イスラエルを絶対支持するドイツで制限される「言論の自由」
「法治国家」の二重基準の行方は

  • 2023/11/24

 パレスチナの軍事組織ハマスが10月7日にイスラエルに対して大規模攻撃を仕掛けて以降、イスラエル軍によるガザへの激しい攻撃が続いている。そんななか、ホロコーストを起こした過去のあるドイツはイスラエルを絶対的に支援し、パレスチナを支援する動きは抑圧されている。

ノルドライン・ウェストファーレン州の地域政府の建物には、イスラエル国旗が掲げられ、「イスラエルに連帯する」という、外務大臣やトップ政治家の言葉が貼られている(筆者撮影)

ホロコーストという絶対悪の記憶

 イスラエルとハマスの間の戦争が始まって以来、世界は二分されている。ハマスをテロ組織としてイスラエルを支援する西側の国々と、パレスチナに同情して一刻も早い停戦を求める国々で見方が分かれている。

 かつて全体主義的な独裁制を敷いたファシズム政党のナチスが約600万人のユダヤ人を組織的に殺害したホロコーストの過去を持つドイツは、特にイスラエルを強く支援している。イスラエルの存在と安全は、単なる政策目標にとどまらず、ドイツの国としての存在理由そのものの一つと考えられているというのだ。

 アンゲラ・メルケル前独首相は2008年、イスラエルの国会であるクネセトで次のように演説し、ユダヤ人に対して謝罪した。

 「ドイツの歴史的責任は、私たちの国の国家理性です。つまり、ドイツ首相である私にはイスラエルの安全は必須のものであり、そこに議論の余地はありません」

 国家理性とは西洋政治思想の古典的な概念で、国家の存在理由を意味する。10月7日のハマスによるイスラエルへの大規模攻撃後、ドイツではこの言葉が何度も繰り返されている。

 11月2日にはドイツ政府は、3億300万ユーロ(約490億円)のイスラエルへの武器輸出を許可した。2022年には一年間で3200万ユーロ(約51億円)だったことから、一気に10倍にも増えたことになる。

 一方、10月7日以降のイスラエルのガザに対する激しい攻撃によって、住居の半分以上が破壊され、10月23日時点で、少なくても1万4500人以上の死者が出たと発表されている。アントニオ・グテーレス国連事務総長は10月24日の国連安全保障理事会で、「ガザで起きていることは明らかに国際法に違反している」と演説した。国連の専門家らも、国際法違反を指摘し、即時停戦を求め続けている。

 しかし、オラフ・ショルツ独首相は11月14日の記者会見で「イスラエルはハマスから自己防衛のために国際法に基づいて行動している」と、対照的な発言をした。

抑え込まれる「親パレスチナ」的な動き

  このようなドイツのイスラエル支持の動きは、幅広い方面に影響を与えている。10月18~22日に開催された世界最大の国際書籍見本市であるフランクフルト・ブックフェアでは、パレスチナ人作家アダニア・シブリに対する文学賞「リベラチュー・プライス」の表彰式が、紛争を理由に延期された。この賞は開発途上国の女性作家に授与されるものだが、同作品がイスラエルの暴力を描いた内容であることが問題視された。表彰式がいつ開催されるか、目途は立っていない。

 なお、同フェアは、ディレクターが開催に先立ち「イスラエルの側に完全に連帯」すると表明したため、イスラム教徒が多い国の出版関係者の反発を招き、参加辞退が相次いだ。特にインドネシア出版協会は、主催者の姿勢を疑問視し、「(主催者が)イスラエル側に立ってプラットフォームを提供するという決定は、対話の理想と相互理解を築く努力を損なっている」と声明を発表した。

 同様に、これまでイスラエルに批判的な発言や行動をしてきたアーティストや言論家による表現の場も、ドイツの公共空間から次々に失われている。公共放送ARDは、11月20日に放送を予定していたパレスチナ人の監督によるパレスチナを舞台にした映画の放送を中止した。同監督が以前、イスラエルを批判する活動をしていたことがあり、同作品にもイスラエルの行動を疑問視するシーンがあるためだと考えられる。

 さらに、親パレスチナのデモに対する抑圧も強まっている。パレスチナを支持するデモは反ユダヤ主義につながりやすく、安全を保てないというのが理由だ。首都ベルリンのイスラム系住民が多いノイケルン地区では10月7日、ハマスによるイスラエルへの攻撃を祝福して菓子を配った人々がいた。それを重く見たベルリン市当局は、デモを即座に禁止した。しかし、ベルリンにはヨーロッパ最大のパレスチナディアスポラのコミュニティがある。

 その後、デモの禁止は言論と集会の自由を妨げるものだという批判が高まり、規制は非合憲と判断した裁判所もあったことなどから、現在は禁止が解除され、各地でまたパレスチナ支援デモが行われている。筆者が住む市でも見かけたが、監視する警察の人数は普段のデモよりも多く、物々しい雰囲気が漂っていた。

筆者の住む市で開催された親パレスチナデモの様子(筆者撮影)

 なお、筆者はその場で「イスラエルをシオニズムから解放せよ」というプラカードを持っていた女性が警察に尋問されているのを目にした。ユダヤ人国家を建設し、拡大しようとするシオニズムの否定は、イスラエル国家の存在を認めないことだとして、ドイツでは厳しく取り締まられる。国際ホロコースト記憶同盟(IHRA)が2016年に発表した定義によれば、ユダヤ人国家を否定することは、すなわち反ユダヤ主義だとされている。

 10月半ば、ベルリンの検察当局は、「川から海まで(From the river to the sea)」という親パレスチナグループが使うスローガンを禁止すると発表した。このフレーズは、ヨルダン側から地中海までパレスチナ国家が続いて存在することを示唆するもので、イスラエル国家を認めない主張だと見なされる。しかし、この表現はあいまいで多様な解釈が可能であるため違法とは言えないと、オランダの裁判所は2023年8月に判断を下していた。

 前出のIHRAの定義は、主に欧米の43カ国で採用されている。ドイツでは深刻な反ユダヤ主義的な発言や行動をすると、刑法に基づき、大衆扇動として刑事罰に処される可能性がある。同定義で挙げられる反ユダヤ主義の例は幅広く、イスラエル国家が人種差別的な動きによって建設されたものだという主張も含まれる。一方、人権団体のアムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチは、「イスラエルがアラブ人を差別する”アパルトヘイト”を行っている」と指摘してきたが、調査に基づくこうした主張への支持をドイツ国内で表明すると、反ユダヤ主義者のレッテルを貼られかねない状況だ。

「反ユダヤ主義」というレッテル

 ドイツ議会は2019年、イスラエルに対するボイコットや投資撤退、そして制裁(BDS)運動を反ユダヤ主義とみなすという動議を可決した。BDS運動とは、イスラエルに国際法違反の行為をやめさせるキャンペーンで、アパルトヘイトを行っていた南アフリカが国際的なボイコット運動を受けて同政策を停止したことに倣っている。

 BDSを反ユダヤ主義とみなすことに、ドイツでは当時、反対の声や懐疑的な書簡の公開が相次いだが、こうした主張に賛同したベルリン・ユダヤ博物館のピーター・シェーファー前館長は糾弾され、辞任に追い込まれている。シェーファー氏は古代ユダヤ教を専門とする宗教学者で、豊富な知見を持った人物だった。

 同じように、現在のドイツでは、イスラエル批判が反ユダヤ主義だとみなされかねない。パレスチナへの連帯を示せば「ハマスを糾弾していない」と言われ、反ユダヤ主義者だと容易にレッテルを貼られるのだ。スウェーデンの気候変動アクティビスト、グレタ・トゥーンベリ氏は、アムステルダムで開かれた気候危機に関するデモでパレスチナへの連帯を訴え、ドイツで激しく批判された。ドイツの有力誌『シュピーゲル』は11月18日号で彼女を「反ユダヤ主義者」と糾弾。「アイドルの誤った道」というタイトルとともに表紙に掲載した。これを受け、彼女が始めた気候正義ムーブメント「フライデーズ・フォー・フューチャー」のドイツ支部は、国際ネットワークと距離を置くことを発表した。

 「正当なイスラエル批判は行ってよい」と、ドイツのフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー連邦大統領や、ロバート・ハーベック副首相らは発言する。しかし、現在のドイツでは何が「正当な批判」とされるのか、見えにくい。「Free Palestine」というプラカードをデモで掲げることに問題はなさそうだが、「ジェノサイドを止めろ!」というプラカードを掲げベルリンの広場に一人で立っていたイスラエル出身のユダヤ人女性は逮捕され、話題になった。現在のドイツでは、意見の表明に注意を払わなくてはいけなくなっている。

 なお、ドイツでは、5年に一度、「ドクメンタ」という国際的に有名な現代美術祭が開催されている。2027年に予定されている「ドクメンタ16」の準備を進めていた委員たちは11月16日、全員が辞任を表明した。同美術祭は社会通念や正義とは何かという問いを投げかける作品を発信し続けてきたが、その実現に不可欠な「多様な視点、認識や言説を可能にする条件」が現在のドイツにあるか疑わしいというのが委員たちの挙げた理由だ。

 直後の11月21日には、2024年3月から開催が予定されていた現代写真ビエンナーレのキャンセルも発表された。同イベントのキュレーターでバングラデシュ人フォトジャーナリストのシャヒドゥル・アラム氏がSNS上でイスラエルを批判しており、反ユダヤ主義的だとされたためだ。

 芸術祭は反ユダヤ主義コミッショナーからの干渉を受けやすい。2020年にドイツ西部で開催予定だった「ルール・トリエンナーレ」では、基調講演者としてカメルーン出身の政治哲学者、アキレ・ムベンベ氏が招待されていた。しかし、脱植民地主義の著名な理論家である彼は、かつてイスラエルによるパレスチナ人支配と南アフリカでのアパルトヘイトを類似のものとして発言したことがあるため、反ユダヤ主義者というレッテルを貼られ、彼を招待した芸術祭のダイレクターも非難された。ムベンベ氏はその後、仕事の機会を得られていないという。

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