「約束されていた未来をとりもどすために」
街のいたるところにある、「非日常」

  • 2021/4/9

【編集部注:】

銃声やシュプレヒコールが減り、パダウの花が咲いたヤンゴン。しかし、一見、穏やかに見える街のあちこちにある「非日常」こそ、人々の不屈の信念の表れだといいます。ここでは、約束されていた未来をとりもどすために不便や理不尽をみずから引き受け、希望を絶やさない人々の様子を紹介したFacebook投稿をご紹介します。

~ 以下、Facebook投稿 ~

ミャンマー正月の到来を告げる花、パダウ。 1年に数日だけ、4月の雨上がりにしか咲かない黄色い花を探して、上を向いて歩く。   日本人が桜を見て「春がきたなぁ」と思うように、 ミャンマーの人はパダウを見て「新年だなぁ」と思うそうだ。(筆者撮影)

今日もスコンと晴れた青空のヤンゴン。
ミャンマー正月の訪れを告げるパダウの花が、地面に黄色い絨毯をつくる。
この国が今、激動の最中にあるなんて、誰が信じるだろう。
たった1カ月半で、何の罪もない人が600人以上も殺されたなんて、どうして信じられるだろう。
___ 
最近、シュプレヒコールや銃声を、めったに聞かなくなった。
赤い旗も、スーチーさんのTシャツも、ほとんど見かけない。
目立ったことをして、警察や兵士に目をつけられたら
家に踏み込まれ、暴力を振るわれたり金品を強奪されたりするからだ。
そりゃ、口をつぐむのも仕方ないよな、と思う。
穏やかな街にわずかに残る混乱の跡は
「Join CDM」や「Respect our vote」という壁の落書き。
以前はバリケードだった、道端の土嚢袋。
そして、2月2日から途切れずに続く、夜8時の鍋の音。
___ 
それでも「非日常」は、街のいたるところにある。
たとえば早朝6時から、道端に列をつくる人々。
目的は、ATMだ。
銀行が動かなくなって2カ月。現金が足りない。
いくら残高が十分あっても、ATMの中のお札がなくなれば引き出せない。
だから、まだ機械が動いていない早朝から、我先にと並ぶのだ。
とはいえ、引き出せるお金にも上限が設定されている。
2月は、1日1人あたり約8万円まで。
それが3月には約4万円になり、先週ついに1万5000円になった。
銀行のレートと町の両替所レートには、
先週から、1ドルあたり60〜80チャット(5〜6円)くらいの差が出始めた。
ミャンマーチャットがふたたび紙くずになるのではないか、という嫌な予感がくすぶる。
ヤンゴン生活の悩みのタネだった渋滞は、うそみたいに消えた。
夜7時を過ぎると、大通りは不気味なほど静かだ。
喧騒と排気ガスに満ちていたにぎやかな街が、今はまるでゴーストタウンだ。
インターネットの遮断でGrabが使えないので、
道端でタクシーを拾おうとしても、なかなかタクシーが通らない。
こんなことは今までなかった。
ときどき、だれもいない大通りを、車が猛烈な勢いで走り抜けていく。
8時からは夜間外出禁止令だ、さぁ急いで。
___
多くの公立病院も、機能を止めたままだ。
州立や県立の大きな病院では、もともと働いていた医療者たちにかわり
軍医がスタンバイしている。
国営紙には連日しつこいほどに、
軍病院での診察シーンが、カラー写真付きで掲載される。
我々はちゃんとやってますよ、患者もこんなに感謝してますよ、と言わんばかりに。
以前、公立病院で働いていた医療者(公務員)は
クーデター2日後から「軍政の下では働かない」と、続々と3本指を立てて病院を去った。
今は、地区ごとに医療者のネットワークをつくり、兵士に見つからないように移動しながら
軍の武力弾圧で怪我をした人の応急処置などに当たっているらしい。
…いやいや、どんなに公務員でも、軍政がいやでも、医療や病院は止めちゃダメでしょ。
そう思う人もいると思う。
実は私には、心疾患をもつ友人がいる。
クーデター後のストレスのせいか、彼女は3月に一度、狭心症の発作を起こした。
心臓の痛みに怯えながらも、彼女は軍が占領する公立病院ではなく、私立病院を選んだ。
数日後、退院した彼女はこう嘆いた。 
「〇〇地区の公立病院まで行けば、治療ができる機械がある、と言われたの。
 でも今は、その病院も軍に占領されてる。治療は受けられない」
どうしても軍医の治療を受けるのは嫌なの?レベルが低いの?
「レベルは知らない。でも、、、信用できない人に、命を預けられる?」
そうか、そうだよね…。
もし医療者がCDM(職務ボイコット)をしなければ、治療を受けられたわけでしょ。
医療者はCDMをやめて、病院に戻ってきてほしいと思う?
「うーん、そうは思わない。
 確かに私には、治療が必要だよ。だけど、そういう人は限られてるでしょ。
 CDMは、すべてのミャンマー人にとって重要なの。
 だからやっぱり、CDMはやらなきゃいけない。
 CDMは、私たちの希望なんだよ」
___
ミャンマーの市民生活は、機能不全に陥っている。
だけどこれは、人々が闘い続けている証でもあるんだと思う。
膨大な数の人々が、約束されていた未来をとりもどすために
不便や理不尽をみずから引き受けている。
この不屈の信念は、決して消えることのない希望は、どうしたら実を結ぶんだろうか。

地方では、まだまだデモがつづいている。 どんなに激しい弾圧を受けても、立ち上がり続ける。 一昨日は、46人が殺された。(c) Myanmar Now / Twitter

「一歩あるくごとに、花が咲く」 昨日からそんなキャッチコピーとともに、靴の中で色とりどりの花が咲く写真が拡散されている。 これは銃弾に倒れた仲間の追悼でもあり、この抗議活動の「前進」を願うものでもあるらしい。 Spring revolution(春の革命)と呼ばれるこの闘いを象徴するような、美しい一コマ。(c) Myanmar Now / Twitter

唯一つながる光ファイバーのインターネットを申し込むべく、Myanmar Netに列をつくる人々。 機器のとりつけに3000円程度。その後は1カ月1300円くらいのパック料金。 安く思えるかもしれないが、ミャンマーの最低賃金は日給400円未満。契約できるのはそこそこ裕福な人だけだ。(筆者撮影)

 

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