エネルギー危機と気候変動によって変わるドイツの産業地図
成長する北部と東部、転換を求められる南部

  • 2022/10/18

低開発地域だった東部に相次ぐ投資

 また、オクトーバーフェストが閉幕した10月3日は、奇しくも東西ドイツの統一記念日だった。旧東ドイツ地域は、統一後に共産主義時代体制が崩壊し、長い間、「失業率が高くて収入も低い、遅れた地域」とみなされてきた。しかし、近年はこの地に投資が集まり、注目が高まっている。

ドイツは16の連邦州(3つの独立行政市を含む)から成る連邦国家だ (c) OnTheWorldMap.com

 2019年には、東部ザクセン州ツヴィッカウの工場に、フォルクスワーゲンが初の電気自動車(EV)専用生産ラインを開設した。共産主義時代に「トラバント」という自動車が製造されていた工場だ。同じ州内のドレスデン工場と併せ、ドイツ産のEVは、半分以上がザクセン州で生産されてきた。

 同年末には、米テスラ・モーターズが、ベルリンからそれほど遠くない北東部のブランデンブルグ州に巨大EV工場の建設計画を発表し、2022年3月に稼働が開始された。

テスラ・モーターズはヨーロッパでもEVの販売台数を順調に増やしている (c) Tesla Fans Schweiz / Unsplash

 2021年には、カナダのロックテック・リチウム社が、同州グーベンにヨーロッパ初のEVに必要なリチウムバッテリーの主要部品を生産する工場を建設することを決定した。年間2万4000トン、自動車50万台分が生産される予定だという。

 東部への大型投資は、これだけではない。米インテルは2022年3月、ベルリン西部に位置するザクセン・アンハルト州マクデブルグに半導体工場を少なくとも2つ建設すると発表した。ドイツ史上最大の海外直接投資になる。

 これらの動きを受けて多くの関連企業も東部に進出し、産業が集積しつつある。今後は、リチウムの加工からバッテリー、半導体の生産、電気自動車の製造まで東部で行われるようになり、ヨーロッパにおける重要なEV生産拠点になると期待されている。

 東部にこれほど産業が集まるのは、自由に使える広大な土地があり、再生可能エネルギーが豊富で、工業地帯としての伝統があるためだ。

 実際、テスラの工場は300ヘクタール、インテルの工場も450ヘクタールと広大だ。また、ブランデンブルク州は、人口1人当たりの風力や太陽光、バイオマスによる発電量が非常に高い。全電力消費量における再生可能エネルギーの割合は、全国平均の46%に対して、同州では94%に上る。さらに、この地域にはかつての国営企業の工場跡地や施設が今も残り、比較的スキルの高い人材も多い。

 東部に進出する企業の動きを、国も補助金を通じて後押しする。ドイツ政府は、半導体工場を建設するインテルに対し、2024年までに68億ユーロ(約9650億円)の財政支援を行うことを約束した。また、パンデミック以降強まった、半導体やクラウドなどの重要な工業製品をEU域内で生産しようという動きにも後押しされた。

自動車業界の転換がもたらす変化

 こうした東部の躍進は、従来通りエンジン車の生産を続けている南部とは対照的だ。南部では、ボッシュやコンチネンタルといった自動車産業の伝統的サプライヤーが人員削減を発表し、業界全体では3年間に10万人以上の雇用削減が発表されている。

 EU域内では、2035年以降のディーゼル車とガソリン車などの新車販売禁止がすでに決議されている。これによって、数十万人の雇用が失われると言われている。エンジン車とEVでは構造も大きく異なり、求められる部品や開発人材も異なってくるのだ。

 しかし、東部にも問題がないわけではない。経済が低迷し、人口も少ない東部では、高齢化によって労働者人口が急速に減少しつつある。労働者がいなければ産業は育たないが、東部は排他的で外国人を嫌うことで知られており、国外からの労働者の受け入れがうまく進まない可能性もある。

 南部の優位性が今すぐ失われて東部が優位になるというわけではないだろう。しかし、電力供給という条件や産業の構造変化によって、ドイツの産業地図は、今後、長い時間をかけて変わっていくことになるかもしれない。

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