「忘れられたミャンマー」
続く人道危機に無関心な国際社会を糾弾するアジアの報道

  • 2022/7/3

 2021年2月にクーデターで実権を握ったミャンマー軍は、6月22日、民主化の指導者、アウンサンスーチー氏(77)を首都ネピドーにある刑務所へと移送した。BBCなどの報道によれば、同氏は独居房に収監されたという。世界の関心がウクライナ侵攻に集中している中、ミャンマーではいまもさまざまな人権侵害が続いている。

ミャンマーではクーデターから500日以上が過ぎた今もさまざまな人権侵害が続いているが、国際社会からの関心が薄れつつあることが危惧されている (c) Saw Wunna / Unsplash

西側諸国から「選ばれない」人々

 マレーシアの英字媒体ニュー・ストレイツ・タイムズは、6月24日付で「忘れられたミャンマー」という社説を掲載した。「世界各国のガバナンスで痛ましいことが起きているが、ミャンマーで続く殺害については、まさにそうとしか表現できない」という書き出しだ。
 「世界が眠っている間にも、軍は人々を殺害し続けている。大国たち――多くは西側諸国だが――が殺害と悪夢を止めさせようとするのは、自らの利益に関わる時だけだ。彼らの関心は、今、ウクライナに集中している。ウクライナに支援が必要であることは間違いない。しかし、ミャンマーもまた、同様なのだ」
 その上で社説は、「国際社会にはウクライナとミャンマー、両国の問題を扱う力量があるにも関わらず、ミャンマーの問題に取り組むことを選択していない」と、厳しく指摘。選択の基準の一つとして、「人種や宗教」を挙げる。
 「ウクライナ侵攻を受け、国際社会は “青い目とブロンドの髪” の人々だけを助けるという、世界の情けない部分を自ら露呈した。これは、ウクライナの人々が悪いのではない。助ける対象を選別しようとする西側諸国側の過ちだ。世界には、助けを求めている人々がほかにも数多くいる。彼らの多くは、過去の西側諸国が地政学的な理由から衝突したことで発生した紛争による犠牲者たちだ」 

民主活動家らの死刑執行が承認

 ミャンマー軍に拘束されているのは、アウンサンスーチー氏だけではない。現在はタイから発信を続けているミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は6月17日、このほど軍が設置した軍事法廷から死刑判決を受けた国民民主連盟(NLD)元議員らの上訴が棄却され、死刑執行が承認されたと伝えた。
 死刑執行が承認されたのは、国民民主連盟(NLD)の元議員や民主活動家ら、計4人。
 「判決以来、友人や支持者たちは眠れぬ日々を過ごしている。同国の前例では土曜日に処刑が行われることが多かったことから、人々は土曜日が巡って来るたびに、特に不安を募らせている」
 紙面には、ヤンゴン市内で「死刑が執行されれば、われわれは必ず報復する」と書かれた横断幕を掲げる人々の写真が掲載されている。社説は、「死刑執行は国民の怒りに油を注ぎ、必ずや抵抗運動の激化を招くだろう」と指摘する。
 人権団体の統計によれば、クーデター以降、ミャンマー軍によって、400人近い子どもを含む2000人以上の市民が殺害された。2020年11月に実施された総選挙で当選した議員らにより2021年9月に結成された国民統一政府(NUG)の蜂起の呼びかけに応えて自衛組織「国民防衛隊(PDF)」に参加する人々の数は急増しており、現在10万人近くが参加しているとの見方もある。「これほどの早さで拡大するとは誰も想像していなかった」と、同紙は指摘する。
 「ミャンマー軍は、彼らの死刑を執行すべきではない。執行は軍自身の崩壊を早めるだけだ」

 マレーシアのニュー・ストレイツ・タイムズ紙が指摘するように、我々は「どれか一つの問題」にしか取り組めないというわけではない。ただ「選ばない」だけだ。そのことを肝に銘じながら、日々、報道に接したい。

(原文)
マレーシア:https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/06/807683/nst-leader-myanmar-forgotten

ミャンマー: https://www.irrawaddy.com/opinion/editorial/myanmars-democracy-activists-on-death-row-must-be-allowed-to-live.html

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