「新型コロナ、ミャンマーで悲惨な状況」
自分の身は自分で守るしかない事態

  • 2021/7/17

【編集部注:】

ミャンマーで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化しています。クーデターの発生により医療体制をはじめ社会が機能しなくなっていたところに感染者が急増し、適切な処置を受けられないまま亡くなる方々も相次いでいます。ここでは、危機に瀕する現地の状況を伝えるnote の投稿を紹介します。

~ 以下、noteの投稿より ~

ミャンマーで新型コロナの感染者が急増し、深刻な状況に陥っている(筆者撮影)

 noteにミャンマーの新型コロナのことを書いたのは2週間ほど前だった。それから、日に日に悪化して大変な事態になってきた。私の周りでも多くの人たちが感染し、亡くなった方もいる。また、近所でも3人の方が亡くなった。

 実際の数字は?
 保健スポーツ省が公式に発表している数字がこちらだ。

日付    検査数   陽性者数  死亡者数 
7月11日  1万117人   3461人    82人
7月12日  1万4432人   9014人    89人

7月13日  1万1686人   4047人   109人
7月14日  2万1352人   7083人   145人
7月15日  1万44人   4188人   165人
https://mohs.gov.mm/Main/content/new/list?pagenumber=1&pagesize=9

 これらは、Covid-19センター、および公立・軍病院が把握している数字だ。ところが、コロナの症状が出ている多くの人たちは自宅で治療する(といっても、何もできないが)。呼吸困難になり、病院に行きたくても、すでに病室はいっぱいで入ることが難しい。酸素ボンベを手に入れるのも難しく、自宅で亡くなってしまう人も非常に多い。

 しかも、病院ではなく自宅治療のために、一家全員が感染してしまうケースが非常に多い。実際に私の親しい友人の実家は、一家8人全員が感染し、お母さんが亡くなってしまった。

 こうした自宅治療の人たちは保健スポーツ省の公式発表の数字からは外れている(公的機関で陽性検査をしていないため、本当に陽性だったのかは分からないが)。そして、このような人たちの方が、圧倒的に多いのだ。

 地元イラワジ紙によると、13日にヤンゴンの火葬場で731人の遺体を火葬したという。しかし、新型コロナ以前の火葬は40人ほどである。
 https://www.irrawaddy.com/news/burma/myanmar-junta-accused-of-restricting-oxygen-supplies.html

 ということは、700人近い超過死亡が出ていることになる。ちなみに、この日の保健スポーツ省によるヤンゴンでの新型コロナの死者は40人だ。単純計算で、17倍になる。少なめに10倍と見積もっても、7月13日の感染者数は4万人あまり、死者は1000人に上る計算だ。これは、人口が5倍のインドネシアの数字とほぼ同じだ。つまり、新型コロナが非常に深刻と言われているインドネシアより、ミャンマーは人口あたり5倍も多いということになる。

防疫体制の崩壊
 ミャンマーで、なぜこれほどまでに新型コロナの感染が広がったか。根本的な原因はただ一つ。軍がクーデターを起こしたからだ。

 もともと、人口比で日本の4分の1程度しか医師がいないミャンマーだが、医師や看護師、その他の医療スタッフの献身的な努力によってコロナと闘っていた。また、去年の新型コロナの発生後、国民同士で助け合おうと、多くのボランティア団体が生まれ、防疫体制のサポートを行った。そして、個人や企業からの寄附も多く、隔離施設などもそれなりに充実していた。

 ところが、クーデター以降、多くの医師がCDM(市民不服従運動)で国立病院を辞めた。ボランティアに参加している人たちは、もともと社会意識が高かったため、すぐに軍と闘う団体に変わってしまった。さらに、寄附をする人もいなくなってしまったため、ミャンマーの新型コロナ防疫体制が崩壊してしまったのだ。

 今ごろになって、軍は新型コロナの増加に対処できていないことを認め、医師や看護師を契約ベースで雇いたいと言い出した。ボランティアも募集するとも言っている。今まで自分たちが殺したり逮捕してきた人たちに「手伝ってほしい」と言っているのだ。

酸素が足りない
 呼吸困難だが病院に入院できなかった人は自宅で酸素吸入を行うしかない。しかし、ミャンマー全土で酸素が非常に不足している。ヤンゴン市内には何箇所か酸素を充填してくれる工場があり、多くの人たちが酸素を求めて殺到している。

 しかし、軍は民間に売らないよう命令したという情報がある。実際、酸素を求めている人たちの列に威嚇射撃を行って人々を追い払ったり、酸素ボンベを持っている人たちに向かって発砲したという事件も起きている。

 それでも、どこからか酸素ボンベを確保して必要な人々に配っているボランティア団体もある。

 現在でも危機的な状況のミャンマーだが、来週、再来週になればもっと悲惨なことになる可能性が大きい。こうなれば、自分の身は自分で守らなければいけない。

 以前、私は、コロナの治療および予防としてインドやフィリピンなどで公式に使用されているイベルメクチンを購入した。これを予防薬として飲むことにした。ただ、今はどこの店からもイベルメクチンは姿を消してしまったため、以前、余分に買ったものをいくつか友人に分けたりしている。

 血中酸素濃度を測定するオキシパルスメーターも買った。酸素濃度が下がると酸素吸入が必要となるためだ。しかし、このオキシパルスメーターも売り切れの店が増えてきた。

 昨日は、食料の買い出しということで、スーパー(シティーマート)に行ってきた。米やスパゲティーや缶詰やインスタントラーメンなど、日持ちのする食品を多く買った。1カ月は籠城する覚悟が必要だ。この先、運送や電気・通信などライフラインにも影響がでてくるかもしれない。

在留日本人の現状とこの国の行方
 4月12日の時点で、21人が新型コロナに感染したという数字がある。これはヤンゴンの日本大使館が把握している数字だ。また、1人がヤンゴンの病院に入院している。ただし、コロナに感染しても大使館に届け出を出していない日本人がいるので、実際には21人よりも多いはずだ。ミャンマーに滞在している日本人は、正確な数字ではないが、600〜700人ぐらいだと思われる。

 日本へ帰国できる航空便として、8月6日にヤンゴン発成田行きの全日空便がある。7月15日時点では残席があり、予約が可能だ。

 他方、シンガポールは7月16日からミャンマー滞在歴のある乗客は入国も乗り換えも禁止になったため、シンガポール経由で日本に帰国するというルートはなくなった。韓国・仁川経由便とマレーシア・クアラルンプール経由便は、今のところ飛んでいる。

 ところで、7月13日に日本大使館から在留邦人向けに届いたメールがある。

 「新型コロナウイルス感染症(一時帰国の可能性の検討の推奨)」というタイトルで、「在留邦人の皆様におかれては、上記の状況を踏まえ、当地において真に必要かつ急を要する用務等がない場合には、一時帰国の可能性を検討されることをお勧めします」と書かれていた。
 回りくどい文章だが、「早くミャンマーを離れたほうがいい」と言っている。

 このまま軍の支配が続くと、ミャンマーは大変な事態に突入してしまうだろう。これは、新型コロナに対して国が何も対処しないとどうなるという実験だ。考えるだけでも恐ろしい。

 今、コロナという国民にとっても軍にとっても共通の敵が現れた。軍と国民が一時停戦し、共同でコロナに立ち向かうことができるかもしれない。

 最後に、軍がコロナによって自壊してしまうかもしれないという、かすかな希望がある。

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