「NUGのオンライン宝くじ」
自分の誇りとミャンマーの未来のために

  • 2021/8/15

【編集部注:】

徹底的な弾圧により大規模な抗議活動が難しくなっているミャンマーで、民主化勢力により設立された国家統一政府(NUG)がオンラインで宝くじを販売する計画を発表し、市民の支持を集めているそうです。さまざまな形で抵抗を続ける人々の様子を伝えるFacebook投稿を紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

NUGの宝くじについて動画で説明する、NUGの財務省の大臣。 NUG財務省のウェブサイトを覗くと、「政策」という項目には、いちばんに「軍政に利益をもたらすあらゆる資金援助を断つ」と書いてあって、反軍政の気合いを感じる。 https://mopfi.nugmyanmar.org/

先週、本当に久しぶりに、シュプレヒコールを聞いた。
少し先の大通りから聞こえてくる、民主主義を叫ぶ声。 
外出禁止令を守っておとなしく自宅にいた私は、
一瞬耳を疑い、そしてすぐにベランダに飛び出した。
うちのアパートから、大通りは見えない。
それでもアパートの住民たちが、パラパラとベランダに出てくる。
「おい、聞こえるか。早く早く」と家の中を振り返って誰かを呼ぶ人。
いいぞいいぞ、と手を叩く人。
シュプレヒコールは、またたく間に移動し、風のように消えていった。
時間にして、わずか1~2分だっただろう。
軍に通報されて捕まる前に、走りながら声をあげ、大急ぎで解散するのだ。
この近くには、兵士たちの駐屯地がある。どうか逃げきれますように…。
祈るような気持ちで、ベランダから空を見上げる。青い空。
民主主義を取り返そうという人々の願いは
軍の虐殺によって、そして今は新型コロナによって、表面上は押さえ込まれている。
それでも時々こんな風によみがえっては
半年前のあの気持ちを思い起こさせてくれる。
===
「ねぇ、宝くじの話きいた?」
電話をかけてきた同世代の友人が、何やらうれしそうに尋ねてきた。
え?宝くじ?
知らないよ。何か始まるの?
「そう、NUGのオンライン宝くじだよ!」
なんと、NUG(民主政府)が、宝くじを売り出すというのだ。
1枚2000チャット(約140円)で、5枚(約700円)から購入できるらしい。
売り上げの7割が、NUGやPDF(防衛隊)などの民主主義勢力にまわり
3割が配当金になるのだという。
クーデター以前、宝くじはけっこう人気があった。
1枚1000チャット(+販売者が少し上乗せして売る)で、1等はなんと1億円。
うちのスタッフもよく買っていて、
たまに誰かが5万チャット(約3500円)くらい当たると
周囲のスタッフと一緒に、イェーイ、ビールおごりー!などとふざけ合っていたものだ。
だがクーデター後、見事にだれも宝くじを買わなくなった。
売り上げの6割が政府に入る仕組みだからだ。
社会の発展のため、という本来の用途を、もはやだれも信じなかった。
いつも家の前の路地で、軽ワゴン車のトランクを開け放って宝くじを売っていたおじさん。
クーデター後、トランクの中の定位置に座り、うなだれていた姿を思い出す。
あの白いワゴン車も、もう数カ月見ていない。
売れ行きが激減したためだろう、軍政は1億円だった配当を3300万円まで値下げした。
市民たちは「賞金も払えなくなった」と嘲笑し、溜飲を下げたのだ。
==
「NUGの宝くじに関しては、賞金は当たらなくていいの。
 これを買うこと自体がサポートだから」
うん、みんなそう思って買うだろうね。
お金はどうやって払うの?ネットバンキング?
「それが問題。NUGは、宝くじを買う人の安全を一番に考える、って。
 軍政が『NUGの宝くじを買ったら法的措置を講じる!』って言ってるからね」
あー出た、いつものやつだね。
「そう。
 それに今日軍政が、来週から銀行を一斉閉鎖するってアナウンスを出したでしょ。
 そのせいで、銀行を経由したやりとりができなくなったの」
えっ、まさかあの銀行の閉鎖は、宝くじ販売を邪魔するため…?
「ありえるよね…。ほかに理由がないもん。
 宝くじの販売開始は15日(日)の予定だから、タイミング的にはぴったり。
 でもNUGが、何か安全な方法をみつけて、アナウンスしてくれると思う」
===
その後、別の友人にも宝くじの話を聞いてみた。
2〜3月に、デモの先頭に立っていた友人だ。
彼は「もちろん買うよ」と明るい声で即答した。
「もう、デモはできない。
 でも僕たちはどんな手段を使ってでも、勝つまでたたかう。
 宝くじも、立派な戦略だよ。
 僕はクーデター前までは、自分の楽しみのために宝くじを買ってた。
 だけど今度は、自分の誇りとミャンマーの未来のために、宝くじを買うんだ」

今日もどこかで人々が立ち上がる。 3本指で、反軍政を訴えながら。 暴力的な軍政下でも、凄まじいコロナ禍でも、決して屈しない心。 (c) Myanmar Now/Twitter

お坊さんたちも、たたかい続ける。 僧院やお寺でもコロナが流行しているらしい。亡くなった人のためにお経を上げることすら、ままならなくなってしまった。 (c) Myanmar Now/Twitter

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