「僕はPDFです。スー母さんの息子です」
恐怖を植え付けるために繰り返される国民への脅し

  • 2022/4/13

【編集部注:】

軍による市民への弾圧が今も続くミャンマー。そうした行為をあえて人々の目にさらすことで、「逆らうとひどい目に遭うぞ」というメッセージと市民に伝え、恐怖を植え付けようとするケースも多々あるようですが、実際には人々は軍への憎悪をさらに募らせています。地方のある町で4月上旬に起きた出来事を伝えるnoteの投稿を紹介します。

~ 以下、noteの投稿より ~

昨日の朝、地方に住む知り合いから連絡があった。以下はその人から聞いた話だ。

外が何やら騒がしかった。家から出てみると、家の前の道を何人もの男たちが歩いていた。銃を持った兵士や警察官たちと私服の男たちが、一人の青年の腰にロープを巻き、引き回していた。幼さがまだ残る青年は叫んでいた。
「僕はPDFです。スー母さんの息子です」

PDFとは、People’s Defence Force(人民防衛隊)の略称で、武器を持ってミャンマー軍(国軍)と戦うグループだ。だが、本当に彼がPDFの一員かどうかは分からない。兵士に銃を突きつけられたら従うしかないからだ。実際に、PDFとは全く関わりのない人たちが、この町で何人も逮捕されたり殺されている。

「スー母さん」というのはアウンサンスーチーのことを指している。彼女を慕うミャンマー人は敬愛の念を込めて「アメースー」(スー母さん)と呼んでいる。そのスー母さんの息子だと無理やり青年に言わせていたのだ。ちなみに、軍はアウンサンスーチーを蛇蝎のごとく嫌っている。

兵士たちは青年を引き回して、市場へと向かった。市場の中でも青年は繰り返し叫んでいたという。
「僕はPDFです。スー母さんの息子です」

その後、彼は町外れに連れて行かれ、射殺された。彼が倒れた場所のすぐ近くには、なぜか墓地があったという。意図的に墓地の近くで殺害したのだろうか。

この事件を、Khit Thit Media という独立系メディアが記事にしてFacebookに上げている。
https://www.facebook.com/khitthitnews/posts/1467152033722138

私はこの町に行ったことがあり、通りも市場も知っている。青年はこの町を引きずり回され、自分の意思とは違う言葉を叫ぶしかなかった。後に死が待っているは予想していただろう。彼はどんな気持ちで歩き叫び声を上げたのだろうか。彼の気持ちを考えると、辛くなる。

ミャンマー軍はこういう見せしめを頻繁に行っている。軍に逆らうとひどい目に遭うぞという国民への脅しだ。恐怖を見せつけることで、軍への抵抗をあきらめさせようとしているのだ。

しかし、国民の心は軍の思惑とは違った方向に進んでいる。国民に恐怖を見せつければ見せつけるほど、軍に対する憎悪をつのらせ、武器を手に持って軍に抵抗する人たちが増えている。

強大なロシア軍に抵抗するウクライナ人の気持もきっと同じだろう。ミャンマー国民の多くは、もはやミャンマー軍をミャンマーの軍隊とは見ていない。ネーピードー(ミャンマーの新首都)からやってきた侵略者であり、テロリストだと思っている。侵略者から家族や友人を守るために武器を手にする若者が、日に日に増えている。

ところで、武器も貧弱で経験の少ないPDFに対して、ミャンマー軍は圧倒的な武力を持つ。あっという間にPDFは駆逐されてしまうだろうと、当初は私も思っていた。しかし、なぜかミャンマー軍は弱い。大きな原因は、ミャンマー軍の士気が低いためだ。まるでロシア軍だ。既に2,000人以上の将兵と6,000人以上の警察官が逃亡し、そのままPDFに加わる者も多い。

遠く離れたミャンマーとウクライナ、巨大な敵に立ち向かう戦いが、今日も続いている。

関連記事

 

ランキング

  1.  米国で第二次トランプ政権が発足して以来、誰もが国際社会の枠組みの再構築に向けた動きが加速し始めたと…
  2.  軍事クーデターの発生から2025年2月1日で丸4年が経過したミャンマー。これまでに6000人以上の…
  3.  トランプ氏が2025年1月20日に返り咲きの第二次政権をスタートさせてから1カ月あまりが経つ米国で…
  4.  ドットワールドとインターネット上のニュースサイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…

ピックアップ記事

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  ドットワールドとインターネット上の市民発信サイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…
  3. 「パレスチナ人」と一言で表しても、生まれ育った場所や環境によって、その人生や考え方は大き…
  4.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  5.  ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍と武装勢力の戦闘や弾圧を逃れるために、自宅…
ページ上部へ戻る