「春の革命」
国を作り直すまったく新しい体制

  • 2021/4/18

【編集部注:】

2月に全権を掌握した軍に対し、全土で市民による抗議行動が続くミャンマー。ここでは、この運動がなぜ「Spring Revolution」と呼ばれるようになったのか、昔の軍の弾圧を知らない若い世代がなぜ今の抗議行動の中心となっているのか、そして市民の今の思いについて現地社会に詳しい筆者が綴ったFacebook投稿を紹介します。

 

~ 以下、Facebook投稿 ~

2月22日、ミニゴン高架の橋桁に掲げらてた「春の革命」(筆者撮影)

 私が始めて「春の革命(Spring Revolution / နွေဦးတော်လှန်ရေး)」という文字を見たのはゼネストと数百万人のデモが行われた2月22日、ミニゴン高架の橋桁に掲げられた “Spring Revolution” だった。その時、私はちょっと違和感を感じた。というのも、それまでの抗議運動の目標は、スーチーとすべての逮捕者の解放、2020年選挙結果の承認、連邦議会の開催などで、要はクーデター以前の姿に戻すということだった。それに対して革命という文字は異質だった。
 その後、2月末あたりから軍の弾圧が激しくなり、犠牲者が急増することになった。毎日毎日信じられないような残虐なことを国軍が行った。そこで私も理解した。自国民を平気で殺すような国軍は解体するしかない。そして、まったく新しい体制で国を作り直すしかない。それこそ春の革命だった。
 ビルマとしてイギリスから独立したのが1948年。それから14年間は曲がりなりにも民主主義国家だった。それを倒したのが、1962年のネウィン将軍による軍事クーデターだった。それから2010年まで延々と軍事独裁の政権が続いた。途中、1988年の民主化運動、2007年のサフラン革命があったが国軍により潰されてしまった。
 60年近い軍事独裁により、国軍は自分たちが国を支配するのは当然だと思うようになった。「国軍こそ父、国軍こそ母」などというスローガンがあったぐらいだ。2011年からの民主化にしても、元になる2008年憲法は国軍が策定した憲法だ。議席の4分の1は国軍が自動的に占め、国軍最高司令官は大統領と匹敵するほどの権力を持ち、内務省、防衛省、国境省は国軍が支配するいった具合に、本当の民主主義の憲法からはかけ離れていた。
 それでもミャンマー国民は我慢した。長期に渡り権力を持ってきた国軍に妥協するのはしょうがないと思った。それは一種の処世術ともいえる。ところが、2011年からのテインセイン政権で予想外に民主主義と自由化が進んだ。その後のNLD政権で、より自由にものが言えるようになった。
 その中で育ってきた若者は物心ついた頃から自由と民主主義で育ち、88年や2007年を知らない。そして、インターネットで世界と繋がった世代だ。彼らはクーデターを起こした国軍を絶対に許せなかった。彼らは街に出てデモを始めた。そんな若者に勇気づけられたのが、今まで軍の支配はしょうがないと諦めていた上の世代の人たちだった。
 みんなが気がついた。国軍が生き長らえたのは、今まで自分たちが国軍にしょうがないと服従してきたからだったと。国民みんなが国軍に服従しなければ軍は倒れると。これがCDMだ。
 それに対して軍が行ったのは恐怖でもって国民を服従させることだった。しかし、軍が残虐になればなるほど国民の心が離れていった。そして、絶対に国軍を許さないと国民みなが思うようになった。また、国軍が不服従を恐れていることも知った。国がどうなろうと、国軍が潰れるまで不服従は続くだろう。
 60年近くミャンマーで権力を持ち続けた国軍、この国軍を解体することでミャンマー国民が真の民主主義と自由を勝ち取ることができる。それに、民族間の紛争が耐えなかったミャンマーで、今ほど多くの民族がまとまるのは奇跡ともいえる。それは国軍が全民族共通の敵となったからだ。
 ところで、日本政府は国軍との太いパイプを使って働きかけを行うと言っている。それは、これ以上犠牲者を出さないための「善意」の交渉かもしれない。しかし、ミャンマー国民からすると春の革命を邪魔するものでしかない。国民にとって、国軍との妥協は絶対にありえないからだ。それに、日本政府が国軍と交渉するということは、国軍に政府としての正当性を与えることになる。日本政府がなぜミャンマー国民の妨害をするのか理解に苦しむ。

2月22日、ミニゴン高架の橋桁に掲げらてた「春の革命」(筆者撮影)

同じく2月22日、ミニゴン高架から掲げていた従来の要求(スーチーとすべての逮捕者の解放、2020年選挙結果の承認、連邦議会の開催)。横でミンアウンフラインの人形が絞首刑になっている(筆者撮影)

 

 

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