インドで深刻化するヘルスケアの空白
コロナ以外の疾病対応能力の強化が急務

  • 2020/9/14

 新型コロナウイルスの感染者が200万人を超え、米国、ブラジルに次いで世界第3位となったインド。8月31日には新規感染者が7万8761人を記録し、1日あたりの新規感染者数としては世界最多になった。9月1日付のインドの英字紙タイムズ・オブ・インディアは、社説で新型コロナウイルスへの対応を採り上げた。その内容は、コロナ以外の疾病への対応が手薄になっていることに対する警告だ。

インドでは、新型コロナウイルス以外の疾病への対応が手薄になっていることが懸念されている (c) Alok Sharma / Unsplash

数十万人が必要な治療を受けられず

 社説によると、今年4月から6月の間に新型コロナウイルス以外の病気や公衆衛生の面で被った保健医療上の損失は甚大だという。保健省の統計によると、この期間に予防接種の接種者は27%、病院出産数は28%、大規模な手術は60%が減った上、がんや心臓病の外来患者の治療は70%以上、心臓病の緊急患者の治療も51%が減ったという。結核や糖尿病、喘息、出生時診断と治療も同様に大きな影響を受けた。

 「4月からの3カ月の間に必要な治療を受けられなかった人数は数十万人に上り、病院での治療が必要な新型コロナウイルスの感染者数を上回っている。予防接種を受けることができなかった子どもたちの今後が心配だ。さらに、せっかく根絶に成功したポリオやジフテリア、麻疹などが再発する恐れもある。成人の中にも、治療を受けることができず症状が悪化したり、生活の質が落ちたり、命を縮めた者も少なくないはずだ」と、社説は指摘する。

都市封鎖がマヒさせたもの

 新型コロナウイルス対応に忙殺されたことによって、他の疾病に対する医療や公衆衛生の対応が混乱、あるいは一時停止したことについて、社説は「長期にわたる都市封鎖がその一因だった」と、批判する。インドでは3月から都市封鎖が実施されていた。これについて、社説は「今から振り返れば、都市封鎖は良くない戦略だった。長い都市封鎖によって組織が怠慢し、マスクの着用義務の徹底や検査態勢の改善などの急務から目をそむける結果となった」とした上で、「実は、この2点こそ、感染予防に役立つ対策であり、経済活動の安全な再開を可能にするものだ」と、主張する。

 さらに社説は、「インドでは新型コロナウイルスの感染拡大が始まる以前から医師や看護師、医療ベッド、保健所ワーカーといった医療人材や施設が慢性的に不足していた」と指摘する。こうした医療崩壊とも言える状況は、新型コロナウイルスの感染が拡大し続ける状況下で悪化こそすれ、改善される見通しはないという。

 「国内の医療態勢を早急に立て直さなければならない。ほとんどの医療ワーカーは、新型コロナウイルス関連の仕事に忙殺されているのが実情だが、新型コロナウイルス以外の疾患も治療が必要だ。政府や保健当局者は、医療の質と量を強化する方法を早急に検討しなければならない」

 

(原文: https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/healthcare-void-lakhs-of-needy-persons-who-lost-healthcare-access-during-lockdown-serve-a-wakeup-call/)

 

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