ラテンアメリカの「今」を届ける 第1回
生まれ変わった「麻薬都市」メデジンが、新型コロナを抑止する
- 2020/7/6
かつて「麻薬戦争」の最前線となり、「世界で最も危険な街」と呼ばれたコロンビア第二の都市メデジンが、先端技術を駆使して新型コロナウィルス感染抑止に成功している。メデジンは近年、殺人、貧困など社会問題を大幅に改善させ、IT先進地区として発展を遂げた。生まれ変わった大都市のコロナ禍への取り組みと、そこに至る歴史を追う。
新型コロナウィルス感染を抑止するメデジン
6月26日の時点で、新型コロナウィルス感染者は、全世界で947万人、死者は48万人を超えた。ワクチンが開発されない中で、決定的な対策はいまだ見つかっていない。そんな中、南米コロンビアに関するニュースをAP通信が配信した。
「メデジン市がCOVID-19(コロナウィルス感染症)のパイオニアに」
コロンビア・メデジン市がウィルス感染抑止に大きな成果を上げているというのだ。
現在、中南米での感染拡大は世界的な問題となり、コロンビアはブラジルなどとともに「感染者が急増する国のひとつ」としてWHOに取り上げられた。同国は6月20日の時点で、約7万人が感染し、死者は5000人を超えた。
国は無策ではない。初めて国内で感染者を確認した3月、直ちに罰則を伴う入国制限、強制的隔離措置をだし、さらに外出禁止、国境封鎖など厳しく移動を制限した。こうした早期の対応にもかかわらず、感染を抑止しきれていない。
一方、250万の人口を抱えるメデジンは、6月22日の時点で感染者1181人、死者7人に押しとどめている。首都ボゴタでは5000人以上が感染し、死者500人以上。死亡率では他の主要都市が2〜4%以上だが、メデジンは0.57%であり、その差は明確だ。なぜか?
先端技術を駆使した、低所得者層にむけた感染抑止対策
中南米で感染拡大する要因に、社会の特徴である激しい貧富の格差がある。貧困地区に暮らす住民の大半が、露天商や日雇い労働など、日々現金を得ながら生活する非公式な労働に従事し、家族も多く、生活のために外出は避けられない。
メデジン在住の日本語教師で、貧困地区支援に携わる羽田野香里さんはこう指摘する。
「コロンビアでは早い段階で外出が制限され現在も続いています。中流以上の人は自宅で仕事ができる職種につくケースも多く、食料も、有料宅配サービスを利用するなどして生活を維持できる。しかし、ブルーカラーが多い低所得層の人々は、自宅に待機していると、生活を続けられなくなる」
市は、こうした背景を理解し、いち早く低所得層に目を向け、外出せずに生活を続けられるよう、食料援助、現金補助、医療システムなどを組み立てた。
行政によるサービス提供に大きな役割を担っているのが、市長らが推進したスマートフォンアプリ「Medellin Me Cuida(メデジンが私をケアする)」だ。必要情報を、アプリを使って登録し状況を報告すると、生活必需品や補助金が自宅に届く。報告した病状によって、医療従事者が自宅を訪問しウィルス検査をするなど感染者の早期発見だけでなく、重症化を未然に防げる。AP通信によると、メデジン市とその周辺で130万世帯、325万人あまりがアプリに登録した。
地域住民の相互補助的な関係も機能しているという。前述の羽田野さんがこう話す。
「窓に赤い旗(タオルやシャツなど)などを掲げて、『食料が足りない』など地域で通じるサインを出し合っている。それを見た近隣の人がモノを届けたり、地域のつながりも力になっている」
危機に直面する中で、立場の弱い人が取り残されないよう、街ぐるみで最善が尽くされている。こうした取り組みの背景にあるのが、メデジンが苦しみ続けた暴力の問題だ。