英語プログラムから脱退するスペインの学校
教員英語力不足、指導法に問題指摘も

  • 2021/7/22

 日本でも長年にわたって英語教育の改善が議論されているが、欧州諸国の中で英語レベルが最も低い国の一つとされるスペインも同じ悩みを抱えているようだ。報道によると、同国の公立校では近年、英語で他の教科を教えるバイリンガル教育プログラムを導入したものの、脱退する学校も出始めているという。

バイリンガル教育プログラムを導入したスペインで、脱退する学校が相次いでいる (c) Pixabay

「英語も他の科目も学ばない」

 スペイン紙「エル・パイス」電子版は7月3日、「公立学校、バイリンガル教育を放棄 『インチキだ、子どもたちは英語も教科も学ばない』」という見出しの記事を掲載した。

 同紙によると、スペインでは公立校や半官半民校で2000年代初頭から英語で他の教科を学ぶバイリンガル教育プログラムが任意で導入可能になった。このプログラムでは、一般的に小学校から週に平均5時間、他の教科を英語で学ぶ。これに加えて教科として英語そのものを学ぶ(6年生では3時間)時間もある。

 2019〜2020年には、このプログラムで学ぶ子どもたちは498%増の140万人に上った。しかし、その一方で、スペイン北西部のカスティーリャ・イ・レオン州など3州で、90校近くの公立校がこのプログラムから脱退したという。

 プログラムが「失敗しつつある」理由として、同紙は、英語教育に関する報告書を執筆した研究者が「スペインのカリキュラムは、内容が多すぎる上、ネイティブスピーカーではない教師が英語で教えていることが原因だ」という見解を示したことを紹介している。

 また、バイリンガル教育を行う教員に求められる英語のレベルも州によって異なり、アストゥリアス州とアンダルシア州では、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFRL)で定義されているB2だが、マドリードではC1が条件になっているという。これらのレベルは、日本の文部科学省の資料によれば、B2はおおよそ英検準1級、C1は同1級に相当する。

 さらに同紙は、プログラムから脱退した学校の声も紹介している。

 例えば、カスティーリャ・イ・レオン州の教師は、「理科の教科書で使われる英語の語彙や文法は、各学年の英語科目で教えられるものよりも高度であり、教え子は読んだ内容を十分に理解しないまま暗記している」と指摘した。

 中部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州の学校は、体育と生物を英語で教えていたが、わずか1年でプログラムから脱退した。米国で1年間、スペイン語で生物を教えた経験がある同校の教師によれば、米国には1日に約5時間スペイン語で学ぶ「効率的で、よく設計されたシステム」があったという。しかし、スペインで行われているのはいるのは「偽りであり、見せかけであり、(子どもたちが)英語も教科の内容もきちんと学ばない、インチキなバイリンガル教育」だとコメント。さらに、当初、予定されていたネイティブスピーカーのアシスタントも約束通りに派遣されなかったため、教師にはB2レベルの英語力が必要で、能力不足を痛感したという。

 また、北部のナバラ州の学校では、自然科学と社会科学を英語で教えていたが、子どもたちは理解不足になったそうだ。同校の校長は「英語には反対ではないが、カリキュラムを犠牲にしている」と話し、同校の50%の在籍者がアラブ系であるため、スペイン語自体にも苦労している、と付け加えた。

擁護派「目標は機能的なレベル」

 同紙は7月14日、「バイリンガル教育擁護派『子どもたちがスペイン語のように英語を話すようになると考えるのは間違い』」という記事で、バイリンガル教育擁護派の意見も紹介した。

 ハエン大学の英語文献学部の専任教授は、「子どもたちがスペイン語と同じように英語を話せるようになると考えるのは間違いで、将来的にコミュニケーションや仕事ができるような機能的なレベルを達成することが目標」と指摘し、過剰な期待に釘を刺した。

 また、マドリードの英語教師は「完璧な英語を学ばせるのは不可能。教師はネイティブのようにはいかないが、中学生に教えるには十分な知識を持っている」と話している。

 同紙によると、スペインの中等学校(12歳から16歳)のプログラム導入校では、地理、歴史、物理、化学、生物などの授業時間の約40%が英語で行われている。しかし、スペイン語で教えている学校に比べ、導入校のこれらの科目の成績は安定しており、英語の成績自体も向上していることを示す報告もあるという。

 また、問題は教師の英語力不足ではなく、バイリンガル教育の指導法の欠如が原因だという見方も紹介された。

 オックスフォード大学に1年間留学してC1資格を取得した教師は、「英語で授業すること自体には問題はないが、バイリンガルでの指導法についてトレーニングを受けていない」とコメントしており、同紙によれば、そのようなトレーニングを義務付けている地方政府はないという。

 さらに同紙は、「教科書を英語に翻訳し、スペイン語と同じように授業をすればいいというものでもない」という専門家の意見も紹介。教師は言語の習得過程への基本的な知識を持ち、子どもたちがその言語で作文や会話ができるようにサポートする必要がある、としている。

3言語教育の地域も

 「エル・パイス」の一連の報道では扱われなかったが、スペインは多言語国家で、カタルーニャ語やバスク語などの自治州公用語もある。

 カタルーニャ州の場合、授業をカタルーニャ語で行う「イマージョン教育」が行われており、これに加えてスペイン語、さらに英語などの外国語を勉強することになる。

 カタルーニャ州の地元紙「アラ」電子版は今年5月、「カタルーニャ州の英語、向上が必要」と題した記事を掲載。カタルーニャ人の英語レベルは、スペインの平均よりもやや高いものの、欧州では下位レベルと報じた。

 同紙によると、同州の多くの学校が英語に触れる時間を増やすために、理科、美術、数学などの科目を英語で教えている。これについて、英語教育の専門家は「優先すべきは質であり、高度な訓練を受けて口頭表現に精通した教師が必要」だとコメントしている。

 スイスに本部のある国際語学教育機関「EFエデュケーション・ファースト」の2020年版の報告書によると、英語を母語としない100カ国・地域の英語能力指数ランキングでスペインは34位。日本は55位。

 

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