ケニアのゴミ山で生きる「政府公認」のウェストピッカーたち
不衛生なカンゴキ最終処分場で見た皮肉な現実とは
- 2023/10/19
ゴミ山に足を踏み入れると、ただ呼吸をするだけで吐き気が込み上げてくる。暴力的な臭気が容赦なく鼻から入り込んできて息を詰まらせた後、胃へと下降してうずきだす。ゴミに混じった金属などを回収するためにあちこちで火がつけられるが、分別されていない山にはプラスチックも混じっているため、有毒ガスに十分気を付ける必要がある。腐った生ゴミから大量発生したハエが水分を求めて身体にまとわりついてきて、羽音の振動で肌が震えているような錯覚を覚えるほどだ。
こんな身も心も消耗しそうな環境下で、日々を生き抜くために労働に精を出す人々がいる。ゴミ拾いを生活の糧とするウェストピッカーたちだ。
人口増加に伴い急増するゴミの量
ケニアの首都ナイロビから一時間ほど北へ車を走らせると、キアンブ県のティカというベッドタウンにあるカンゴキ最終処分場が見えてくる。ここは同県で唯一の最終処分場で、県内のすべてのゴミがここに集められる。ケニアでも日本と同様にごみの処分は地方政府が所管しているが、日本で多くの自治体でゴミを焼却処分しているのとは対照的に、ここでは運ばれてきたゴミがそのまま次々と野積みされていく。
キアンブ県では近年、ティカを中心に人口が急増している。国勢調査によれば、2009年に162万人だった人口は、2019年には242万人となったという。10年あまりで80万人も増加したことになる。人口が増えるのに比例してゴミの量も増えるため、リサイクルや再利用といったゴミの排出量を減らす対策が求められているが、普及は進んでおらず、現在のリサイクル率は3%と推計されている。
ここカンゴキ最終処分場は、日本の国際協力機構(JICA)が支援を行っていることもあり、ケニア人の中でも、他の処分場と比べてよく管理されていると認識されている。2015 年にはメタンガスなどの有毒ガスの発生を抑制できる「福岡方式」(準好気性型)を採用した衛生埋立処分場のモデルサイトが建設されたが、気アンプ県の政策決定者の理解不足などもあり、未だ稼働はしていない。そもそも管理者であるキアンプ県政府に長期計画がなかったり、計画があっても必要な資機材を確保するだけの予算が確保できなかったりと、課題が山積している。
県と連携して3Rを推進
「カンゴキ最終処分場の広さは約120エーカー(筆者注:東京ディズニーランドとほぼ同じ面積)ですが、近年、ゴミの量が急増していることもあり、あと数年でいっぱいになってしまうという試算もあります」
キアンブ県で環境政策を担当しているモニカ・キンゴリさんは、眼前に広がるゴミ山を眺めながら、そう説明した。この問題に対処するためには、ゴミの3R(リデュース、リサイクル、リユーズ)を推進し、とにかくゴミの量を減らすことが急がれるとモニカさんは言う。キアンブ県には焼却処分をする施設があるが、焼却処分をすると県が支払わなければならない費用が増えるため、カンゴキ処分場では分別もされず野積みされているのが現状だ。それはつまり、野積みされたゴミの中には、使える資源物が多く含まれていることを意味する。
実際、ゴミ山を歩いてみると、少し修理すればローカルマーケットで十分売ることができそうなサンダルや衣類を多く見つけた。ペットボトルや段ボールを集めれば引き取ってくれる民間業者もあるし、捨てられたウィッグを洗剤で洗い、インフォーマル地域などで販売している美容サロンの事例もある(2023年8月10日付)。そのまま放置していればただのゴミだが、回収すれば資源として活用できるモノがそこかしこに散乱しているのだ。
そこでキアンブ県はウェストピッカーたちと協働し、「政府公認」のゴミ拾いとして彼らの権利を保護することでゴミ拾いを奨励する方針を打ち出した。ウェストピッカーは、視点を変えれば、処分場でゴミを分別、回収し、民間業者に売ることによってリサイクルや再利用を実践してくれる者たちだ。彼らを管理することで県政府は3Rを推進でき、ウェストピッカーたちは、より安全で効率的にゴミ拾いに従事することができる。
カンゴキ処分場には現在、700人程度のウェストピッカーがおり、そのうち350人ほどがすでにキアンブ県に登録しているという。登録は無料で行われ、ゴミを運搬する重機に近寄らない、ゴミの焼却禁止を徹底する、といった安全管理上のトレーニングが提供される。登録を終えたウェストピッカーたちは5つほどのグループに分かれ、それぞれ決められた曜日にゴミ拾いに従事しつつ、政府との協働を実現している。
家族のために日銭を稼ぐ
では、強烈な臭気や大量のハエと闘わなければいけない過酷な環境で、ウェストピッカーたちはどのように働いているのだろうか。そもそも、彼らはどのような経緯でウェストピッカーになったのだろうか。5つのグループの1つ、カンゴキサウスグループのリーダーをしているミシェック・マイナさんに尋ねると、意外なほど前向きな答えが返ってきた。
「ゴミ処分場といっても、ここカンゴキは県との連携を進めようとしているので、状況は悪くないよ。JICAも僕たちを助けてくれるしね」
ケニアの中央部にある街で生まれ育ったマイナさん(30歳)は、高校を卒業した2020年に職を求めてティカの街に出てきた。自営業をやっていた時期もあったが上手くいかず、生活していくために選んだのがゴミ拾いの仕事だった。マイナさんは妻や息子を養うために一生懸命働き、毎月約3万シリング(約3万円)を稼いでいるという。
また、今年で48歳になるというナイト・オピヨさんは、勤めていたサイザル工場が閉鎖したことがきっかけで、10年前に夫と共にティカに移住してきた。他の若いウェストピッカーたちと競い合ってゴミを拾うことはせず、黙々と残飯を袋に詰め、家畜用の飼料として売っている。50キロの袋一つでだいたい200シリング(約200円)になるという。
「子どもの頃は、自分が将来、まさかウェストピッカーになるなんて思ってもみませんでした。でも、私には、特別な経験も、スキルも、何もないんです。だからこの仕事に就くしかありませんでした」
オピヨさんには7人の子どもがおり、娘の一人がカンゴキで一緒にウェストピッカーとして働いている。ハエにまみれて泥だらけになりながら働くオピヨさんの姿は確かに辛そうに見えるが、娘はこの仕事を誇りに思っていて、積極的にオピヨさんを助けてくれるのだという。
ヴェルマ・オティエノさん(25歳)は、1歳9カ月になる一人息子を抱えるシングルマザーだ。6年前に高校を卒業し、ティカに来た。ウェストピッカーになったきっかけは、友人の誘いだったという。
「I love this job!簡単で、働ければ働くほど日銭が稼げるからね。私は気に入っているよ」
収入は、多い時で一日500シリング(約500円)程度だが、集めたゴミを運搬するトラックを利用するために、毎月2300シリング(約2300円)を支払っている。息子を育てながらゴミ拾いの仕事をこなすのは激務で、毎日が闘いの連続だという。
ゴミ拾いをする時に彼女が心掛けているのは、「なんでも拾うこと」だという。ウェストピッカーの中には、プラスチックやペットボトルなど、自分が狙うゴミだけを集中的に拾い集める者もいるが、ヴェルナさんは分別の手間をかけず、残飯だろうが金属だろうが手あたり次第、なんでも拾っている。
そんな彼女は、金目のゴミを拾った時も、できるだけ周囲の人と利益を分け合っているという。「人は一人では生きていけないから。隣人を愛さないとね」と微笑む。