「ミャンマーでダランと呼ばれている密告者」
忌み嫌われる存在がなくならない理由

  • 2021/12/6

【編集部注:】

 クーデターの発生から10カ月以上が経過したミャンマー。現地では、昨日12月5日も最大都市ヤンゴンで軍のクーデターに抗議するデモ隊に国軍車両が後方から猛スピードで突っ込み、デモの参加者5人が死亡するなど、徹底的な弾圧が続いています。今回のデモについては、情報が事前に軍側に漏れていたとも指摘されていますが、住民の中に潜む「密告者」が社会の分断を一層複雑にしている様子を伝えるnote の投稿を紹介します。

 

~ 以下、noteの投稿より ~

装甲車両に乗りヤンゴンの街に目を光らせる軍関係者(筆者撮影)

 ミャンマーには「ダラン」と呼ばれる人たちがいる。ダランは普通の人たちと同じ姿で、ヤンゴンにもマンダレーにもどこの町にもいる。

 ダランは今のミャンマーで最も嫌われ、恐れられている存在だ。彼らは、住民の様子を軍に情報提供したり、軍に対して抵抗運動をしている人を密告したりしている。

教え子を密告した高校教師
 ダランは、今のミャンマー国民から最も忌み嫌われており、一部のダランはPDF(People’s Defence Force / 国民防衛隊)によって暗殺されている。最近、一人の女性がタクシーに乗っているときに銃で暗殺された。独立系メディアの報道によると、彼女は高校の教師で、自分の教え子たちを軍に密告したという。その結果、5人の生徒が逮捕され、他にも逃げている生徒たちがいる。

 今のミャンマーで軍に逮捕されれば尋問センターという軍の施設に連れて行かれ、そこで拷問が待っている。未成年でも容赦しない。拷問の結果、死に至ることも多い。学校の先生が教え子を軍に密告し、その結果、先生が暗殺されるという、なんとも悲惨な事件だ。

町の乱暴者

 ここで、ある地方の小さな町のダランの話を紹介したい。

 この町に、ソーティー(仮名)と呼ばれる男がいた。町の市場で食料品を売っていた彼は軍と繋がりを持ち、その軍の力を後ろ盾にいつも若無人に振る舞って、よくトラブルを起こしていた。

 ある日、何が原因かはわからないが、ソーティーは近所の男と喧嘩になった。その喧嘩はエスカレートし、ソーティーは刀を持ち出し相手の男に振り下ろした。男の頭をかすめた刃は、男の耳を削ぎ落としてしまい、喧嘩は終わった。

 その夜、ソーティーの暴力に怒った住民たちが彼の家の前に集まり、彼に出てくるように迫った。多勢に無勢で怖くなったソーティーは、妻と一緒に家の中でじっとしていた。そのうち、業を煮やした住民たちは彼の家に投石を始めたが、ソーティーは家の中でじっとしたままだ。結局、住民たちはそれ以上の行動には出ず、家に帰っていった。

 住民たちが警察にソーティーを訴えなかったのは、警察が本来の仕事をしていなかったからだ。クーデター以降、軍の支配下に入った警察は、住民からの信頼を失ってしまった。それに、軍と結びつきのあるソーティーには、警察も手出しできなかったのだ。

 翌朝早く、ソーティーは妻と一緒に車で隣町に向かった。そこには軍の基地があり、軍に助けてもらおうと思ったのだ。

軍が町にやってきた
 ソーティーが軍の基地に向かったということを知った周りの住民は、怖くなった。特に夜中に石を投げた人たちは自分たちが捕まるのではと思い、町から遠くへ逃げていった。

 その日の午後、ソーティーが兵士たちと一緒に町に戻ってきた。投石した住民たちは、すでに逃げて家には誰もいなかったが、前夜の騒動にはまったく関係していなかった4人が、なぜか軍に捕まった。政治活動もやっていなければ、以前、町で行われていたクーデターに反対するデモにも参加していなかったにも関わらず、だ。

 翌日、4人のうち2人が傷だらけの遺体となって帰ってきた。1人は歯がすべてなくなっていた。拷問で歯を抜かれてしまったのだ。残りの2人はどうなったか、いまだに分からない。家族が軍に連絡しても何も教えてくれないという。捕まってから、もう半年になる。

 なぜこの4人が捕まったのか、今もはっきりしないが、町では、4人がソーティーと前から仲が悪かったことが原因ではないかと噂されている。ただ単に「嫌いだから」という理由で軍に密告されたというのだ。

 ソーティー本人の口から聞いたわけではないため、真実かどうかは分からない。しかし、これに似たような話はよく耳にする。また、ビジネス上の妬みから軍に密告されたのではないかと言う人もいる。

 なお、密告したソーティーだが、4人が捕まった日以来、町には帰っていない。軍の基地で夫婦で生活しているという話だ。

ダランはどこにでもいる
 私の肌感覚では、一般のミャンマー人のうち9割以上は軍を忌み嫌っていると私は感じている。しかし、そんな状況でも、軍に密告するダランはなくならない。ソーティーのように、「虎の威」ならぬ「軍の威」を借りるためにダランになる人がいる。また、家族や親族が軍の将校クラスの場合、多くの特権や経済利益が入る。それを守りたいがためにダランになる人もいる。冒頭の女性教師も、娘婿が陸軍将校で経済的に裕福だったという。他にも、ビジネス上の利権でダランになる人もいる。

 私が住んでいる地区にもダランではないかと噂されている人がいる。今のミャンマー、どこにでもダランがいるのかもしれない。

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