新型コロナによるアジア経済への傷跡、今も
「ウィズコロナ」社会への途上で、東南アジア各国が抱く懸念
- 2023/2/6
新型コロナの感染拡大から4年目に入った。しかし私たちは未だ、このウイルスを完全に封じ込められずにいる。アジア諸国はそれぞれの方法で「ウィズコロナ」へと歩み出しているが、各国の紙面には、そこにさまざまな懸念があることが滲んでいる。
中国人観光客の入国に、冷静な対応を呼びかけるマレーシア
マレーシアの英字紙スターは2023年1月8日付の社説で「パニックボタンを押す必要はない」と題する記事を掲載した。
社説は、新型コロナ禍が長く続く中、マレーシア社会は何とか平常に戻ってきたという。「2022年の第1四半期に、ほとんどの行動制限は解除された。国境も開放され、経済は再稼働を始めた。新規感染者が増えることもあったが、それでも生活はほぼ、コロナ前の状態に戻った」。
しかし社説によると、一部には中国の感染状況を懸念し、中国からの旅行者を入国禁止にするべきだ、との意見もあったという。社説はこうした反応を「短絡的だ」と指摘し、「中国からだけでなく、すべての旅行者を検査する」としたマレーシア政府の決定を支持した。
社説は、「感染者数の増加に対して、盲目的にパニックに陥るのではなく、かつて私たちが感染者の急増を経験した時のように、ただ注意深くなれば良い。どうすれば良いか、私たちはすでに知っているのだ」と、冷静になるよう促し、混雑した場所でのマスク着用といった感染予防対策や、ワクチン接種を改めて呼びかけた。
観光客が増えても収入は・・・ゼロドルツーリズムに苦しむタイ
タイの英字紙バンコクポストは、2023年1月15日付の社説で、タイ経済を支える観光業が復活していることを歓迎しつつも、「ゼロドルツーリズム」への懸念を示した。
「ゼロドルツーリズム」とは、米国の東洋文化研究家であるアレックス・カー氏が、著書『観光亡国論(中央公論新書)』の中で使った表現で、滞在地にお金が落ちない旅行の形態を指す。社説は、コロナ後に来訪する観光客数は順調に戻ってきている、とした上で、観光収入についての懸念を呈する。「驚くべきことに、今年末までに前年以上の旅行客が見込まれているというのに、タイ政府観光庁は、観光収入については前年と同程度しか見込んでいない」
社説は、観光客がタイにお金が落とさない理由について、燃料費の高騰、世界的な経済の落ち込みなど複合的な理由がある、と説明したが、それ以外にも、「こうした消極的な見込みの裏には、タイ政府が、滞在中に消費を惜しまない質の高い旅行者を獲得できそうにない、という背景がある」と指摘した。
タイにおけるゼロドルツーリズムは、食事や土産品など、滞在中の消費行動を滞在中の管理するパッケージツアーが原因のひとつだ。社説は、「個人旅行への切り替え」が必要だと訴えている。
束の間の「リベンジ消費」の反動に危機感を抱くフィリピン
一方、フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは2023年1月16日付の社説で、2023年の消費の落ち込みについて懸念を示している。
社説によれば、コロナ禍から抜け出しつつあった2022年、フィリピン国内では消費意欲が極端に高まったという。社説はこれを「リベンジ消費」と呼び、度重なるロックダウンや行動制限から解放された人々が、ぜいたく品を含む「普段は買わないもの」を買う傾向があった、と説明する。実際、世界銀行は、2022年のフィリピンの経済成長率予測を6.5%から7.2%に上方修正。アジア開発銀行も、6.5%から7.4%に修正した。
しかし、世界経済の落ち込みや長引く物価高は、フィリピン国民のこの極端な消費意欲を、とたんに萎えさせてしまう可能性があるという。さらに心配なのは、2022年の消費が、借入金や貯金の取り崩しでまかなわれたことだ、と社説は指摘する。そもそも昨年の消費行動は「持続可能なものではなかった」のだ。社説は、「リベンジ消費」の反動による経済活動の停滞をくつがえすためには、給料の引上げと、卵や砂糖、米、肉、玉ねぎといった食品の価格引き下げが必要だ、と主張した。
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コロナ禍からなんとか抜け出しても、まるで後遺症のように私たちの生活にはさまざまな傷跡が残る。その一つひとつを乗り越えて「ニューノーマル」と言える社会を築くには、まだ時間がかかりそうだ。
(原文)
マレーシア:
https://www.thestar.com.my/opinion/columnists/the-star-says/2023/01/08/no-need-to-push-the-panic-button
フィリピン:
タイhttps://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2482794/use-the-tourism-fund-ethically