ラテンアメリカの「今」を届ける 第1回
生まれ変わった「麻薬都市」メデジンが、新型コロナを抑止する

  • 2020/7/6

「暴力の街」から脱却し、「スマートシティ」へ

公園が整備されたメデジン市街地(筆者撮影)

 1980年代以降、メデジンは麻薬マフィアの暴力に飲み込まれ、1991年には殺人率が世界一となり、最も危険な都市として名を馳せた。その要因となったのが極端な格差社会による貧困だ。

 紛争が続く国内各地からの避難民や、職を求める農村からの人口が流入し、市街地を囲む山の斜面がスラム化した。街は整備されず、社会参加の機会を逸した若者たちをマフィアがメンバーとして吸収し、拡大した。1990年代、政府は大規模な軍事作戦を展開し、違法組織の一掃を図った。その過程で無関係の市民にも多くの死者がでた。メデジンは、こうした苦しい経験を乗り越えるため、誰もが社会参加できる新たな街づくりへと舵を切ったのだ。

 街を作り直すためには貧困問題を解決しなければならない。街の設計から考え直した。メデジンは1990年代中期、世界に先駆け、先端技術を有効利用した持続可能な都市設計である「スマートシティ」を目指した。メデジンの特色は、それが低所得者層の生活改善に焦点を当てたことだという。

 かつてマフィアが支配した丘陵地域に、学校や図書館、医療施設を建設し、交通網を整備した。以前は道路の未整備により、仕事がある街の中心部まで2時間以上の移動時間を要した。この問題を解消するため、丘陵地域と市街地をロープウェーで結び、20分での移動を可能にしたのだ。これにより2012年、国際NPOによる「持続可能な交通賞」を受賞した。また場所によっては、斜面にエスカレーターも取り付けた。また、市内を囲むように、総計数百キロに及ぶ歩道・自転車道を整備し、生活向上と治安回復に務めた。

5つの路線を持つまでに拡大されたケーブルカー(筆者撮影)

 日本貿易振興機構(JETRO)によると、コロンビアで唯一、科学技術とイノベーションを市の公共政策に掲げているのがメデジンだ。2009年には、イノベーション特区として「RutaN」を設立し、若手起業家の育成・支援に力を入れる。2019年には、世界経済フォーラム(WEF)による第4次産業革命の研究・推進拠点「第4次産業革命センター」が建設された。これは世界で5番目、中南米で初となる。

 さまざまな価格帯のスマートフォンが普及し、大部分の住民が手にするようになった。wifiのない地域に公共wifiゾーンを150カ所設置し、無料で受講できるインターネット教育センターも48カ所開設した。

街中に設置された無料wifiゾーン(筆者撮影)

 こうした一貫した街づくりは、2000年以降、市長が変わっても引き継がれている。現在のダニエル・キンテロ市長は、歴代最年少の39歳。24歳でソフトウェア開発会社を設立し、その後、政府のデジタル経済担当副大臣を務めた人物だ。

 新しい街づくりの成果は、着実に実を結んでいる。殺人は1993年の20分の1に下落し、貧困層の3分の2が貧困状態を脱した。

問題点と今後の行方

 コロナ感染抑止の一躍を担うスマートフォンアプリ「Mdellin Me Cuida」だが、集められた詳細な個人情報の取り扱いに不安を持つ市民も少なくない。地元紙「El Mundo」は、ある犯罪が、アプリに登録した個人情報漏洩によって起きた可能性があると伝えている。市民の疑念に対して市は、情報管理の安全性を強調しているものの、「コロナ後」の情報の扱いとともに懸念は残る。

 問題はあるが、貧困層の生活改善に着目し、先端技術を有効活用した街づくりを進めてきたメデジンは、現在の世界的危機にどう対応すべきかという一例を示している。また、街づくりの根幹である、社会的弱者を切り捨てないということが、社会全体の安全確保につながってるのは注目に値する。

 

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