エネルギー危機と気候変動によって変わるドイツの産業地図
成長する北部と東部、転換を求められる南部

  • 2022/10/18

 16の州から成る連邦制をとるドイツには地域ごとに独自の歴史と文化があり、異なる行政体の下でそれぞれ発展を遂げてきた。しかし、昨今のエネルギー危機と気候変動によって、これまでの産業構造に変化が起きている。

ミュンヘンで開催される有名なビール祭り、オクトーバーフェストの様子 (c) Brett Sayles / Pexels

石油燃料への依存が高かった南部

 南ドイツのミュンヘンで、有名なビール祭りのオクトーバーフェストが9月17日から10月3日まで開かれた。新型コロナのパンデミックの影響で一昨年と昨年は中止されたため、3年ぶりの待ちに待った開催となった。エネルギー危機で多くの企業の存続が危ぶまれ、インフレで人々の暮らしも厳しくなるなかの大型イベントには批判もあったが、ミュンヘンを擁するバイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相が「人生には楽しみが必要だ!」と発言し、開催に踏み切った。

バイエルン料理の一つ、シュバインハクセ(豚のすね肉)。バイエルン州は多様な豚肉料理で有名で、肉の消費量も全国平均を上回る (c) Sofia Lyu / Unsplash

 さらに、高級車メーカーBMWの本拠地として知られる同州最大都市ミュンヘンには、近年、グーグルやセールスフォースなどのテック系企業が次々と拠点を構えている。シーメンスやアウディなど、ドイツを代表する大企業もこの地で操業しており、産業力が強いことから人々の平均収入も高い。

 しかし、膨大な電力需要を石炭や天然ガスによる発電に依存してきた南部の産業界は、昨今の化石燃料の供給不足と価格の高騰を受けて危機に直面しており、ドイツ経済の牽引役としての地位が揺らぎつつある。

北部は風力発電で地位が向上

 それに対し、北ドイツは再生可能エネルギーが豊富で、優位性が高まっている。北部は、企業が集まるハンブルグやハノーバーなど一部の大都市を除き、平均所得が南部より低く、質実剛健な印象だ。
 地形が平坦で冬の寒さが厳しいこの地域では、北海から吹き付ける風を利用した風力発電が盛んだ。海に面する3つの州の風力発電量は、全国の半分を占め、今後も洋上風力発電所の建設が相次いで計画されている。なお、風力発電の重要性は高く、洋上と陸上を合わせた風力によって、2022年9月現在、ドイツの電力の24%が発電されており、今後もその割合は高まるだろう。

ドイツ北部に設置された風力発電用のタービン (c) Waldemar Brandt / Unsplash

 近年、そんな北部に豊富な電力を求めて投資が集まりつつある。スウェーデンのノースボルト社は2022年3月、ドイツ北海沿岸にバッテリー工場を建設する計画を発表した。別のベルギー企業も、北西部に水素工場を建設することを検討している。ドイツで唯一、北部に拠点を置く自動車メーカーのフォルクスワーゲンも、北西部のニーダーザクセン州に電気自動車用のバッテリー工場を新設した。

 エネルギー危機によって再生可能エネルギーの増産がさらに求められるなか、北ドイツの優位性は、今後さらに高まるだろう。

エネルギー不足に直面する南部の焦り

 その一方で、電力不足に直面する南ドイツでは、風力発電量が非常に少ない。アルプスの美しい自然を誇る南部のバイエルン州で、設置に反対する声が特に大きいのだ。風力発電の巨大タービンは高さが200メートルあり、景観悪化と生態系への悪影響が懸念されている。

 北部から南部に電力を送る高圧送電線の建設も、根強い反対運動にあい、計画は頓挫したままだ。南部でも多くの太陽光パネルを設置し、豊富な森林を活用してバイオマス発電にも取り組むが、その発電量は必要量に比べればわずかだ。

 南ドイツが、ロシアから輸入する安価な天然ガスや、原発の廃止決定後に増えた褐炭や石炭による発電に依存してきたのは、そのためだ。ガスの供給不足と価格高騰を受け、この冬にはエネルギーが不足する可能性もある。

 だからこそ、バイエルンのゼーダー州首相は、2022年末で廃止予定だった3つの原子力発電所の運転継続を求めてきた。激しい議論が国中で展開された結果、南部に残る2つの原発は、少なくとも2023年4月まで稼働されることが決まった。

 また、ゼーダー州首相は、北部の政治家にもプレッシャーをかけてきた。ウクライナに侵攻したロシアから気体状のガスを輸入できなくなったドイツは、別地域から液体状のLNGガスの輸入を増やすために、北部沿岸のメクレンブルク・フォアポンメルン州で専用の港湾とLNGターミナルの整備を急ピッチで進めている。ゼーダー州首相は、同州に対して建設のさらなる加速を要請し、そのためにバイエルン州職員のサービスを提供するとまで訴えたのだ。

 さらに、8月末には北西部のニーダーザクセン州に埋蔵されているシェールガスの採掘を進めるべきだと発言し、波紋を呼んだ。これには同州のシュテファン・ヴァイル知事が反発し、「ゼーダー州首相、風力発電をついにバイエルン州に設置してはいかがでしょう?」と、皮肉たっぷりのツイートを返している。

 この背景には、採掘作業に伴う環境負荷が甚大であることが挙げられる。長年にわたりガスを採掘してきた隣国オランダのフローニンゲンでは地盤が弱まり、多くの地震に見舞われて大量の家屋が損傷した。そのためドイツでは規制が非常に厳しく、採掘はほぼ不可能だ。予測される採掘量では需要にも見合わないという。

 圧力をかける南部には、最北のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州出身で、環境政党である緑の党に所属するロバート・ハーベック連邦経済・気候保護大臣も、「南東地域は再生可能エネルギー資源の多様化に失敗し、太陽光エネルギーに集中しすぎた」と、苦言を呈した。太陽光は、冬期や夜間に発電できないため、風力発電より不利なのだ。

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