警戒の緩むアジアで急増するコロナ変異株
「誤った安心感を捨てよ」アジア各紙からの警告
- 2023/5/18
世界保健機関(WHO)は4月下旬、インドなどで感染が広がる新型コロナウイルス・オミクロン株「XBB.1.16」の変異株、別名「アークトゥルス」を、「注目すべき変異株」に指定し、各国で情報を共有するよう求めた。
CNNなどの報道によると、アークトゥルスによる感染拡大は、4月下旬の時点で、インド、アメリカ、韓国、シンガポールなど30カ国以上で確認されている。インドでは、3月30日に報告されたアークトゥルスの感染者数は約1万3500人だったが、4月26日の報告では約6万1000人と、4倍以上に跳ね上がっている。アークトゥルスの症状は、現在のところほとんどが軽症だ。しかし感染のスピードは速く、伝染性が高い。またアメリカでは、特に子どもたちの間で、結膜炎や高熱といった症状が目立っているという。
インドの隣国ネパール、最高レベルの警戒を
アークトゥルスの感染が急増するインドと国境を接するネパールでも、この変異株の感染はすでに確認されている。ネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは、4月4日「新型コロナが戻ってきた」とする社説を掲載している。
社説は、インドでは1日に3000人以上の新規感染者が確認されており「インドとの国境を開放しているネパールも、同様の危険にさらされている」と警戒を呼びかける。また、一般的には軽症が多いとされるアークトゥルスだが、「インドでは合併症で5人の患者が死亡しており、今後も注意が必要だ」と、主張した。
一方で、「唯一の明るいニュース」として、ネパールがCOVAXを通じてワクチンを入手し、国民へのワクチン接種が再開されたことに触れた。COVAXとは、新型コロナのワクチンを複数国で共同購入し、途上国などに分配するための国際的な枠組みだ。しかし社説は、たとえワクチンが入手できても、接種を受けようという人はほとんどいない、と懸念する。「患者数の急増を考えると、これは心配なことだ。すでに以前のワクチンの免疫力は使い果たされているのだから。政府は啓発活動を強化してワクチン接種を推進し、一刻も早く、一人でも多くの人に接種をするべきだ」と主張している。
また、「感染には最高レベルの警戒が必要」とし、「国民は、3年前のような安全対策に戻らなければならない」と厳戒を要求する。つまり、症状があればすぐに検査を受けるなど、自分や家族を守るために細心の注意を払わなければならない、というのだ。「過去の経験が示すように、ひとたび事態が収拾不可能になれば、ネパールには頼りにできるものはほとんどない。誤った安心感を捨てる時にきている」と、社説は警戒を強めている。
風土病化はコロナの終焉を意味しない
インドと同様にアークトゥルスの新規感染者が確認されているマレーシアでも、英字紙ニューストレイツタイムズが4月27日付の社説で、「新型コロナはここにいる」という記事を掲載した。
社説はこう問いかける。
「新型コロナが風土病になれば、パンデミックは終わったと言えるのだろうか。多くの国がそう考えていたものの、それは賢明な考え方ではなかったようだ。アークトゥルスの感染拡大が、『それは違う』と言っている」
そのうえで、アークトゥルスは、今はまだ攻撃的ではないが、これから拡散されて攻撃性を増していくかもしれない、との予測を示し、その理由として結核を例に挙げる。「結核は19世紀に感染のピークに達したと信じられているが、現在もなお世界で年に150万人を死に至らしめている。風土病と化したからといって、それが終息を意味しないことは、歴史の教訓なのだ」。
そのうえで社説は、人々が警戒心を解いていることに懸念を示し、子どもに感染しやすいという特徴があるアークトゥルスの対策のために保健省が学校でマスク着用の義務化を推奨していることを「喜ばしいこと」だと歓迎した。
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日本でも新型コロナは5月8日から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げられた。これに伴い、イベントやお祭りが各地で「復活」し、観光地には外国人旅行客も増えている。しかし、新型コロナウイルスが消滅したわけではない。過去の教訓や経験を今後にどのように活かせるか。世界共通の課題だ。
(原文)
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2023/04/04/covid-comeback
マレーシア:
https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2023/04/903248/nst-leader-covid-19-here-stay