ドイツで再燃する反ユダヤ主義とパレスチナ問題
ホロコーストという負の歴史ゆえの挑戦

  • 2021/6/15

5月中旬、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍の間で11日間に及ぶ戦闘が勃発したことを受け、世界各地でユダヤ人とアラブ人の対立が起きた。ドイツでも親パレスチナ系団体を中心に抗議デモが開かれ、ユダヤ人へのヘイトや暴力行為が大きな問題になった。しかし、ナチスという絶対的な悪の過去を抱えるドイツには、反ユダヤを絶対に許してはいけないという事情がある。

5月にベルリンで起きたパレスチナに連帯を示すデモの様子(c) Frankfurter Allgemeine / Youtube

語り継がれてきた過去の過ち

 アドルフ・ヒトラーおよび国家社会主義ドイツ労働者党が支配した1933年か1945年までの間、ドイツは国家的にユダヤ人を迫害し、ホロコーストによって殺害されたユダヤ人の数は600万人に上る。戦後、ドイツ政府はこの負の事実に徹底的に向き合い、同じ過ちを防ぐために自国の罪の歴史を国民に伝え、「二度と差別をしてはいけない」という教育を徹底して行ってきた。

 そのため、一般的にドイツ人には今もユダヤ人に対して自責の念があり、彼らを守らなければならないという意識がある。同時に、「ドイツは過去に罪を犯した意識から虐げられている者を保護すべきだと考えるからこそ、長年にわたって積極的に難民を受け入れてきた」と、ドイツ人ジャーナリストのアンドレアス・クルス氏は 、米メディア「ブルームバーグ」で論じている。

 しかし近年、難民や移民が急増し、人口の4人に1人以上が移民、もしくは移民の家庭出身者だと言われるまでになったことで、この歴史認識と価値観を全員が共有し続けることが難しくなっている。ドイツ以外の国々で教育を受けた人が増えているほか、パレスチナ問題からイスラエルに悪感情を抱くアラブ系人口や、反ユダヤを唱える極右勢力がヨーロッパ各地で増大する中、ドイツでも反ユダヤ主義的な動きが出てきている。

ハレで起きた襲撃事件から1年後、シナゴーグの前には犠牲者を悼む花がたむけられた(c) Datesa / Wikipedia Commons

 そして、ホロコーストを絶対に許さないという教育が行われてきたはずのドイツやヨーロッパ諸国で、2000年以降、反ユダヤ感情による事件が急増している。2019年10月には旧東ドイツ地域のハレ市で、極右の思想を持つ過激派ネオナチの白人の若者が、ユダヤ教の祝日の礼拝のためにユダヤ教徒が多く集まっていたシナゴーグ(会堂)の襲撃未遂事件を起こした。侵入できなかった犯人は、周囲にいた4人の一般人を自作の銃で撃ち、うち2人が死亡するという衝撃的な事件だった。
 ドイツ政府は、この事件が起きる前から国内で極右勢力による反ユダヤ主義が強まっていることを認め、対策を採り始めていたが、近年、ここまで急速に反ユダヤ主義が広まった背景にはインターネットの影響があると言われている。

移民政策の見直しを求める声の高まりも

 さらに最近、ドイツで特に問題視されているのが、イスラム系住民による活動の激化だ。冒頭で指摘した通り、イスラエルとパレスチナの間で紛争が発生した今年5月以降、米国やフランスをはじめ、各国でアラブ系住人とユダヤ系住人の対立が激化し、ここドイツでも親パレスチナ的なアラブ人を中心に反イスラエルを掲げる抗議運動が国内各地で起きた。
 特に、5月12日には西部ゲルゼンキルへンにあるシナゴーグの前で起きたデモ活動は、ユダヤ人を侮辱するもので、その様子を撮影したビデオがソーシャルメディアで拡散されると、ドイツ社会に強い衝撃が走った。

 さらに、シナゴーグへの投石が各地で相次いでいるほか、イスラエル国旗が燃やされたり、ホロコーストによる被害者の追悼碑が荒らされたりと、反ユダヤ的な暴力も見られた。これに対し、メルケル首相は「我々の民主主義において許される行為ではない」と強く非難。多くの公人もユダヤ人に対するヘイト行為は受け入れられないと糾弾している。現在、各地のシナゴーグには警察が配置され、警備を行っている状態だ。

 こうした抗議活動には、パレスチナ系住民にとどまらず、2015年にドイツにやってきたシリア難民や、トルコの極右グループ「灰色の狼」に共感するトルコ系住民が参加していたほか、難民申請者もいたと報道された。そのため、最近は、反ユダヤ的な暴力行為は、2015年以降にシリア出身者をはじめドイツに流入した大量の難民が原因だという発言が、政治家やTVキャスターらから相次いでいる。

 ドイツ左派政党である左翼党の西ドイツ・オスナブルック地域事務所は、「我々は反ユダヤ主義を輸入してしまった」と公式Facebookにポストし、ユダヤ人に対してヘイト行為を取るイスラム教徒はドイツにはいられない、と主張した。

 これを受け、ドイツでこれまで進められていた移民政策や統合政策の見直しを求める声も高まっている。南部バイエルン州のキリスト教社会同盟党の地域リーダーであるアレクサンダー・ドブリンド氏は、「反ユダヤ主義のヘイトクライムを行う移民難民は国外追放されるべきだ」と述べた

 ドイツに住むムスリムからも非難の声が上がっている。ドイツのイスラム教徒中央委員会を率いるアイマン・マジエック氏は、ゲルゼンキルヘンで起きた暴力的なデモについて自身のTwitterに「私はこのような行為を断固として非難します」と投稿し、「人種差別を非難しながら反ユダヤ主義のヘイト行為を広める者は、すべての権利を失うでしょう」と訴えた。

 ムスリム・アルハンブラ協会の創設者であるエレン・グヴェルシン氏も、国営放送「ドイチェ・ヴェレ」の取材に応え、「ドイツに住むイスラム教徒の間で反ユダヤ主義の機運が高まりつつある。特に、中東での暴力がエスカレートするとその傾向が強まる」ことを認めた。一方、同氏は「反ユダヤ主義はイスラム過激派組織のイデオロギーの一つであり、シナゴーグの前でユダヤ人を侮辱する者は平和に関心がなく、ハマスのような虚無的なテロ組織にロマンを抱く傾向がある」ことを指摘し、「破壊行動を受け入れるムスリムは決して受け入れられない」と主張している。

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