ミャンマーに浸透する中国の宣伝工作
地元メディア隠れ蓑に「香港デモは米国のせい」
- 2019/11/18
筆者のいない記事?
ヤンゴンで仕事をしていると、時折不自然なニュースを目にすることがある。中国の要人のニュースであったり、中国の立場を補強するような報道だ。例えば今年8月、地元の大手日刊紙「ボイス・デイリー」は、「香港はヤンゴンの鏡」と題する2ページの記事が掲載した。
「面白い記事ですね。ほかのミャンマーの記事と全然違います」とミャンマー人スタッフがつぶやいた。記事は、米国第一主義を強めるトランプ政権が米中貿易戦争を有利に進めるため香港を混乱させようとしていると指摘するもので、「中国政府は米国が香港に口出しすることを許さないだろう」と強調。「ミャンマーも中国で起こっていることを研究するべきだ」と結論づけている。
よく見ると紙面の片隅に「アドバトリアル(記事広告)」とあった。署名は「タンダー」というミャンマー女性の名だった。そのスタッフに記事広告の仕組みを説明したのち、誰がお金を出していると思うかを尋ねた。予想外の質問に考えあぐねるスタッフに対し、筆者は「中国のお金だと思うよ」と告げた。
それから1カ月あまりが経ち、ニュースサイト「ミャンマーナウ」の調査報道で、真相が明らかになった。この報道は、中国大使館などの関係者が別の日刊紙セブンデイに同様の記事を掲載してもらおうとしたものの、同紙は「編集方針と違う」として拒否したこと、一方でボイス紙は100万チャット(約7万円)の料金で掲載したことなどを暴露した。また、別の新聞も同じ記事を載せたが、署名は別のミャンマー人の名前で、実際にはそんな筆者は存在しないことを示唆した。記事広告であることを明示しない媒体もあったという。
今や世界第2位の経済大国になった中国の大使館にとってみれば、7万円など些細な出費に違いない。金を払って記事を掲載したケースとしてはこのほか、国際社会から批判を受けた中国の「債務の罠」を否定する記事についても例示されている。