【ミャンマー】民主派NUGが「自衛戦争を開始」
スーチー氏の非暴力主義を転換 都市部は平静も、市街戦勃発の恐れ
- 2021/9/9
ミャンマーの民主派がクーデターに対抗して組織した国民統一政府(NUG)は9月7日、国軍に対して「国民の自衛のための戦争」を始めたと発表した。ドゥワラシラ大統領代行が、交流サイト(SNS)のフェイスブックでビデオ演説を行った。同大統領代行は軍が民主的な政府から不当に権力を奪ったとして、傘下の「人民防衛隊(PDF)」に国軍の拠点などの攻撃を呼びかけたほか、少数民族武装勢力にも国軍に対して軍事行動を起こすように求めた。民主派のカリスマ的存在で収監中のアウンサンスーチー国家顧問が提唱してきた非暴力路線を公式に転換することになり、2月以来続いたクーデター抵抗運動は節目を迎えた。
市民に武装蜂起を呼びかけ
ドゥワラシラ大統領代行は同日のビデオ演説で、無期限の非常事態を宣言。「国軍側はクーデターで権力を奪い、残虐行為を繰り返してきた」と述べた。そのうえで、①人民防衛隊に国軍やその拠点への攻撃、②少数民族武装勢力による国軍への攻撃、③市民に安全な場所を動かないように求めたうえで、人民防衛隊の支援を要請、④公務員には職場から離れるように要請、⑤国軍の兵士には人民防衛隊への参加を要請――などの14項目を発表した。
これまでも、カチン州やカレン州、カヤー州などでは、国軍と少数民族武装勢力との間で、数十人規模の死者を出す大規模な戦闘が起きているが、今後、こうした内戦が激化する恐れがある。また、ゲリラ戦を展開する武装勢力側に対して、その報復として国軍はしばしば付近の村などへの無差別攻撃をすることが知られており、住民への被害拡大が懸念される。また、被害を恐れる住民らが国内避難民となるほか、周辺国へ難民として流出する可能性がある。
8日には、マグウェ管区などで、国軍系通信会社の電波塔が爆破されるなど、NUGのよびかけに呼応するかのような攻撃も起こっており、今後、インフラなども狙われる可能性がある。
民主派は小規模の武装グループの集まり
都市部でもこれまで以上の衝突が起きる可能性がある。ミャンマーではクーデター以降の弾圧で、逃亡した市民らが地方の少数民族武装勢力の支配地域に逃走。千人以上とも言われる反クーデター派の市民が軍事訓練を受けたうえで、ヤンゴンなどの都心に戻ってきている。NUGはこうした市民を「国民防衛隊(NUG)」として組織化を図っているが、各地の小さな武装した市民グループが活動しているのが実情で、NUGの強固な指揮命令系統のもとに行動しているわけではない。こうした人たちは、NUGが攻撃命令を出す「D-Day」を待って武装化を進め準備を進めていた。今後、都市部で軍の関連施設や軍側とみなした人物を襲撃するなど、武装蜂起する可能性がある。
これまでもこうした動きはあった。6月にはマンダレーで、国軍に捜査の最中に、武装した住民との間で銃撃戦となったと伝えられている。また8月には、ヤンゴン環状線で移動中の警察官6人が銃撃によって死傷している。
こうした都市部でのゲリラ的な攻撃に対して、国軍側は2月以降の摘発で見られたように、「住民の連帯責任」とみなして、無差別的な摘発を行う可能性がある。これまでに行われてきた作戦の例では、怪しいとにらんだ区画を軍の舞台が封鎖して逃げられなくしたうえで、一斉に家宅捜索をかけるなどの方法が知られている。
平穏だが取り締まり強化
ヤンゴンからの情報によると、7日に市場やスーパーで買い出しをする住民が増え混雑しているものの、大きな混乱は報告されていない。ただ7日以降、当局の取り締まりが厳しくなっているという。ある住民は「8日夜、近所で何もしていない若者3人が当局に連れていかれた」と、証言している。
あるヤンゴン市民の男性は「これからどうなるのか恐ろしい。どうしたら家族を守れるのか」と話していた。また、別の男性は「戦争を始めてしまったからには、勝つしかない。年内くらいで勝利できれば」と話していた。
また、地方都市で抗議活動を続けていた男性は「戦争の被害者を救う活動をしなくてはならない。家を担保に入れて資金を調達した」と話していた。
多くの住民は、武装闘争を「軍政を終わらせるためにはやむを得ない」と支持しつつも、早期の終結を願っているようだ。