紅海危機で中国の一帯一路戦略はどう転ぶのか
グローバルサプライチェーンの再構築で明らかになる真の勝者とは

  • 2024/1/10

 世界が新たな危機に見舞われている。2023年12月半ばに顕在化した紅海危機だ。ハマスとイスラエルの戦争に呼応し、イエメンの反政府武装組織フーシ派が、紅海を航行してイスラエルへ向かうと見られる船舶への攻撃を繰り返している。世界の大手海運企業は軒並み紅海ルートの運航を見合わせており、迂回に伴う海運費用の高騰によって深刻なインフレが起きている。

 紅海危機が欧州経済に与える影響は甚大だが、気になるのは、ロシアやイランと親密な中国への影響だ。中国海運企業の株の高騰や、中国と欧州を結ぶ直通列車(中欧班列)への依存度の拡大から、紅海危機は中国にとって好機だという見方もある一方、中国の製造現場と欧州市場が寸断された影響も過小評価すべきではないという指摘もある。中央アジアや中東一帯は、中国にとって「一帯一路」戦略上の要衝の地である。紅海危機は、近年、資金ショートや「債務の罠」問題が次々と顕在化していた一帯一路にとって、復活の好機なのか、はたまた息の根を止める危機なのか。

日本郵船が運航していた貨物船を紅海で拿捕し、コックピットのドアを開けるフーシ派の戦闘員(2023年11月20日撮影)提供:Houthi Military Media/ロイター/アフロ

フーシ派により相次ぐ船舶への攻撃

 紅海危機は、2023年12月中旬から下旬にかけて紅海を航行中のタンカー「MTスワン・アトランティック」とコンテナ船「MSCクララ」が相次いで攻撃されたことで表面化した。超大国の支援を受けていない途上国のゲリラ組織が、たかだか数発のミサイルを搭載した模造ドローンで行った攻撃により、世界の総エネルギーの五分の一の輸送に使われているルートが断たれてしまったのだ。フーシ派側は、イスラエルと関係のない船舶は攻撃対象から除外していると主張しているが、危機管理上、ほとんどの海運企業は紅海の運航を見合わせている。特に、アジアと欧州を結ぶ物資の運搬は、喜望峰を大きく迂回せざるを得ず、所要日数も燃料費も膨れ上がっている。

 紅海ルートが封鎖されると、アジアから欧州への輸送はアフリカの喜望峰を迂回する必要があり、7000海里(約1万3000km)以上の遠回りを強いられ、膨大な燃料と時間がかかる。また、大型貨物船は、出発地から目的地まで直接、荷物を輸送しているわけではなく、あらかじめ定められた航路を航行し、多くの場所に寄港して荷揚げと荷下ろしを繰り返しながら、コストを分散させ、利益が出るようにルートを組んでいるため、航路を柔軟かつ迅速に変更することが難しく、国際物流は大混乱に陥った。特に、ロシアのウクライナ侵攻によって大きな打撃を受けていた欧州経済にとって、今回の紅海危機はダブルパンチとなった。

イランとの良好な関係で状況を有利に

 他方、中国にとって今回の紅海危機は好機だという論評が少なからず見られる。たとえば、中国の国有海運最大手である中国遠洋海運(COSCO)の船舶は、他の国際大手海運が紅海ルートを取りやめた後も、一部、紅海ルートを航行し続けていた。背景には、中国はイランとの関係が良好であるため、イランを後ろ盾にするフーシ派の目が節穴でない限り、中国船は攻撃してこないはずだという見立てがあったらしい。

中国遠洋海運(COSCO)のロゴの前で撮影された貨物船の模型(2022年3月3日撮影) (c) ロイター/アフロ

 中国の王毅外相は2023年12月11日、二度にわたってイランのフセイン・アミール・アブドラヒアン外相と電話会談を行った後、15日にもサウジアラビアのサウード・ムハンマド・アル・サーティー外務次官とともに、イランのアリ・バガエリ外務次官と北京で会談している。長年、断交してきた外交関係を中国の仲介によって2023年3月に正常化したイランとサウジアラビアの関係は持続している。中国は、環球時報の元主筆である胡錫進氏が「フーシ派は、中国船を誤爆しないようしっかり目を見開いてほしい」とSNS上に冗談を投稿するぐらいには、イランの影響力を信じているようだ。

 もっとも、COSCOの定期貨物船の乗組員によれば、紅海のアカバ湾周辺でGPS信号がなくなり船員たちが動揺したことがあったという。別の船舶は、イエメンからラジオで最寄りの港にただちに寄港するよう求められるなど、緊迫した場面もあったようだ。これらの船は、自動識別システムをオフにし、無線にも応答せず全速力でこの海域を通過したという。

 このほか、喜望峰ルートに振り替える積み荷の量が増えることで中国が有利になるという見方もある。もともとCOSCOをはじめ、中国の海運企業はアフリカ西海岸と盛んに交易しており、多くの船舶が喜望峰ルートを航行していたため、紅海ルートから急きょ、喜望峰迂回ルートに組み直しを強いられている欧州企業よりもコスト面で圧倒的に有利だという。

 さらに、中ロが協力して開発を進めている北方航路への期待も高まっている。この航路は、実現すれば欧州とアジアを結ぶ最短航路となり、ロシア側は2030年までに1.1億トンの貨物を輸送することを計画している。紅海の不確実性が高まれば高まるほど、北方航路の開発が急ピッチで進められることは間違いない。

好調な中国の海運株と列車需要

 こうした見立てもあってか、中国の海運株が2023年末から急上昇を続けている。中国の株式市場では、2024年の市場開始日にあたる1月4日、海運指数が1.41%上昇した。この海運ボードを構成しているのは、寧波遠洋、国航遠洋、渤海クルーズなどの企業だ。中国初の海運先物商品であるコンテナ輸送指数(集運指数、欧州線)先物相場の主契約EC2404は2650.0ポイントと過去最高を更新し、終値は2446.4ポイントと、5.17%上昇した。喫緊の12日間の交易日の間に9回のストップ高を記録し、トータルで194.71%上昇している。

 また、今回の紅海危機によって、ドバイ向けの欧米高級ブランド品が市場に輸送できず、急遽、中国大陸の市場に振り分けられ、中国市場の国際的地位が押し上げられた、という評価もある。習近平政権下で経済が低迷しているとはいえ、中国は米国に次いで大富豪が多く、ハイブランドの消費ポテンシャルがまだまだあることを印象付けることになったのだ。

鄭州・普天付近を走る中欧班列 (c) Windmemories/wikimediacommons

 さらに、海運の不確実性が高まるにつれ、中国と欧州を結ぶ直通列車「中欧班列」の需要が急速に拡大している。紅海危機の前後で、中欧班列への問い合わせがほぼ倍増しているという。特に、ドバイなどが主な消費地である高級品の輸送は、輸送価格が高くても輸送時間が短縮できる中欧班列の利用が増加している。これは、事実上停滞していた一帯一路戦略にとって、一種のカンフル剤となる可能性がある。上海易浦サプライチェーン管理有限公司の創始者である譚光明氏は、中国メディアの取材に答え、今後数カ月の間に中欧班列の事業がかなり成長を遂げるだろうとの見通しを示した。実際、紅海危機以前に比べ、輸送価格はすでに10~15%上昇しているという。

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