと思ったら、今度は砂がかけられた。そいつは、ベッドの位置を知っていたと思うんだ。ちょうど私が寝ていた真上から水や砂が落ちてきたからね。さらに、牛の糞も落ちてきた。恐怖のあまり身体がちぢみ上がってしまったよ」

ナイトランナーについて話すジョージ・オンデテ(筆者撮影)

 その時、ジョージは「この村で奇妙なことが起きるのは夜中だけだ。やつらは、いつ、どんなことをすれば俺たちが怖がるのか知っていて、面白がってやっているだけさ、趣味のようなものなんだよ」と、いとこが昔、話していたのを思い出していたという。

 その晩以来、ジョージはナイトランナーの奇妙な習性について耳にすることがあった。

 「ナイトランナーをやるのは男も女も関係ないが、夜中の出来事だから正体をはっきり見ることができない。宵闇に紛れ、身元が分からない状況でやる必要があるから、決して昼間には行われない。不思議な話でね、こうした行為はある日突然、衝動的に行われるものだと言われているんだ。家族にナイトランナーがいれば、子どもにもその血が流れているし、親が秘密で子どもを訓練することだってある。なぜなら、悪戯をして相手を怖がらせることこそが、奴らのエネルギーになるからさ。もちろん、コミュニティーの人々は昔からナイトランナーと関わりたくないと思っているし、彼らも自分たちの行為がタブー視されていることを自覚している。だからこそ、奴らはかたくなにこの風習を受け継ぎ、アイデンティティーを守ろうするんだ」

昼間の姿と夜の顔

 ジェフ・オニャンゴもナイトランナーによって被害を受けたことがある。彼の甥は、ナイトランナーがもたらす邪悪な霊力の影響から逃れるために村を離れたという。

 「私がナイトランナーについて話す理由は、親戚の一人が呪術を扱うナイトランナーだったからさ。彼らがやっていることは、ただの悪戯なんかじゃない。彼らは墓地から掘り起こした死者の手に火を付け、辺りを夜通し走り回るのさ。カバを操ったり、クロコダイルや蛇、豹を手先に使ったりするヤツもいる。そもそも、燃えないはずの死者の手に火を付けること自体、異様だと思わないかい?ヤツらが死者の手を使って一晩中呪いをかければ、誰かを一生涯、話せなくすることだってできるんだ」

 ジェフは、ナイトランナーの中にはクリスチャンもいて、週末には教会に通っている者もいると話す。昼間は農作業に精を出したり、教師をやっていたりして真面目に働きつつ、夜中にナイトランナーをしている者が多いのだという。

 「ナイトランナーたちはとても強い邪悪な力を持っていて、彼らが夜中にやって来ると、去っていくまで叫ぶことも出来ないし、ベッドで寝返りすらうてない。ヤツらは人々の恐怖を食べに来るのさ。でも、もしこちらが先に寝ていたら、ヤツらは素通りしてくれる。だから、家にこもって静かにしているのが一番良いんだ。だけど、ヤツらが屋根に死んだ動物や腐った卵を投げ始めると厄介だ。農村の家なんて粗末な作りだから、簡単に屋根から物が入ってくるからね。90年代までこの辺りは道も整備されていなかったし、電気もなかったから、ナイトランナーのやりたい放題だったね。夜中に目覚めて無数の松明(たいまつ)を闇に見つけたら、それがナイトランナーたちさ」

失われつつある居場所

 村人たちにとって厄介なナイトランナーたち。しかしアスマン・ズベリは、場合によってはそんな彼らを助けることもあると言う。

自分の村ではナイトランナーを助けることもあったと話すアスマン・ズベリ(筆者撮影)

 「ヤツらは自分の結婚相手もナイトランナーに変えてしまう。だから、私が若かった頃は、結婚しようとするカップルがいたら、村の長老が2人の地元まで出かけて身元を徹底的に調べ上げ、身内にナイトランナーがいないか確かめたものさ。子どもまでナイトランナーになったら皆が困るからね」

 アスマンはそう振り返った上で、こう続けた。

 「私に言わせれば、ナイトランナーは病気みたいなものさ。私たちの村にもナイトランナーの男がいて、皆がそのことを知っていた。彼は実によく厄介事を起こしてくれたが、次第に皆が彼を助けるようになった。男が言うには、時々何かが自分に乗りうつり、自分自身をコントロールできなくなり、朝に起きるといろいろやらかしていることに気付くと言うことだった。彼は、自分がナイトランナーの義務を果たしている時はやりたいようにやらせてほしい、さもなければ自分は死んでしまうと言った。超自然的な何かなんだろうね。もし精神を病んでしまったのなら、病院に担ぎ込んで治療を受けさせれば治るかもしれない。でもナイトランナーは治らないから、ウチの村では彼が何かしても多目に見ることにしたんだ。彼も昼間はごく普通の住民だったからね」

 しかし、近年、農村部にも押し寄せる都市化の波によって、暗闇を愛するナイトランナーたちの「居場所」は減りつつあるという。

 「最近では、私の村でもナイトランナーは減っているよ。電気が普及したし、コンクリート製の屋根も増えたから、物を投げても意味がない。開発が進むにつれて彼らは消えていくだろうね」と、アスマンはつぶやいた。

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