中国が第14次五カ年計画を発表
「一帯一路ハイクオリティ発展」の意味と野望を読み解く

  • 2021/3/21

 中国の全国人民代表大会(全人代)は3月、「第14次五カ年計画と2035年までの長期目標の要綱」を正式採択し、新華社を通じて発表した。全文6万2000字あまり、19編65章から成る。日本や国際社会が特に関心を寄せる一帯一路の建設に第41章がまるまる割かれ、「一帯一路高質量(ハイクオリティ)発展」の共同建設推進という表現に改められた上で、ハイレベルでの対外開放政策とwin-winの協力の新局面を切り開く計画を推進する重要な政策として打ち出された。この「ハイクオリティ」とは、何を意味しているのだろうか。

中国は第14次五カ年計画で新たに一帯一路の「ハイクオリティ発展」を打ち出した (c) 代表撮影/ロイター/アフロ

目を引く「連携」の多用

 中国の一帯一路建設に向けた政策は、この2~3年ほどの間に「中華式植民地主義」という非難を受けた。また、資金ショートで挫折しかかっているプロジェクトも少なくない。一時期、習近平の公式の演説の中から一帯一路に関する言及が極端に減ったことから、「一帯一路をやみくもに推進すべきではないという慎重論が中国政府内にも出ているのではないか」と憶測する声もあった。

 そんな一帯一路建設が第14次五カ年計画で「一帯一路高質量(ハイクオリティ)発展」と改められ、大きく打ち出されたことをどう見ればよいか。第41章を基に整理してみよう。

 まず気が付くのは、この章全体を通じて「連携」という言葉の多用だ。「戦略とルール、メカニズムを連携させ、関係国との間で政策やルール、基準を連携する」をはじめ、「イノベーション戦略を連携するためには、調印文書に基づき効率的に進め、多国間投資保護協定を推進すると同時に、二重課税協定を避け、関税や税収の管理に向けた協力を強化し、ハイレベルでの通関の一本化を推進する」、「融資、防疫、エネルギー、デジタル情報、農業など、分野ごとにルールを定めて連携協力する」、「一帯一路イニシアチブの共同建設と、地域および国際開発のプロセスを効果的に連携し、相乗効果を生み出す」といった具合だ。

 この背景には、途上国で一帯一路建設を推進することに対し、国際社会から植民地政策だと非難されたり、現地市民の反感を買い抵抗運動が起きたりしている状況を改善しようとしている表れだと言えよう。

中国の一帯一路建設計画は、ここ2~年、「中華式植民地主義」との批判を浴びた© Derek Lee / Unsplash

 また、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)や中欧投資協定のような多国間の通商協定の枠組みに一帯一路建設をリンクさせることによって、中国が一方的に推進しているという印象を薄めたい狙いもうかがえる。

立体的なインフラ建設構想

 また、第二節の「インフラ建設の相互連携」では、中国版GPS「北斗衛星システム」による地理空間情報ネットワークをインフラ建設に活用し、立体的にリンクさせる方針が打ち出されている。

 たとえば、「陸海天ネット四位一体」(陸路、海路、衛星、およびインターネット)と、「六廊六路多国多港」(6大国際経済回廊、6つの交通・通信網ルート、複数の国・港)という基本的な枠組みのもとで、ユーラシア大陸を横断して中国と欧州を結ぶ鉄道コンテナ定期輸送「ユーラシアランドブリッジ(大陸橋)」の構築を推進。さらに、中国と欧州や一帯一路の沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」や、陸海新直通チャネル、情報高速道路の整備を掲げ、鉄道や港湾、パイプラインネットワークなどを相互に接続して、国際陸海貿易新ルートを構築するといった具合だ。

第14次五カ年計画では、インフラ整備にGPSやデジタルインフラを活用する方針も打ち出された© Oskar Kadaksoo /Unsplash

 具体的には、「カギを握る交通インフラや都市に焦点をあて、リスクを低減しつつ高品質で持続可能、合理的な価格で重要プロジェクトを順番に推進していくこと」、「中欧班列の質を高め、国際陸運貿易のルールを策定すること、シルクロード海運ブランドの影響力を拡大すること」、「福建省と新疆を一帯一路の核心地域に据えること」、「一帯一路建設の一環として空間情報技術回廊を推進すること」、「空中シルクロードを建設すること」などが挙げられている。

 一帯一路のインフラ建設構想は、大風呂敷を広げすぎるあまり、実際には世界各地で資金ショートを起こしている。これを踏まえ、プロジェクトに優先順位をつけてカギとなる都市や交通インフラプロジェクトから着手することを確認した、と言えるだろう。

優先順位付けと国内投資

 その優先順位だが、中欧班列の改良と、福建省を基点とする海のシルクロードを通じた海運の整備が上位に挙げられているのは注目される。これは、これまで海外に持ち出していた一帯一路建設の投資資金を、まず、中国国内の福建省や新疆ウイグル自治区に集中投下することに方針を転換した、と理解して良いだろう。

 ここで中欧直通鉄道が名指しでクローズアップされているのは、中国の数あるプロジェクトのなかで、一番わかりやすく成果がでているためだと考えられる。

 中欧班列は2011年3月、重慶とドイツのデュイスブルクの間で運行が開始された。黒竜江省や新疆ウイグル自治区、内モンゴルの通関を経由して中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車であり、一帯一路建設構想上、主要な陸路輸送である。開通当初は、海運輸送に比べて一度に輸送できる貨物量が少ないためコストが高くつき、時間もかかるとして利用者から非常に不評だったが、政府指導の形で強引に利用を促すことで発展を遂げた。

コンテナ貨物を運ぶ「中央班列」 © ロイター/アフロ

 国営鉄道会社である中国国家鉄路集団の発表によると、2020年の1年間に前年比50%増の1万2,400本を運行し、貨物輸送量は前年比56%増の113万5,000TEU(20フィートコンテナ換算値)に上ったという。運行本数が年間一万本を超えたのは初めてで、貨物の搭載率も往路と復路を合わせて98.4%に達した。

 この背景には、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて航空輸送も海上輸送も打撃を受けた一方、欧州向け防疫グッズ輸出が急増したことが指摘されている。緊急物資を輸送する上で、リードタイムが短く、低コストで大量に輸送できる鉄道輸送の強みが再認識されたと言えよう。

 この中欧班列は、深圳や厦門ともつながっており、海上輸送ともリンクしている。今後、例えば欧州の商品を日本や韓国に輸送しようとした場合、海上輸送なら45日かかるところ、中国を突っ切るこの陸海複合ルートを利用すれば22日ですむ計算だ。時間が短縮され、しかも低コストであれば、利用する国は増えていくだろう。米国勢が進める中国デカップリングや包囲網政策への対抗策として新たな物流網の構築を整備してきた中国は、投資が無駄ではなかったと実感しているに違いない。

固定ページ:

1

2

関連記事

ランキング

  1. (c) 米屋こうじ バングラデシュの首都ダッカ郊外の街で迷い込んだ市場の風景。明るいライトで照…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  4.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  5.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…

ピックアップ記事

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  フィリピン中部、ボホール島。自然豊かなリゾート地として注目を集めるこの島に、『バビタの家』という看…
ページ上部へ戻る