ラテンアメリカの今を届ける 第8回
「独裁体制への転換が完成」したニカラグアを読む

  • 2023/9/4

 「茶番である」(米政府)、「自由でも公正でもなく透明性に欠け、民主的正統性がない」(米州機構)、「投票権の自由かつ完全な行使を剥奪された状態で行われた選挙である」(スペイン政府)、そして「(現政権の)独裁体制への転換を完成させるものだ」(ジョセップ・ボレルEU外交政策上級代表)——。2021年11月に中米・ニカラグアで実施された大統領選挙に対し、西側諸国からは非難の声が相次いだ。この選挙で約76%の票を獲得し、4期連続5回目の当選を果たしたのは現職のダニエル・オルテガ大統領だ。同じ日に投開票された国会議員選挙でも、同氏が率いる与党・サンディニスタ民族解放戦線(以下、FSLN)が90議席中75議席を獲得した。かつて40年以上続いた独裁政権から国民を解放し、「革命の英雄」と呼ばれたオルテガ氏だが、その後は権力者の階段を上り続けており、2018年には反政府運動を厳しく弾圧。厳しい言論統制も敷いている。一度は自由を取り戻したかに思われたニカラグアは今、再び恐怖政治の中にある。

反政府抗議活動が全国へ拡大した2018年、大通り沿いに設置された大統領・副大統領夫妻のプロパガンダパネルが焼かれ、一部が剥ぎ取られた(2018年11月、筆者撮影)

政敵を徹底的に排除

 オルテガ大統領は2021年、政敵を事前に排除し、著しく公平性を欠く形で選挙に臨んだ。投票に先立ち、3つの野党の政党資格を剥奪したうえ、7人の野党大統領候補を含む30人以上の反体制派有力者を逮捕したのだ。

 根拠とされたのが、前年末から矢継ぎ早に制定・批准された4つの法案、すなわち「外国代理人規制法」(2020年10月)、「サイバー犯罪特別法」(2020年10月)、「平和のための独立・主権・自決の国民権利保護法(法律一〇五五号)」(2020年12月)、そして「ヘイトクライムに終身刑を設ける憲法改正案」(2021年1月)で、いずれも当初から恣意的な運用が危惧されていた。

 このうち、「外国代理人規制法」は、国外から資金提供を受ける活動を取り締まるためのもの。国外からの送金を受ける団体に、「外国代理人」として政府に登録し、毎月、使途を申告するよう義務付けることで、政府の意に反した活動をすることを事実上、禁じた。

 「サイバー犯罪特別法」は、公共の秩序を脅かすフェイクニュースが対象とされたが、独立系テレビ局「チャンネル10」のミシェル・ポランコ記者が米国CNNのインタビューで指摘した通り、何をもってフェイクニュースとするのかや、誰が判断するのかは明記されていない。

 また、「ヘイトクライム」への終身刑の適用についても、憲法改正案に反対票を投じた野党・立憲主義自由党のジミー・ブランドン・ルビオ氏が、「そもそもヘイトクライムとは何か、定義されていない」と批判している。

政敵を排除し迎えた大統領選当日は、盛り上がりを欠く中で1日が過ぎていった(2021年11月、筆者撮影)

 こうして行われた選挙について、最高選管は「投票率は65.23%に上る」と発表したが、民間の監視団体は「80%以上の市民が棄権し、投票率は20%を切っている」と指摘した。匿名を条件に取材に応じてくれた現地のジャーナリストは、「政府の息のかかった人物が支配する選管では、何が起きても不思議ではない」と話した。

 冒頭の通り、西側諸国からの批判も相次いだが、オルテガ氏の姿勢は強硬だった。2022年3月にはバチカン大使を追放し、翌月には米州機構からの脱退を表明。9月にはCNNの停波やEU大使の追放、オランダとの断交などを相次いで宣言し、自分たちに批判的な国や組織との関係はことごとく断つ行動に出た。その一方で、支持を表明するロシアやイラン、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどとは接近を図ったうえ、2021年12月には台湾と断交して中国と国交を再開。FTAの交渉を開始し、経済的な結び付きを強めている。

 43年間の独裁を終焉させた立役者

 オルテガ氏は、1979年の「ニカラグア革命」で中心的な役割を果たした人物である。43年間にわたり暴力で国民を支配し続けたソモサ一族から国民を解放したこの革命には、現与党のFSLNをはじめ、反ソモサという目的を共有する保守派も参加した。革命政府は、識字運動や医療の無償化、農地改革、女性の社会参加など、周縁化された人々のための政策を推し進めるとともに、死刑制度を廃止し、革命政府がソモサ派に対して暴力で復讐する機会を取り除いた。進歩的な取り組みに賛同する人々が革命を支えるために諸外国から参集し、国際社会からの注目も高かった。

大統領選翌日、イベントから退出する大統領夫妻に支持者が声援を送る(2021年11月、筆者撮影)

 ソモサ一族が富と権力を独占し、反対者に徹底的に暴力を振るっていた1945年に中部ラ・リベルタ市に住む労働者階級の家庭に生まれたオルテガ氏は、学生運動に身を投じて指導者として活躍するようになる。1967年にはソモサ打倒を掲げるFSLNに参加。7年間、獄中生活を経験した後、1974年に武装闘争に参加した。

 カリスマ的な指導者が多い党内で、「地味で目立たない存在」だったというオルテガ氏は、革命政権が樹立されると、党内の対立を利用しながら巧みに政敵を排除し、上り詰めていく。1981年に実質的な国家元首である国家再建執政委員会の議長に就任すると、1984年に革命後初の大統領選に出馬して初当選を果たし、翌1985年に大統領に就任した。

革命40周年集会で壇上に上がるオルテガ大統領(2019年7月、筆者撮影)

 この時期、ニカラグアは危機的状況にあった。革命政府は、米国の支援を受ける反革命派「コントラ」との内戦に突入していたためだ。1989年の停戦までに4万人が亡くなり、100万人以上が避難民となった。内戦の長期化と米国による経済封鎖によって国民が疲弊したことで、FSLNは翌年の選挙に敗北し、保守政権が樹立する。その後、オルテガ氏は3度にわたり出馬するも敗れ続けたが、保守政権の腐敗が顕著になった2006年の選挙に勝利し、政権に復帰した。とはいえ、得票率は38%と低かったため、オルテガ氏は脆弱な支持基盤を固めるために動き始めた。

政権復帰後から権力固めに邁進

 FSLNの権力基盤の一つに住民組織「CPC(市民権力委員会)」がある。現在は「家族・コミュニティ・生活事務局」と名を変えて、ムリージョ副大統領がトップを務めているが、もともと政権に復帰したオルテガ氏によって創設されたもので、現在も市民にはCPCと旧名で呼ばれることが多い。直接民主主義を掲げて全土に支部を置き、社会保障政策を行き届かせて保守政権時代には排除されていた市民を取り込み、彼らの声を国政に反映させて支持基盤を整えていった。

政府系テレビ局からは、日々、大統領夫人のムリージョ副大統領のメッセージが放送されている(2021年11月、筆者撮影)

 他方、CPCには住民を党に縛りつける機能もあった。低所得者向け融資や住宅補助などの社会福祉政策の対象者を選定することで、さじ加減次第で選定から漏れる可能性があると市民に思わせ、組織の意向を忖度するように仕向けた。

 また、CPCによって隣人同士が監視し合う社会が出来上がった。2021年に現地を訪れると、人々は「不信な人物が訪ねて来たり行動が怪しまれたりすれば、当局に密告されて捕まるのではないか」と恐れていた。オルテガ氏は市民の目に見える形で支援を配る一方、自由を奪い、飴と鞭を使い分けることによって社会の末端まで支配の網を張り巡らせ、権力を党に集中させてきたのだ。

 権力を再奪取したオルテガ氏は、メディアの支配も進めた。2010年、全国テレビ放送局「チャンネル8」を買収し、四男のフアン・カルロス氏を執行役員に就任させたほか、大手テレビ局8局を買収し、親近者や3人の実子にその運営を担わせた。他方、対抗メディアは徹底的に弾圧した。独立系テレビ局「100% ノティシア」は2018年に代表が逮捕され、放送停止に追い込まれた。全国紙の「ヌエボ ディアリオ」も記者が脅迫され、新聞印刷に必要な紙とインクが税関で差し止められて、同年9月に廃刊した。全国紙「ラ プレンサ」も2021年8月に本社が占拠されたうえ、編集長が資金洗浄の疑いで逮捕され、禁錮9年の判決が下された。

 2018年以降、オルテガ政権下でジャーナリストへの弾圧は、殺害を含めて1520件に上り、記者も11人収監されたという。120人以上が亡命し、新聞やテレビ、ラジオ局など、閉鎖されたメディアも53に上る。 

2018年に閉鎖させられた独立系メディア「100%ノティシア」の放送局は接収され政府機関のオフィスとなっていた(2021年11月、筆者撮影)

 大学や市民団体も、政府に批判的だとみなされれば軒並み閉鎖に追い込まれた。2018年から2023年11月までに3300団体以上のNGOが、また2021年12月からこれまでに19以上の大学が、それぞれ法人格を取り消され、民間企業再興審議会(COSEP)など19の企業団体も解散させられた。これらの中には反政府的な立場に立った大学や団体が多く含まれており、ニカラグアの人権団体「ニカラグア ヌンカ マス」は、「意見や立場を異にする人々に対して恣意的に権力を行使し、沈黙を強いている」と非難している。

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