米中対決の舞台となった国連総会
国際秩序の再編成で中国式価値観は世界標準になるのか

  • 2021/9/29

 米中対立の先鋭化に伴い、国際社会の枠組みが大きく変わろうとしている。米英豪が事実上の軍事同盟であるAUKUSを創設したかと思えば、中国はCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への正式加盟を申請し、アジア太平洋を経済力で囲い込もうと画策する。また、米国がアフガニスタンから撤退し、戦略的重心を中東・中央アジアからインド太平洋にシフトした途端、イランを迎え入れた中国・ロシア主導の上海協力機構がすかさずアフガニスタンの和平プロセスへの積極的な協力を打ち出し、あたかも上海協力機構がNATOに代わる安全保障の枠組だと言わんばかりの態度を示した。次世代の国際社会でリーダーシップをとるのは、米国率いる開かれた自由主義の同盟国か、中国を中心とした権威主義国家グループか。せめぎ合いが各地各方面で一斉に始まった。

第75回国連総会で習近平・中国国家主席はビデオで一般討論演説を行った (c) AP/アフロ

リーダーシップ巡り互いにけん制
 これまで、まがりなりにも国際社会の中心で中立的な組織だと目されてきた国連ですら米中のせめぎ合いの舞台となっている。第76回国連総会では両国の対立が如実に表れた。
 バイデン米大統領は9月21日、一般討論演説で「アフガニスタンへの軍事介入を終わらせることで、“容赦ない外交”の時代の新章を開く」というメッセージを世界に発信。「アメリカが戦争をしていない状態にあるのは、実に20年ぶりだ。時代の新たなページがついにめくられた」「米軍がアフガンから撤退した後、米国は戦略的な重心をインド・太平洋地域に置く」とした上で、感慨にふけったように「米国は帰ってきた!米国は国際論壇に、そして国連に帰ってきたのだ」と述べた。
 これにぶつけるように、習近平・中国国家主席も同日、オンラインで国連総会に出席して演説を行った。
 習主席はまず、「最近の国際情勢の変遷によって改めて証明されたように、外部の軍事干渉や、いわゆる民主主義への改造は計り知れない弊害をもたらす」「我々は、平和、発展、公平、正義、民主、自由という、全人類の共同価値に力を入れて発揚していかねばならない」と述べ、西側諸国の民主主義を否定的に評価した。その上で、「世界は再び歴史の岐路に立っている。人類の平和や発展、進歩の潮流は、誰も阻むことはできない、と私は固く信じる。グローバルな脅威と挑戦に対応するために、自身を深め、共に手を取り合い、人類運命共同体の構築を推進し、さらに素晴らしい世界を共に建設しよう!」と呼びかけた。
 両者は、この総会で顔を合わせたわけでもなければ、互いを名指ししたわけでもなかったが、それでも互いをしっかりけん制し合っていた。それはあたかも「国連のリーダーシップは俺がとる!」と言わんばかりのつばぜり合いであり、時代が新たなステージに入ったことを各々が宣言することで、国連は今後、どんな秩序を信じ、どんな価値観を再確認するのかを問いかけるものでもあった。

「人間尊厳」と「人権」の原則の行方

 バイデン大統領の主張を、もう少し見てみよう。
 大統領は、まず民主主義について、「私は依然として民主体制を生まれ変わらせ、守っていく立場にある。多少の困難があろうとも、人民による統治、人民が享受する政府こそが最も有益な体制であることを証明しなければならない」と、高らかに語った。

ジョー・バイデン米大統領も第76回国連総会で一般討論演説を行った (2021年9月21日)(c) 代表撮影/ロイター/アフロ 

 そのうえで、「私たちは、70年前に各国が共同で国連を建設した際に共有した“人間の尊厳”と“人権”の原則を今後も堅持していくかどうか、再確認すべきだ」と、熱く指摘。「我々は、少数民族やその末裔、少数グループに対する弾圧行為に対して、いつ、なんどきでも声高に非難しなければならない。それが、たとえ新疆で起きていても、北エチオピアで起きていても、世界のどこで起きていてもだ」と続け、中国共産党によるウイグル人の迫害にも触れながら、国連が尊ぶ人間の尊厳と人権の意味について再確認を迫った。
 また、途上国のインフラ建設支援については、「当事国が本当に必要としているプロジェクトが、現地労働者の待遇や環境対策などの面でも高い基準を満たしつつ、透明で持続可能な投資によって正しいやり方で進められなければならない。そうすれば、インフラ建設は低収入国や周辺地域の発展を後押しし、経済発展につながるだろう」と語り、中華式植民地政策と言われる一帯一路戦略を暗に批判した。
 さらに、「世界の権威主義の国々は民主時代の終結を宣告しようとしているが、彼らは間違っている。言語と大陸を超えて人々から聞こえてくるのは、尊厳を求める声だ。指導者らはそれに応える責任があり、決して弾圧すべきではない」と述べた。最後に、「世界はさまざまな挑戦に直面しているが、回避できないことは何もない。これは何を選択するかという問題であり、米国の選択は世界各国とより素晴らしい未来をつくることだ」と訴えた。

両国で異なるキーワードの意味

 一方の習主席の演説には、実のところバイデン大統領と共通するキーワードがある。「民主主義」「人民による統治、人民享受の原則」「多極主義」などだ。しかし、同じ単語でも、その使われ方は両者の間に違いがある。

習主席は国連総会で中国流の民主主義を主張した (c)billow926 / Unsplash

 このうち「民主主義」について、習主席は「平和・発展の世界は異なる形態の文明を受け入れるべきであり、すべて受け入れて近代化への多様な道を歩まなければならない。民主主義はどこかの国の専売特許ではなく、各国人民の権利である」と語り、米国の民主主義の押し付けを批判して自国流の民主主義を主張した。
 また、「人民を中心とすることを堅持する。発展の中で民生を保障、改善し、人権を保護、促進し、人民のための発展、人民に依拠した発展、人民が成果を享受する発展を実現する」と訴えた。ただし、バイデン大統領が「人民による統治と人民による享受」を政府統治の原則として語っているのに対し、習主席は発展原則として語っているという違いがある。
 「尊厳」については、バイデン大統領がおよそ6回言及したのに対し、習主席は新型コロナウイルスとの闘いについて語った時に一度だけ言及し、「我々は人民至上と生命至上を堅持し、すべての人の生命、価値、尊厳を守らなければならない」と語った。バイデン大統領の「尊厳」が人間の尊厳と人権を指すのに対し、習主席の語る尊厳は「生存権」を指す。
 さらに、「多極主義」については、バイデン大統領がNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)、そしてQuad(日米豪印戦略対話)など、民主主義を掲げる同盟国との関係強化を通じて国連回帰やグローバル統治を語ったのに対し、習主席は、国連が途上国の発言権をより代表し、本物の多極主義を実践するための世界唯一のシステムであると位置付け、次のように呼びかけた。
 「我々はグローバル統治を整え、より完全なものにし、真の多極主義を実践していかなければならない。世界には唯一のシステムしかない。それは、国連を核心とした国際システムである。…(中略)…国連は真の多極主義の旗を掲げ、各国が共同で普遍的な安全保障を維持し、発展の成果を共同で分かち合い、世界の運命を共同で掌握する核心的なプラットフォームとならなければならない。国際秩序の安定に力を入れ、広範な発展途上国の国際問題に対する代表性と発言権を高め、国際関係の民主化と法治化を前面に進めていこう…(後略)」

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