「2月1日のサイレントストライキ」
私たちが軍政下で育った最後の世代にする

  • 2022/2/6

【編集部注:】

2月1日、クーデターから1年が経ったミャンマーで市民らが「サイレントストライキ」を行いました。1年の節目にあたり「軍政を認めない」という意思を新たにするヤンゴン市民の様子を伝えるFacebook投稿を紹介しました。

~ 以下、Facebook投稿より ~

2月1日、サイレントストライキ当日、ヤンゴンのスーレーパゴダ前の歩道橋から撮影された写真。前回、12月10日のサイレントストライキの時には、その様子を撮影した人が警察連行され拷問された。今回サイレントストライキをバッチリ写した写真が少なかったのは、おそらくそんな背景があるのではないかと想像している(c) Khit Thit Media

2月1日、ヤンゴンは静かだった。
半月ほど前に呼びかけられた「サイレントストライキ」は、
武力衝突が起きている国とは思えないような、とても平和な抵抗だった。
「10時から16時まで、みんな家の中にいよう」
「16時になったら外に出て、みんなで拍手してストライキ成功を祝おう」
ベランダから見上げた2月1日の空は、青く澄んでいた。
街は、いつもより静かなおかげで、鳥の声がよく響いていて
抑圧されている現実が悪い夢だったかのように、ピースフルだった。
===
軍は1月後半、サイレントストライキが発表されるやいなや、ストライキ阻止に動き出した。
まず「ストライキに参加したら逮捕する」という、もはやおなじみとなった通達を出した。
おかげでこの日だけは「家にいる方が危険」という妙な状態になった。
家にいようがいまいが個人の勝手のだが、そうした自由が許されないのが今のミャンマーだ。
さらに「鍋叩きをやろう」という動きが広まると、鍋を叩いたら反逆罪を課す、と発表した。
この反逆罪の最高刑は、死刑だ。
(名ばかりの裁判はあるものの、実際はまだ逮捕されていない人にさえ先に死刑宣告が出る始末。)
おまけに、念入りなことには、ヤンゴンでは前日に警察が町を回り、
市場や商店で写真をとったり店主の名前を記録して回ったりして、店を閉めるなという圧力をかけてまわっていた。
店を閉めたら、どうなるの?と同僚に聞くと、彼は「さぁね」と苦笑した。
「店主が逮捕されるか、営業許可を取り消されるか、何か別の嫌がらせを受けるか。
 何されるかわかったもんじゃないよ。すべては彼らの思いのままだもの」
軍のやり方を知り尽くしたミャンマー人たちは、店の状況をよく理解した。
路上の麺屋さんには、「お客さんは来ないから、仕込みは最低限にしなよ」などとアドバイスが飛び
SNS上では「店は開けても、お客さんが行かなければいい」「全部売り切れたことにすればいい」と抜け道が次々と提案され、大喜利のようになっていた。
===
軍の脅しが一定程度効いたのか、その日、街は完璧なサイレントにはならなかった。
私の自宅周囲も、いつもより人は少なかったものの完全に無人にはならず
バスや車の走る音が大通りから聞こえてきたし、フードデリバリーも動いているようだった。
(友人の自宅周囲では、だれ一人路上に出ずに沈黙していたらしいので、場所によっても違いがあったようだ)
ピタリと時間が止まったような12月のサイレントストライキと比べると、やや中途半端な印象は否めなかったけれど
それでも16時になると人々がワラワラと家から出てきて、周囲には拍手の音があふれた。
友人からは、「We did it!(やってやったぜ!)」とメッセージが届く。
地方の友人からも、「そっちはどう?」と電話がきた。
さっき拍手が起きたところだよ、と伝えると、彼は満足げに「よーし」と笑った。
あれこれ話したあと、彼はこんな風に言った。
「サイレントストライキは、地味な抵抗だと思うだろう。
だけどこれは、国民がみんな同じ気持ちをもっていないと成功しないんだ。
軍の支配なんてだれも望んでない、という強烈なメッセージなんだよ。
僕らはそれを成功させたんだ」
そして、こう付け加えた。
「こんなにもたくさんの人が、軍政にNOと意思表示している。
軍と同じようにお金と武器があれば、絶対にすぐに勝つのにな」
===
翌日、オフィスで同僚たちと「そっちはどうだった?」と、それぞれの自宅周囲の様子を報告し合う。
どの顔にも、ちょっとした誇らしさが見えていた。
「サイレントストライキは成功だ。
軍に脅されても、これだけやったんだ。満足しているよ」
サイレントストライキが呼びかけられる前、SNS上では
「もっとビジュアルでわかるような形で、デモなどの活動をすべきだ」という声もあったという。
しかし、それは少なからぬ人の命が奪われることと直結している。
「だから最終的には、みんなサイレントストライキに参加したんだよ。
納得していようがいまいが、それしか道がないからね」
同僚はそう言ったあと、「私たちの意思は、日本にも伝わるかな」と尋ねた。
きっと伝わると思うよ。ミャンマーのニュースも増えているし、東京では国会議員や在日ミャンマー人たちが解決策を話し合っているよ。
私がそう答えると、彼はこう言って笑った。
「そうなんだ、ありがとう。
 そろそろ声明以外の後押しがあると嬉しいんだけど」
===
同日、人々が沈黙しているのをいいことに、軍は「軍支持派」のデモを組織した。
反軍政の市民がデモをやると警察車両に轢き殺されるのに
軍支持派のデモとなると、同じ警察車両がデモ隊を護衛する。
そういう国なのだとわかっていても、やはりため息が出てしまう。
ねぇ、あれって本当に軍を支持しているの?と聞くと、友達は「まさか!」と笑い声をあげた。
「お金だよ。貧しくて政治を知らない人たちを、軍が買ってるの。
 日雇い5000チャット(約300円)だから、私たちは彼らを“ガータウンサー(5000チャットを食べる人)”って呼んでるんだよ」
こうやって日給を払って人を動員するのも、軍のいつものやり方なのだという。
そういえば、そもそも軍の下級兵士は、貧しくて政治を知らない村の農民が多いそうだ。
軍の宿舎に住まわせ、軍の学校、軍の病院、軍のお店、とすべて「軍製」のもので取り込む。
「軍のやり方は、全部わかってる。
 だって私たちは、軍政下を生きてきたんだから」
と、友人は苦笑する。
===
2月1日が過ぎ去ると、どっと疲労感に襲われた。
あの日から、1年が経ってしまった。
自国民を虐殺するようなメチャクチャな政府が、まさか続くわけがない。
世界が許すはずがない。
そう思っていたのに。
ミャンマー人の友人に、「ねぇ1年だよ。疲れない?」とボヤくと、こんな答えが返ってきた。
「私も昨日、考えていたの。
 この1年、私たちは何度も立ち上がり、声をあげて続けてきた。
 たくさんの犠牲を払ってきた。でも変わらない。
 この状態で1年…。
 もう軍政を受け入れるべきなのかな?って考えてみた。
 でも、ダメ。答えは絶対にNoだよ」
他にもあなたみたいに、軍政を受け入れるべきか、と考えてみる人はいるの?
「考えるだけなら、ほかにもいると思うよ。口には出さないからわからないけどね」
たぶん、と彼女は言った。
「もうダメだ、と思う人がいるとしたら、生活がギリギリの人たちだろうね。
 生活が苦しいから、というだけじゃなくて、情報がないから」
どういうこと?と聞くと、こんな説明が返ってきた。
「日々スマホでSNSを見ているような人は、いろんなニュースを見るでしょう?
 それで、PDFが軍との戦いを続けていることに励まされたり
 軍のひどい行為を見て、絶対に許せないと思ったりする。
 そういう支えがない人は、きっともっとネガティブになっていると思う」
それから彼女は、きっぱりと言った。
「だけど、少なくとも私たちは、諦めるわけにはいかない。
 ここで何もせずに軍に従ったら、次の世代がかわいそうだもの。
 私たちが、軍政下で育った最後の世代。必ずそうするからね」

サイレントストライキが始まる10時より前に、赤いペンキをぶちまけてデモをした若者たち。間違いなく普段より警戒が強まっている日に、こんな派手なパフォーマンスをするなんて。 無事で生き抜いて、民主化後の新しい社会で力を発揮できますように。(c) Myanmar Now

日雇いの「軍支持者」5000စား(ガータウンサー)たち。民主派の市民からの視線は冷たい。(c) Mizzima

「軍支持者」がミンアウンフライン(軍トップ)の肖像に縁起物の葉っぱ(「成功」の意味があり、市民側のデモでも使われた)を掲げている様子。なんというか、儀式的でわざとらしく見えるのは私だけだろうか。。(c) DVB

軍に動員される人々。(c) Moe MaKa Media/Telegram

2月1日にお店を開けざるを得なかった魚屋さん。密かに(?)3本指を掲げて、店は開けても従わないぞ、という大喜利的レジスタンス。(c) Ma Hnin Pwint/Twitter

 

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