ミャンマー内戦「もう宗教にできることはない」 行動する僧侶アシン・ターワラの涙
サフラン革命指導者が来日、支援訴え

  • 2022/6/21

 アシン・ターワラは、ミャンマーでよく知られた僧侶のひとりである。2007年の僧侶を中心とした民主化運動サフラン革命のリーダーとして、ミャンマー人から尊敬されている。彼は、サフラン革命が国軍に弾圧されたのちに国外に脱出。現在はノルウェーで生活している。クーデター後に民主派勢力で構成する国民統一政府(NUG)にも参画した。日本を訪問し、ミャンマーが民主主義を取り戻すための援助を呼びかけている。その思いを聞いた。

独裁への抵抗を示す3本指を掲げるアシン・ターワラ(6月17日、東京で筆者撮影)

 「蚊も殺さないようにしていた若者が、今は人殺しをしている。本当に悲しいことです」。インタビューの中で、クーデター後に武装闘争に入った若者たちに話題が及び、ぼそぼそと絞り出すような言葉が続いている時、筆者は彼の頬に光るものに気づいた。そして彼は、サフラン色の僧衣で両目をぬぐった。

 「世界の人に知ってほしいのは、彼らが武器を取りたくて取っているのではないということだ。罪のない市民が殺されているので、守るために戦わざるをえないのだ」

 ミャンマーの状況を改善するために宗教家には何ができるかと問うと、こう答えた。「もう宗教にできることはない。武器を持つ者の言葉が通り、力を持つものが勝ちとなる状況になってしまった」。

インタビュー中に涙を浮かべて言葉に詰まるアシン・ターワラ(6月17日、東京で筆者撮影)

 2007年のサフラン革命が弾圧され、インドに脱出したアシン・ターワラは、その後、ノルウェーに居を移した。静かに宗教活動を行いたいと思ったからだ。「民主化が進展し、もう二度とクーデターが起こるとは思っていなかった」。
 しかし、その考えは過ちだったことを彼は痛感する。昨年2月にクーデターが起きた時は、2日間部屋に引きこもって一人泣いたという。

 クーデターを受けて再び表舞台に姿を現したアシン・ターワラは、ノルウェーで抗議活動を展開。抗議デモのほか、インターネットを使って政府や市民にクーデター反対を訴えた。現在は、NUGの天然資源・環境保全省の一員としても活動している。仏法では僧侶は政治には関わるべきでないのではと聞くと、「仏陀は人のために正しいことをせよと教えている。その教えを守っているのであって、政治を行っているつもりはない」と答えた。

 彼の積極的に社会に関わろうとする姿勢は、現在のミャンマー仏教界への批判としても現れている。僧侶がデモの先頭に立ったサフラン革命との違いを挙げ、「今回のクーデターでは、地位のある僧侶が正義の側に立ってくれなかった」と話す。「高僧たちが軍人を諫めるべきだった。国軍側の民兵の募集にまで手を貸す僧侶がいるのは恥ずべきことである。正義と不正義の違いが分からないのでは、存在する意味がない」と、厳しく批判する。

熱弁をふるうアシン・ターワラ(6月17日、東京で筆者撮影)

 国軍を利するビジネスを行う企業に対しても、厳しい目を向ける。ノルウェーの政府系通信会社テレノールは、クーデター後にミャンマーからの撤退を発表。ミャンマーで展開する通信事業を売却しようとしたが、ノルウェーでは、国軍側が同社の保有する個人データを弾圧に利用する可能性があるとして、「責任ある撤退」を求める声が巻き起こり、株主であるノルウェー政府を巻き込んだ大議論に発展した。
 アシン・ターワラは、テレノールへの抗議活動に積極的に参加してきた。「市民のデモと、メディアの報道の影響が大きい。自由主義国では、国民に訴えることで世の中が変わる」と話す。

記者会見でミャンマーの窮状を訴えるアシン・ターワラ(6月18日、東京で筆者撮影)

 6月末まで約一カ月の日本滞在では、仏教関係者や支援関係者らを訪問するほか、各地でミャンマー関連のイベントに参加して日本の支援を呼びかける。6月5日に浅草・東本願寺で演説した際には、3本指を掲げて話を締めくくり、参列者を驚かせた。彼は日本人にこう訴える。「日本はミャンマーが独立して以来、ずっと助けてくれていた。今一度、助けてほしい。世界は、自分の身を自分で守らなければならないような内戦で苦しむミャンマーの現実を無視しないでほしい」。

アシン・ターワラ 

 1984年ミャンマー・エーヤワディ管区の農家に生まれ、幼くして出家。2007年の僧侶を中心とした民主化運動「サフラン革命」の指導者の1人として知られる。現在はノルウェー在住で、国民統一政府(NUG)天然資源・環境保全省で資金調達などを担当する。呼称の「アシン」は僧侶への敬称。「托鉢に使う鉢と僧衣が3着あれば事足りる。自分の物は必要ない」

 

 

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