アフガニスタンからの避難民流入を警戒する欧州
いまだ消えないシリア難民受け入れのトラウマ
- 2021/8/30
8月15日のカブール陥落以来、混乱の続くアフガニスタン。アフガニスタンに派兵していた国々を中心に、自国民や、雇用していた現地職員とその家族らの救出が急いで行われた。空路で救出した人々は、今後、難民として受け入れられる予定だが、その一方で、欧州諸国はアフガニスタン難民の流入を恐れているという。
作戦終了までに5500人以上を救出したドイツ
欧米諸国を中心としたアフガニスタンからの各国の救出作戦も、8月31日の米国の空港防衛期限を前に、順次、終了している。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国としてアフガニスタンに20年間派兵していたドイツは、カブールが陥落する前から、連邦軍兵士の暫時引き上げに合わせて、通訳などの現地職員とその家族1900人をドイツに順次、輸送してきた。タリバンから報復を受ける可能性が高い彼らの受け入れをいち早く開始していたのだ。
しかし、予想より早くカブールが陥落したことで、アフガニスタンに残るドイツ人や大勢の関係者をさらに迅速に救出することが必要になった。それまではアフガニスタンから誰を受け入れるべきか明確な合意がないままだったが、メルケル首相は8月16日、現在および過去にドイツ軍や政府機関のために働いたり、プロジェクトに従事したりしたサポートスタッフ2500人とその家族を中心に、1万人まで受け入れると表明。ジャーナリストや人権活動家など、タリバン支配によって危険にさらされる人々を含め、決死の救出が続けられた。
その後、ドイツ紙「南ドイツ新聞」は、ドイツが8月26日の作戦終了までに4000人以上のアフガニスタン人を含む5500人以上を出国させたと報じた。しかし、実際のところ、救出リストには1万人以上が名を連ねていたという。今後は、陸路で国境を超えた人が隣国の大使館などで手続きをしたり、民間機などの輸送でドイツに入国したりした場合、そのリストの人々を受け入れることになっている。
カブールの陥落を予想できず、救出が遅れたことに対し、ドイツ市民からは防衛大臣や外務大臣の責任を問う声が上がっている。
不特定多数の受け入れには消極的
そんなドイツでは8月16日、ゼーホーファー内務大臣が連邦議会の委員会で「タリバンの支配によって、アフガニスタンから30万人から500万人規模の人々が逃れようとする可能性がある」と述べた。
実際、EU各国のリーダーたちは、アフガニスタンからの難民が再びヨーロッパに押し寄せることを非常に恐れている。英通信「ロイター」によると、EU加盟国で難民申請するアフガニスタン人は、2015年以降、57万人に上っており、2番目に大きい難民申請者の出自国として域内での存在感が大きくなっていた。
そのためか、ドイツを含むEU 6カ国の大臣は8月5日、庇護を求めるアフガニスタンの人々が難民認定されなかった場合、強制送還を継続することを支持する書簡をEU委員会に提出していた。その時点で、アフガニスタンでタリバンの侵攻がすでに進んでいたが、政情悪化を理由に強制送還を停止すれば、誰もがEUに受け入れられるという間違ったシグナルを出すことになりかねないと懸念していたのだ。
実際には、その直後、アフガニスタンの支配がタリバンの手に渡ったことを受けて多くの国が強制送還を中止しているが、その一方で各国の政治家は「2015年と同じことは繰り返さない」と強調している。
ここでいう「2015年」とは、シリアで戦況が悪化したことによって、100万人以上の人々がシリアからヨーロッパに押し寄せたことを指す。当時、ドイツをはじめ、各国が難民を受け入れたことから、反移民の極右政党が支持を集めるという事態が起きた。
また、当時、ハンガリーは難民受け入れを拒否してフェンスを築くなど、EU諸国の中でも対立は大きかった。イギリスでEUからの脱退(Brexit)が国民投票で可決された背景にも難民の大量流入の影響があったとの指摘もある。当時、欧州に流入した人々のうち、6万人は今なおギリシアにおり、難民キャンプで暮らす人も少なくないが、各国への受け入れは進んでいない。
また、大量の難民を受け入れたドイツでは、受け入れを決定したメルケル首相が国内外から批判を受けるとともに、同氏が党首を務めていたキリスト教民主連盟(CDU)も支持を落とし、2017年の総選挙では反移民を掲げる極右政党のドイツのための選択肢(AfD)が躍進して連邦議会入りした。ドイツでは今年9月末にも総選挙が予定されているため、各党とも今は移民政策に関して思い切った施策を取りにくいという事情もある。
そのため、EUはシリア難民のこれ以上の流入を防ぐため、300万人のシリア難民を抱えるトルコに2016年から累計60億ユーロ(約7775億400万円)を支払う代わりに、シリア難民の保護を同国に一任してきた。
また、トルコから国境を越えてギリシアに流入することを防ぐため、トルコとギリシアの国境には40kmに渡って高さ5メートルの警報付きの壁が築かれ、監視カメラも設置されている。
EUまで来る前の支援を強化
こうした状況を受け、メルケル首相は「EUはアフガニスタンの近隣諸国に可能な限り支援することを優先すべきだ」と述べている。近隣諸国はすでに膨大な数のアフガン難民を抱えており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、パキスタン国内には約140万人、イランには78万人、そしてトルコには50万人のアフガン難民がいると推定されている。
今後、アフガニスタンの状況がより不安定化した場合、国外に逃げようとする人々はさらに増えるだろう。実際、英紙「ガーディアン」の報道によると、カブール陥落後、パキスタンとの国境沿いには日に約10万人が押し寄せ、1万5000人~2万人が国境を超えているという。
このように、EU各国は、自国のミッションに従事した現地職員やその家族、人権活動家などの高いリスクにさらされる人々を一定数受け入れることを表明する一方で、不特定多数の人々を自国では進んでは受け入れない指針を明確にしている。
そんななか、悲劇も起きている。EUを目指してやってきたアフガニスタン人24人が、ベラルーシとEU加盟国であるポーランドの国境で立ち往生し、困窮しているのだ。国境地帯の森林に取り残された人々は、ポーランドの保護を求めている。
ポーランドはもともと難民の受け入れに消極的であり、ベラルーシが難民条約に基づいて受け入れるべきだと主張。有刺鉄線のフェンスを設置し始めている。
一方、ルカシェンコ大統領による独裁の続くベラルーシは、自国に流入した難民申請希望者をわざと近隣のEU加盟国との国境に住まわせることで、EUに制裁をやめさせるための取引材料にしていると非難されてきた。
ベラルーシとの間で難民問題が政治化したこともあり、解決は難しくなっている。ポーランド国内からも、食料を届けようとする人や医師、弁護士らも支援しようと近づいているが、警備隊や政府は拒否していると報道されている。
これに対し、UNHCRポーランドは「ポーランド政府が難民申請希望者にシェルターと食料、医療支援を提供すべきだ」と声明を出している。